『宇宙兄弟』には、ムッタを始めとする宇宙飛行士たち、また宇宙開発に従事する人々が、宇宙への夢と情熱を胸に、さまざまな困難に直面しながらも仲間と共に乗り越えていく様子が感動的に描かれています。彼らが壁にぶちあたり、その壁を乗り越えた瞬間を『宇宙兄弟リアル』では、「『宇宙兄弟』的、瞬間」と呼び、実在の人物が実際にどんな壁に遭遇し、そのとき何を考え、どう乗り越えたのか?また壁を乗り越える糸口となった人との出会いや言葉などを、具体的なエピソードを交えて紹介します。
今回は国際宇宙ステーション(ISS)へ物資を運ぶ無人補給機HTV(こうのとり)のプロジェクトに、設計から携わってきたチーフエンジニア兼HTV技術センターセンター長・植松洋彦さんの「『宇宙兄弟』的、瞬間」を伺いました。
〈宇宙兄弟リアル〉植松洋彦/チーフエンジニア ~宇宙船開発に捧げた技術者魂~
演じてみる
HTVはこれまで7回連続でミッションを成功させていますが、それは現場の人間たちが一致団結し、いくつものトラブルを乗り越えた上でつかんだ成果といえます。
3号機では、ミッション中に片方のエンジンが故障。もう片方にトラブルが起きれば、コントロール不能になり、まさに両手両足をもがれた状態に陥る危機がありました。その対応に追われていたとき、廊下をまっすぐに歩けていない自分に気づきました。まっすぐ歩行しているつもりなのに、どうしても斜めにズレて進んでしまうのです。人間は追い詰められると、こんな状態になるのかと、身をもって経験しました。
4号機でも、小さなトラブルは山ほどありました。20分間で原因を突き止めて復旧しないと、ISS到着のタイムスケジュールが守れなくなるという状況に陥ったのです。心臓がバクバクして、嫌な汗が出ました。口もカラカラに乾き、声も上ずります。しかし自分が慌てると周りも慌ててしまいます。供給過多のアドレナリンをコントロールしようと思ったものの、そんな方法など知りません。できたのは、落ち着いた自分を演じることだけでした。役者ではありませんが、落ち着いた人間を演じれば、自然に素の自分もその状態に近づいていくと思ったのです。結果、意外に功を奏したことを覚えています。
難しい問題の『解』はそうやすやすと見つけられるものではありません。それに今できると思うことだけを並べると、選択肢は狭まります。『できるかできないかわからないし、まだやったことはないが、可能性としてアリかも』という策もすべて絞り出し、落ち着き(を演じ)、状況を整理することが大切なのです。
『宇宙兄弟リアル』次回登場のリアルは!?
NASA宇宙飛行士室長/ジェーソン・バトラー、のリアル!
次回の『宇宙兄弟リアル』は、NASA宇宙飛行士室長/ジェーソン・バトラーのリアル、油井亀美也さんが登場。
NASAの宇宙飛行士室長として、多くの宇宙飛行士たちの想いを背負いながら、ミッションのアサインに関する重要な判断を下しているジェーソン・バトラー。彼もまた数々の宇宙ミッションを経験した宇宙飛行士であり、若かりし頃はアメリカ空軍の戦闘機パイロットでもあった。一方、JAXAの宇宙飛行士グループ長を務める油井亀美也さんも、前職は航空自衛隊の戦闘機パイロット。戦闘機を操り大空を駆け巡りながらも、ずっとその胸に秘めていたのは、幼き頃から夢見ていた『宇宙飛行士として宇宙を飛ぶ』ことだった。新米宇宙飛行士にもかかわらずグループ長に就任し、その苦労と喜びを経験する中で見つけた宇宙飛行士としての今後の目標を熱く語り明かす! 乞うご期待!!
ご本人に質問したい事があれば、筆者ツイッター(@allroundeye)に書き込み下さい。読者の皆さんから頂いた質問内容を可能な限り反映してインタビューを進めて参ります!また連載に関して感想・希望などあれば合わせてお寄せ頂ければ幸いです。頂いたご意見を交え、さらに充実した連載にしていきます。
『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を、『JAXA』の中で探し出し、リアルな話を聞いているこの連載が書籍化!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けいたします。
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<筆者紹介> 岡田茂(オカダ シゲル)
東京生まれ、神奈川育ち。東京農業大学卒業後、農業とは無関係のIT関連の業界新聞社の記者・編集者を経て、現在も農業とは無関係の映像業界の仕事に従事。いつか何らかの形で農業に貢献したいと願っている。宇宙開発に関連した仕事では、児童書「宇宙がきみをまっている 若田光一」(汐文社)、インタビュー写真集「宇宙飛行 〜行ってみてわかってこと、伝えたいこと〜 若田光一」(日本実業出版社)、図鑑「大解明!!宇宙飛行士」全3巻(汐文社)、ビジネス書「一瞬で判断する力 若田光一」(日本実業出版社)、TV番組「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)、TV番組「宇宙世紀の日本人」(ヒストリーチャンネル)、TV番組「月面着陸40周年スペシャル〜アポロ計画、偉大なる1歩〜」(ヒストリーチャンネル)等がある。
<連載ロゴ制作> 栗原智幸
デザイナー兼野菜農家。千葉で野菜を作りながら、Tシャツ、Webバナー広告、各種ロゴ、コンサート・演劇等の公演チラシのデザイン、また映像制作に従事している。『宇宙兄弟』の愛読者。好きなキャラは宇宙飛行士を舞台役者に例えた紫三世。自身も劇団(タッタタ探検組合)に所属する役者の顔も持っている。