『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第1章 どんな人でも必ずリーダーになれる(3/4)
私たちの「Want(~したい)」という思いを、頭ごなしに否定する「ドリームキラー」の正体とは? そして、ドリームキラーに遭遇した際の対処法とは?「自分は知らないうちに、誰かのドリームキラーになっていないだろうか?」と、思わず考えさせられるエピソードも登場します。
悪意のない 「ドリームキラー」には要注意!
物事を「Want」で語る習慣を身につけることでリーダーシップは磨かれていき ますが、当然のことながら、そのすべてが叶うわけではありません。
反対意見も出ますし、それによって議論が起こることもあるでしょう。ですが、チームの発展につながるので素直に歓迎すべきだと思います。その結果、自分の意見が通らなくても、それは意義のある「Want」なので、気にすることはありません!
ただ注意したいのは、「Want」や夢を頭ごなしに否定する、「ドリームキラー」 という存在。
彼らは、「そんなの無理だよ」「やめておきなよ」「そんなこと言っていないで、〜 したほうがいいよ」といった言葉で、「Want」を打ち消していきます。
ですが、そこに悪意や敵意はなく、むしろ相手を心配して助言しているつもりでい ることがほとんど。「あなたの〝Want〟には共感できないけれど、それに対する 独自の主張もない」という人たちなので、あまり議論にも発展しません。
人生で最初に出会うドリームキラーが親ということもあるし、学校に入れば教師、 社会に出れば上司、独立すれば同業者などが、こうした悪意のないドリームキラーとして登場することもあります。
六太の場合、ドリームキラーは高校時代の友人や教師でした。
サッカー部の友人たちと下校する途中、六太は高校卒業後の将来について友人から聞かれ、「一応、宇宙飛行士……」と答えます。
このとき流れた微妙な空気と、「え……マジで言ってる?」という友人の言葉に、 六太は押し黙ってしまいました。そしてとどめは、進路相談での教師からの言葉。
「いや別にいいんだよ?大きい夢を持つのは。ただな〜〝宇宙飛行士”——ってお前……言うのは簡単だけどさあ〜。心の中の夢として隠しとけ。人前で言うとイタい奴だと思われるぞ?」 見事なまでのドリームキラーっぷりですね……。
進路相談でこれをやられたら、とてもじゃないですが、自分で進路を選択する気なんてなくなるでしょう。こうして否定された六太は、夢を「Want」として語ることはなくなりました。
じつはこのエピソード、月へと打ち上げられるロケットの船内で、六太の回想として描かれています。高校時代に、たった一度だけ日々人と殴り合いをしたケンカの理由も同時に判明するのですが、『宇宙兄弟』ファンとしては、打ち上げのドキドキ感と相まって、何度読み返しても胸が熱くなり感動するシーンです。
ドリームキラーに関しては、理解してもらおうと無理に対処する必要はありません。
「出たな! ドリームキラー!」
そう心の中で叫び、受け流しておけば十分。
大事なのは、相手の言葉に自分が振り回されてしまわないことです。ドリームキラ ーという存在を知っていれば、いざそういった機会が訪れても動じないで済みます。
「ああ、この人はドリームキラーなんだな」と、認識するだけでいいのです。
「Want」で始まるリーダーシップは、ドリームキラーを説得するためではなく、そこに共感しフォロワーとなってくれる人たちに向けて発揮しましょう!
〜心のノート〜
ドリームキラーという存在を認識していれば、 いざ現れてもダメージを回避できる!
心を揺さぶる存在「シェイカー」を目指そう
さて、先述のドリームキラーとは反対に、「魂を揺さぶられる」「一緒にいると(見ていると)頑張ろうと思える」人たちが存在します。
こうした人のことを、「シェイカー」と呼びます。
シェイカーは身近な人とは限らず、アーティストやミュージシャンであることも。たとえ面識がなくても、その存在から元気をもらえたり、作品から影響を受けたりすることもあります。『宇宙兄弟』の作者・小山宙哉さんは、多くのファンにとってまさにシェイカーです。
これは僕が実際にワークショップで実践していることですが、「あなたにとってシェイカーは誰ですか?」という質問をするのです。それに対しては、みなさん、わりとすぐに答えることができます。ところが、「あなたは誰をシェイクしていますか?」 と聞くと、一様に考え込んでしまうのです。中には悩んだ末に、「いないと思います」 と答えた人もいました。
そこで僕は、
「いないと思うでしょ? でも今この時間、僕はあなたからシェイクされています。 ここにいるほかの人たちもシェイクされているんです」
と、タネ明かしをします。
シェイクしているか、していないかの事実は別として、「自分は誰をシェイクしているのか?」と考えてもらうことが、この質問の目的なのです。「自分は他人に影響を与える存在なのだ」と、自覚してくれればそれでOK。
リーダーシップは「自分の得意分野や強みを活かして、人に影響を与える」ことです。ただし、その方法は相手を自分の都合のいいようにコントロールすることではなく、シェイクすることだよ、ということをぜひ覚えておいてください。
六太にとってのシェイカーは、幼い頃から六太や日々人の成長を見守り、宇宙のおもしろさを教えてくれた、天文学者の金子シャロンです。
その関係は六太が大人になってからも続いていて、シャロンは彼の人生のさまざまなターニングポイントで大きな影響を与えています。とても魅力的なキャラクターで、ある意味、『宇宙兄弟』ファンにとってもシェイカーかもしれませんね。
シャロンの名言は本当に数多くありますが、ここで紹介するのは、小学生だった六太が「どちらが正しいか?」と悩んでいたときの彼女の言葉です。
「頭で考えなきゃいいのよ、答えはもっと下」。そう言って胸に手を当てたあと、「“ど っちが楽しいか”で決めなさい」と、笑顔で伝えました。
この経験はのちに、宇宙飛行士選抜試験の重要な局面で、六太に大切なヒントを与えてくれることになります。
僕はこのシャロンの言葉を、リーダーシップにも通じると感じました。
もちろん、「正しいか、間違っているか」で判断したほうがよいこともあります。
でも、「どっちがより楽しいか」で決めたことは、その結果がどんな形であれ、受け入れることができるもの。
たとえそれが望んでいたものではなかったとしても、です。
あなたは誰をシェイクしていますか?
これからシェイクしたい人は誰ですか?
〜心のノート〜
相手を自分の都合でコントロールするのはNG!相手の心を震わせることができるのが、リーダーシップ。
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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。
カリスマ的な存在感もなく、リーダーとは無縁のタイプ。でもなぜか“彼”がいると、物事がうまくいく……。累計2000万部を誇る人気コミック『宇宙兄弟』に登場するキャラクターや数々のエピソードを、「リーダー」という視点から考察した書籍『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』。目まぐるしく変化し先が見えない現代で、「正解」を模索する人たちへの生き方・働き方のヒントとなる話題の本書を、『宇宙兄弟』公式サイトにて全文公開!
<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。
企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。
文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。