宇宙ステーションと地上を結んだ、金井宇宙飛行士へのスペシャルインタビュー
金井宇宙飛行士が国際宇宙ステーションでの滞在を始めて4か月が過ぎた。その間、老朽化したロボットアームの部品を交換するため、日本人としては約5年ぶり4人目となる船外活動も経験。日々、数々の宇宙実験やミッションを精力的にこなしている。
「宇宙兄弟リアル」では、そんな金井さんに貴重なお時間を頂き、メールによる取材を敢行した。
●今、地球の風景はどのように見えますか?
金井「最近は忙しくて、窓の外を見ることもしばらくしていませんでしたが、先ほど少しの間ですが、久しぶりに地球を眺めてきました。真っ赤なアフリカ大陸に始まり、オーストラリアの砂漠を通過して、凍てつくカナダの大地から、サンゴ礁の美しいカリブ海の島々へと、次々に移り変わっていく風景は実に目まぐるしく、単調に思える海の上を飛行しているときでも、たとえば雲の形をとっても一つとして同じものはなく、見飽きることはありません」
●『地球を眺める』という言葉、よく考えたら素敵な表現ですね!地上に暮らしてる僕には言えない言葉です
金井「宇宙といっても、地上からさほど距離のない低軌道(約400kmの高度)を飛行しているせいもあるのかもしれませんが、ダイナミックな表情の変化を見せる地球の多様性には驚きを覚えます」
●ところで船外活動のミッション、無事に成功されおめでとうございます!NASA TVのネット中継で拝見してました。ある意味、「体ひとつで宇宙へ出る」という感じだったと思いますが、率直なところいかがでしたか!?
金井「幸運にも、船外活動で宇宙服を着て宇宙ステーションの外に出て作業をする機会を得ました。地上での訓練では、大きなプールの中で浮力を使って微小重力の環境を模擬して、たくさんのサポートダイバーに補助してもらいならが作業を実施しますが、パートナーの宇宙飛行士に続いてハッチを出ると、ただ真っ暗な宇宙空間が広がっているだけで、ここには自分たち2人しかいないんだという強い孤独感がありました」
●孤独感ですか。言われてみれば、実際あのとき宇宙空間に飛び出て仕事をしていたのは、人類で2人だけですよね
金井「一方で、眼下に広がる地球の姿は、ただただ大きく、この世のすべての生命がこの星で育まれてきたことを考えると(地球外生物も、もしかしたら存在するのかもしれませんが)、とてつもなく大きな存在感を放っていたのが印象的でした」
●確かに、すべてを育んできた星ですよね。宇宙ステーションでの毎日は順調ですか?
金井「宇宙ステーションの船内での生活は、驚くほど普通です。閉鎖環境に隔離されていることと、微小重力環境であることを除けば、寝て、起きて、食事をして、仕事をして・・・という毎日の営みは、地上と何ら変わりはありません。よくよく考えると、われわれは何千年という歳月をかけて文明を築き、今のようなライフスタイルを確立してきたのですから、宇宙に出たからといって、急にそれが大きく変わるようなものでもないのかもしれません」
●まさに仕事で宇宙へ出張中という感じですね
金井「そもそも地上と宇宙の境界というのも実に曖昧なもので、大きな視点に立ってみれば地球だって、大きな宇宙(ユニバース)の一部です。地上で生活していても、宇宙ステーションで生活していても、宇宙の中に生きているという点では同じことです」
●なるほど。みんな地球上にいながらも、実際は宇宙の中に生きているんですね。正直、あまり考えたことのない概念でした。でもそう考えると、金井さんが今いる場所が身近に感じられます。妙な感覚です
金井「国際宇宙ステーションは、もう18年にわたって途切れることなく人類が宇宙空間に滞在を続けてきました。また、宇宙飛行士だけでなく、宇宙研究の一環でさまざまな動植物が育てられています。窓辺に座って地上の移り変わるさまを眺めていると、大昔に海の中で誕生した『生命』が陸上に生存圏を広げて来たように、長い歴史の中で、今まさに、『生命』は地球を飛び出して宇宙空間に生活空間を広げようとしているのではないかという考えがめぐります」
●人類が宇宙空間に住み始めて、もう18年になるんですね
金井「今の自分には真っ暗で孤独を感じる宇宙空間も、何千年何万年ののちには、さまざまな惑星や衛星あるいはその軌道上に生命が繁栄する、とてもにぎやかでダイナミックな場所に見えるようになるのかもしれません」
●金井さん、お忙しい中ありがとうございました。どうぞお体には気を付けて下さい。宇宙出張からのお帰りをお待ちしております!
金井「宇宙出張、残りあと1か月ちょっとなりましたが、最後まで精一杯頑張ります。ありがとうございました!」
【宇宙ステーション滞在中、リアル】
地上と変わらぬ、毎日の営み
日本時間2月16日午後9時過ぎ、金井さんはISSのハッチを開き、宇宙空間へと足を踏み出した。これからおよそ6時間半のぶっ通しで、船外活動のミッションが行われるのだ。
NASA TVのネット配信による生中継で、僕はその様子を見守っていた。こんな光景を自宅のリビングで、しかも生で、そして気軽に見ていることに、少し違和感を覚えながらも、漆黒の闇の中で、ライトに照らされて白く浮かぶ船外活動服を見つめていた。金井さんは、ゆっくり正確に、慎重に動いている。こちらにも緊張感が伝わってくるようだ。
画面は俯瞰から、宇宙飛行士目線の画面に切り替わったりする。船外活動服のバイザー付近にカメラが取り付けられているのだ。
不意に、手もとばかりが映っていた金井さん目線のカメラ画面に、眼下の地球が映り込んだ。その優しい碧い輝きに、安堵を覚えた―――。
船外活動を経験した金井さん。ハッチを出て宇宙空間へ飛び出した時の心境について、「自分たち2人しかいないんだという強い孤独感」と答えた。確かにあの時、船外活動中の人間は本当に2人しかいなかったのだから、孤独以外のなにものでもなかったと想像できる。
その一方で、バイザー越しに見える眼下の地球に目を移した時、「この世のすべての生命がこの星で育まれてきたことを考えると、とてつもなく大きな存在感を放っていた」と感じたと言っている。『母なる地球』ということだろうか…。確かなのは、自分はあの時その地球上にいて、宇宙で働く人間(金井さん)を見つめていたということだ。
人類が宇宙空間に住み始めて、18年。金井さんに言われて「もうそんなになるんだ」と感じた。その一方で「人類は地球を飛び出す必要があるのか?」という意見もあるのは確かだが、「やっぱり宇宙へ飛び出すんでしょうよ人類は!」と、個人的には強く感じている。
でも本当の意味で「人類がその生存圏を宇宙に広げた」と言うためには、まだまだこれからなのだろう。低軌道領域から深宇宙へと進出するためには、テクノロジーの面においてブレイクスルーが必要だし、進出することと平行して地球上の諸問題を片付けておかなければ、単に『宇宙への逃避』でしかない。
「寝て、起きて、食事をして、仕事をして…」。
「誰しもが簡単に宇宙へ行き、利用できる時代に」という夢(目標)を抱き、今日も宇宙ステーションで地上と変わらぬ毎日の営みを淡々と続けている金井さん。金井さんにとっては、まだ夢の途上にいるのだろう。
そしてその先には、
「今の自分には真っ暗で孤独を感じる宇宙空間も、何千年何万年ののちには、さまざまな惑星や衛星あるいはその軌道上に生命が繁栄する、とてもにぎやかでダイナミックな場所に見えるようになるのかもしれません」
その言葉通りの未来を夢想しているに違いない。
――金井さんの6時間半に及ぶ船外活動ミッションをリアルタイムで応援する、というのが自分のミッションだった。真夜中。ビクッと飛び起きて目を覚ますと、机に突っ伏して眠りこけていた自分に気付く。時計は日本時間17日午前2時を過ぎていた。すでに船外活動は山場を乗り切り、終盤に差し掛かっていた。パソコン画面に、NASA管制室で金井さんの船外活動を支援していた星出宇宙飛行士の満足げな笑顔が映っている。
自分、ミッション失敗…。
お知らせ
金井宇宙飛行士のツイッターでは、ISSでの生活の様子、ミッションの報告、見飽きることのない地球の光景、ツイッター上で寄せられたさまざまな質問への回答など、宇宙ステーションから日々更新されています!
【宇宙兄弟リアル】が書籍になりました!
『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を、『JAXA』の中で探し出し、リアルな話を聞いているこの連載が書籍化!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けいたします。
<筆者紹介> 岡田茂(オカダ シゲル)
東京生まれ、神奈川育ち。東京農業大学卒業後、農業とは無関係のIT関連の業界新聞社の記者・編集者を経て、現在も農業とは無関係の映像業界の仕事に従事。いつか何らかの形で農業に貢献したいと願っている。宇宙開発に関連した仕事では、児童書「宇宙がきみをまっている 若田光一」(汐文社)、インタビュー写真集「宇宙飛行 〜行ってみてわかってこと、伝えたいこと〜 若田光一」(日本実業出版社)、図鑑「大解明!!宇宙飛行士」全3巻(汐文社)、ビジネス書「一瞬で判断する力 若田光一」(日本実業出版社)、TV番組「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)、TV番組「宇宙世紀の日本人」(ヒストリーチャンネル)、TV番組「月面着陸40周年スペシャル〜アポロ計画、偉大なる1歩〜」(ヒストリーチャンネル)等がある。
<連載ロゴ制作> 栗原智幸
デザイナー兼野菜農家。千葉で野菜を作りながら、Tシャツ、Webバナー広告、各種ロゴ、コンサート・演劇等の公演チラシのデザイン、また映像制作に従事している。『宇宙兄弟』の愛読者。好きなキャラは宇宙飛行士を舞台役者に例えた紫三世。自身も劇団(タッタタ探検組合)に所属する役者の顔も持っている。
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