『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』最終章 魅力的なリーダーが備えているもの(2/2) | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』最終章 魅力的なリーダーが備えているもの(2/2)

2018.07.06
text by:編集部コルク
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本連載もいよいよ最終回! ラストは「仲間をアシストするときにやりがちなNG行動」や「人生のリーダーシップ」がテーマ。著者・長尾彰が『宇宙兄弟』をとおして本書に込めた、あなたへの熱いエールを胸に、いざ人生のハンドルを握っていきましょう!

アシストでやりがちな NG行動とは

魅力的なリーダーには、物事をリードするだけでなく、仲間をアシストする力も備わっており、この「アシスト力」には2つの意味があります。

1つ目は、「他人の仕事を手伝う」こと。
その言葉通り、メンバーの仕事をアシストするという意味ですが、大切なのは、自主的に行っているということ。誰かの指示によるものや、強制的に他人の仕事を手伝 わされている状態では、アシスト力にはなりません。自己犠牲ではない自主的かつ厚意によるアシストこそがメンバー同士の信用を生み、信頼へとつながります。

また、せっかくのアシストも「干渉」するのはNGです。仕事の主導権は、相手にあることを忘れずに。
「私がアシストしたから、うまくいったんだ!」
そんな自己満足を抱きたくなる心理、わからなくもないですが、相手が自分の成功体験として味わえるよう、あくまで「介入」に留めておくようにしましょう。

2つ目の意味は、「自分の仕事をやり切る」ことです。
「自分の仕事なのにアシスト?」と、疑問に思う人もいるかもしれませんね。
しかし、自分に任された仕事をしっかりとやり切ることは、チームにとって立派なアシストになります。 「〇〇さんには、安心して仕事を任せられる」という信頼があるからこそ、ほかのメンバーも自分の仕事に集中し、各自が強みを発揮できるのです。

六太はこの「アシスト力」を本当にうまく発揮していますね。
該当するエピソードは数多くありますが、僕がとくに六太らしいなと感じたのは、 ISSでのミッションに参加していたせりかが、製薬会社の社員によって仕組まれた噂の流布により世間からの猛バッシングに遭い、苦しんでいたときの対応です。
インターネットやメディア上で誹謗中傷に晒され、そのせいでタンパク質結晶化の実験の中止にまで追い込まれていたせりかに対し、六太は動画でメッセージを送ります。
ここで六太が伝えようとし たのは、JAXAの宇宙飛行士選抜試験で共に過ごした濃密な時間や、同じ志を持つ仲間と出会えた喜びを思い出さ せるものでした。せりかの身の潔白を世間に証明するようなアクションではなく、彼女自身の意識を変化させようとしたのです。

せりかはこの動画を観て、中止命令の出ていた実験を独断で再開させます。この行為は、二度と宇宙に行けなくなる可能性さえもはらんでいましたが、彼女は毅然とした態度でJAXAの管制室にこう告げました。
「この先、誰に何と言われようと、誰も何も言ってくれなくても、私はやります」

その後も世間からのバッシングは続きますが、タンパク質結晶化の実験に成功したことを機に、徐々に鎮静化していきました。
六太のすばらしい点は、せりかが動画を観ることで仕事に向き合えるようアシストしながら、ちゃっかり自分の仕事もこなしていること。アップされた動画は、『週刊 ムッタ』というJAXAが公開しているオフィシャル動画なので、自分の仕事をやり切った上で、せりかのことを励ましているわけです。

このように、六太があらゆる場面でアシスト力をスマートに発揮できるのには、日頃から相手をよく観察しているという習慣が大きく役立っています。
六太は、宇宙飛行士と管制室を結ぶキャプコム(宇宙船通信担当官)の任務についた際、宇宙飛行士のビンスとのコミュニケーションに悩んでいたことがありました。 どうすればうまくやっていけるのかと模索していた矢先、ビンスの妻・ベリンダの姿にヒントを得ます。
彼女は、ビンスが何かを言おうとする前にその意図を理解し、要求に応えていまし た。ベリンダいわく、「あの人のこと、じーっと観察して観察して、そして観察した」 結果、何を欲しているのかがわかるようになったと言うのです。
もともと観察力が大変優れている六太ですから、さっそくビンスの動きを注意深く観察することで、彼のやろうとしていること、やりたいことを先読みできるようになっていきました。彼のちょっとしたそぶりで手順書を探していることを見抜いた六太は、それとなく場所を伝えるなどのアシストぶりを発揮し、ビンスからの信頼を得ることができたのです。
観察するということは、その人に対して深く興味を持つということ。
どのようにアシスト力を発揮すればいいのかわからない場合は、まずこの「観察する」ことから始めてみるのもいいかもしれませんね。
六太やベリンダのように、相手の欲することが自然とわかるようになると思います。
前述したように「アシスト」は自己犠牲や自己満足を目的にしては成り立ちません。自分を犠牲にしてしまうと、「私はここまでやってあげたのに」と、それに対する見返りを期待してしまいます。

相手の仕事がうまくいくように手伝う。
でもそれ以上は干渉しない。なぜなら、自分の力でちゃんと乗り越えられることを 知っているから ——。
これこそまさに、相手を信頼している証でもあるのです。

〜心のノート〜
アシストに自己犠牲や干渉は禁物。相手を信頼して いるからこそ、最後まで見守る姿勢を貫こう。

 

リーダーとして生きることは、 やっぱりおもしろい

「あなたが本当にやりたいことは何ですか?」
この質問にすぐ答えることができるのであれば、なんの心配もいりません。
きっともう、人生のハンドルを自分自身で握れているはずです。

『宇宙兄弟』で、この答えをブレずに持ち続けた人物は、間違いなく日々人です。
幼い頃から、「僕は絶対、宇宙飛行士になります!」「絶対、宇宙に行きます」「月にも絶対に行きます」と、言い続けてきた日々人。
かつて六太は、そんな日々人に「世の中に“絶対”なんてないんじゃねーかなぁ……」と諭すように投げかけますが、日々人は動じることなく、こう答えました。
「(絶対は)俺ん中にあるから」
日々人にとって「絶対」とは、世間ではなく、自分の中にあるものだったのです。
日々人のように、自分の中に「絶対」を持ち、その夢に向かって走ることができるのなら、それはとてもすばらしいこと。

でも僕たちはやはり、六太のように迷い、悩み、ときには自信をなくして道を見失ってしまいます。それは悪いことではありません。
もし、あなたが「やりたいことがわからない」と言うなら、まずはワクワクできることを探してみましょう。
楽しみや喜びを感じられることこそが、あなたの「やりたいこと」です。
誰かに与えられた目標やゴール、夢や希望ではなく、本当に自分が求めているものがわかったとき、見える世界は大きく変わります。
宇宙飛行士の夢へと突き進む弟の背中を見続けてきた六太が、「俺は今まで、何がやりたかったんだろうか……」と自分に問いかけ、「宇宙に行きたい」と自覚したときから、彼の世界が変わったように。

もちろん、僕たちは社会という巨大な組織に属しているわけで、日常のすべてを自分のやりたいことで埋め尽くすのは難しいでしょう。
でも、その中で「ワクワク」を見つけることは絶対にできるはずです。

問題児ばかりが集まったジョーカーズのリーダー・エディは、はじめてクルーに合流した際、その惨状を見てひと言、「いいねえ、ワクワクしてきた」と言いました。やがて彼らは月面で、見事なチームワークにより数々の偉業を成し遂げます。
たとえ望んでいない環境であったとしても、「自分がやりたいこと」を見つけるために、「ワクワクしてきた」と声に出してみるのは大変効果があります。
つらいとき、苦しいときは、噓でもいいのです。そう言い続けているうちに、本当にワクワクしてきますから。どうか騙されたと思ってやってみてください。

今いる世界を楽しめるか、受け身で過ごすかは、自分次第。
自分らしいリーダーシップがわかれば、あなたはこれから先、どんな社会でも、ど んなチームの中でも「リーダー」として生きていけるはずです。
さあ、人生のハンドルを自分で握りましょう!

〜心のノート〜
リーダーシップを磨けば、どんな社会も生きていける!あなたの人生のリーダーは、あなたしかいない。

おわりに

本を「あとがき」から読む派のみなさま、はじめまして、長尾彰です。本書を手に取っていただきありがとうございます。この本は、次の3つの事柄について書きまし た。
①完璧なリーダーはいらないこと。
②率先垂範、完璧なリーダーを目指す代わりに、肩の力を抜いて、等身大で自然なリーダー像で支援的・促進的に他者と関わること。
③等身大のあなたらしいリーダーシップを活かしたチームを作ること。

本を「目次から」読む派のみなさま、最後まで読んでいただきありがとうございます。いかがでしたか?僕はたくさんの企業や組織のチーム作りの支援・促進をしてきました。そして一人ひとりがシェイカーになってお互いに支え合えるような、リー ダーのあり方が求められていることを痛感しています。
「こうあらねばならない」という確固たる姿を目指すよりも、あなたらしさと相手との関係性に応じたリーダーシップを発揮することが、個と組織の成長を大きく促すことができるはずです。 ご存じの通り、『宇宙兄弟』は「完璧ではない人たち」が、それぞれの個性や強みを活かしながら宇宙開発という完璧さを求められる事業にチャレンジする物語です。 物語はまだ終わっていません。これからの『宇宙兄弟』の活躍を、僕もワクワクしながら追いかけようと思います。

この本を読んでくれたあなたが、広大な宇宙に未知を探し求めるように、「わたし」 という内なる未知の世界に旅立つことができますように。

長尾 彰

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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。

カリスマ的な存在感もなく、リーダーとは無縁のタイプ。でもなぜか“彼”がいると、物事がうまくいく……。累計2000万部を誇る人気コミック『宇宙兄弟』に登場するキャラクターや数々のエピソードを、「リーダー」という視点から考察した書籍『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』。目まぐるしく変化し先が見えない現代で、「正解」を模索する人たちへの生き方・働き方のヒントとなる話題の本書を、『宇宙兄弟』公式サイトにて全文公開!

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<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。

企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。

文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。