KAGAYA-星空を追いかけて-小山宙哉の宇宙兄弟

第一回 星空を追いかけて

2016.01.17
text by:編集部コルク
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第一回 星空を追いかけて

星景写真ファンをはじめ、宇宙好きにとって、真っ先にフォローしたくなるTwitterアカウントがあります。プラネタリウム映像クリエイターにしてCG作家、そして星景写真家のKAGAYAさんです。
世界のいろんな場所から撮られた星景写真の数々には「宝石箱をひっくり返したような星空」、「私もオリオンを追って赤道を越え、南の果てへと旅したい」、「KAGAYAさんが伝えてくれる星はいつだってはっきりと迷いがなくて強い」といったコメントが寄せられ、そのフォロワー数は約18万人です。子どもの頃から、星空を見上げては絵に描くのが好きだったというKAGAYAさん。彼は自分の思い描いた想像の世界に、カメラを持って出かけてゆきます。
富士山から南極に至るまで、星空を追いかけるKAGAYAさんのさまざまなエピソードを、小山宙哉公式サイトでは毎月コラムでお届けします!

2014年2月、私はひとり、北極圏の夜空にカメラを向けていました。気温はマイナス25度。探検隊のような防寒具に身を包みます。また極低温の世界は、人間の体だけでなくカメラにとっても命取りです。何も対策をしなければカメラはたちまち動かなくなり、10分でバッテリーが切れ、コードのゴムが固まって、無理に曲げると折れて使い物にならなくなります。電気式と桐灰式のカイロを重ね合わせてカメラ機材を保温し、極低温の夜で8時間、ひとりで夜空を見つめ、待ち続けます。

静寂に包まれた北極圏の夜空を天の川が彩り、オーロラの色彩が広がるまで――。

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私は子どもの頃、毎晩自分の部屋の窓から夜空に天体望遠鏡を向けていました。望遠鏡は夜空に浮かぶ月を見つめています。クレーターに覆われた異世界の光景を手元のスケッチブックに、飽きることなく何枚も描き落としていきました。視線をスケッチブックに落としていると、地球の自転によって、月は少しずつ望遠鏡の視野からずれていきます。望遠鏡を少し動かし、そしてスケッチの手を動かす。そうして月を追いかけている時間が本当に楽しかった。月の表面のことを自分の庭のように感じていました。

カメラが好きで、絵を描くのが好きで、旅行が好きで、月や星が好きで、勉強や仕事はその後。それは私が子どもの頃から変わりませんでした。

大人になった私は、スケッチブックには収まらない、巨大な月面図を描きました。いつか月へ行ってみたいという気持ちを抱きながら、望遠鏡で見えるクレーターをすべて描き込みました。想像の中で、私は月の上のいろんな場所を旅し、宇宙空間にぽつんと浮かぶ地球を見つめ、月の地平線を彩る日の出や日の入りに憧れてきました。

おそらく宇宙旅行はこれからの20年で、今より遥かに身近なものになるのでしょう。しかし、月となると話は違ってきます。まだまだ当分の間、月へはさまざまな幸運が重ならない限り、行くことはできないのでしょう。そもそも私が生きているうちに行けるのかどうかも分からない。私にできることは、絵で月を追いかけて、時代を待つしかないのです。

CEKby5cVIAAGy0oカメラで捉えた月の全球写真
絵はどこまでも自由で、私の想像から始まります。これまで見てきた懐かしい風景や、いろんな場所へ行った時に感じたこと、いろんな記憶から、ふわりと浮かんでくる。頭の中の想像の風景をスケッチに描き出してゆき「これを絵にしよう」思えるものを本格的に描き始めるのが私のスタイルです。

絵は私が思い描いた通りに構成することができますが、それらは全てが現実味のないファンタジーではありません。想像の中から生まれた、いわば存在し得ないものを描くためには、存在し得るものとは何か、そしてどう存在するのかを知る必要があります。その時に役に立つのは、自分の目で見た、この世界の姿なのです。私は、かつて自分が撮った星空や自然の写真を見ながら絵を描いていきます。資料が足りなければ、富士山でも南極でも、自分で撮りに行きます。想像の中の雲や山を描こうとする時に必要なことは、自分の足でその景色を見に行くことなのです。


kagaya01『サウザンクロス』 「銀河鉄道の夜」より
そうして私はいつしか写真を撮りながら世界を見て回るようになりました。幼い頃から好きだったカメラを持って、自分が出会いたい風景を求めて世界中を旅しました。モアイ像を見にイースター島へ足を運び、イルカといっしょに海を泳ぎ、南極の静寂に包まれる中で地球を惑星として見つめ、様々な表情と出会いました。その先々で大好きな星空を見つめました。そんな私の旅をまとめたものが、初の写真集である『星月夜への招待』でした。

私の写真の撮り方は、絵の描き方と似ています。最初は「こんな写真を撮りたい」という想像から始まります。たとえば写真集『星月夜への招待』の表紙の風景も、最初は私の想像の中にあったものでした。美しい天の川が流れる満天の星々が水面に映り、夜空に赤い光が広がっている風景が浮かんだのです。

次に、それは何なのか、この世界のどこへ行って、何をすればその風景と出会えるのかと考えます。夜空の赤い光はきっとオーロラです。オーロラと言えば北半球の北極圏をすぐに思い浮かべることができます。しかし、実は北半球の星空は静かで地味なのです。天の川の中心があるのは南半球の空で、北半球では天の川は地球の裏側に隠れてしまう。美しい天の川とオーロラが同時に見え、水面にそれらが映り込むような場所は南半球。タスマニアやニュージーランド、南極あたりです。

私は時期的なことも考え、ニュージーランドへ行くことにしました。そして水面の反射を得るために、Google Earthで波の立たない静かな湖を舞台に選びました。カメラは南に向けなければならないため、南側に開けている地形を探します。こうして、オーロラの偶然を待つために最適な場所を計画的に決めていきます。この時期のオーロラが見られるタイミングは1ヶ月のうち僅か1、2回。12日間くらいの旅行を組みました。実はこの準備が最も楽しいひとときだったりします。いろんな妄想が頭に浮かび、計画に落とし込んでいくことは、実にワクワクする楽しさがあります。地球に存在する色彩をつかって、想像に色塗りをしていくようです。

現地に着いた私は天気とオーロラ、風のない日という何重もの条件が重なる場所に立ちました。すると、ほんとうに夜空に赤い光が広がり始めました。オーロラが出たのです。たまたまオーロラを起こす「磁気嵐」が起こったのです。夜空にはそのまま光の粒になって落ちてきそうな星々が、天の川となって輝いている。湖はそれらの光を柔らかく反射していました。私は夢中でシャッターを切りました。ファインダーごしに見えたその景色は、私が想像の中で見たものと本当にそっくりでした。
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こんな風に私は星空を追いかけて、絵を描くように、写真を撮ってきました。絵に描いたような世界も、もちろん、たくさんの偶然が重なる必要はあるけれど、決して写真に撮ることの出来ない世界ではないのです。
絵に描いたような世界を、私はどんなふうに写真に撮り、また、描いてきたかをこれからお話していきたいと思います。


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写真集『星月夜への招待』
 

スマートフォンの画面ごしに展開する天体写真の数々を、フォロワー約17万人が見つめている。
KAGAYAさんのtwitterアカウントはこちらから。

(つづく)

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