《第12回》宇宙人生ーー宇宙人はいるのか?《前編》「いないほうがおかしい!」と思う観測的根拠 | 『宇宙兄弟』公式サイト

《第12回》宇宙人生ーー宇宙人はいるのか?《前編》「いないほうがおかしい!」と思う観測的根拠

2015.08.24
text by:編集部コルク
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《第12回》
《前編》「いないほうがおかしい!」と思う観測的根拠
「宇宙人はいるのか?」という誰でも1度は考えたことのある疑問。「いる」と信じるNASA技術者の小野雅裕がその根拠を科学的に3回に渡って解説!第1回目は「ケプラー452b」という地球に似た星があるというとても夢のあるお話から。

 
NASAで働いていると言うとよく聞かれる質問がいくつかあります。第一位は次回にとっておいて、今月は第二位から。その質問が、
「宇宙人はいますか?」
であります。宇宙人などというとオカルトめいて聞こえるかもしれませんが、これは決して馬鹿げた質問ではありません。それどころか、「宇宙人」という表現こそ使っていないものの、地球外生命探査はNASAにとって目下の最重要テーマのひとつなのです。

そういえば我らがムッタくんとヒビトくんが宇宙飛行士を目指したキッカケのひとつは、幼少時にUFOを見た経験でした。僕は見たことがありませんが、是非とも見てみたいですし、宇宙工学者として宇宙人がどんな宇宙船を作るのか興味がありますから、連れ去ってほしいとまではいかなくとも、体験搭乗くらいさせてくれたらなあ、と思います。

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考えてみれば地球人はたいへん失礼極まりない種族で、テレビや映画や小説で勝手に宇宙人を悪役に仕立て上げます。人間を襲ったり人間を食べたり人間に卵を産んだり人間に乗り移ったり、気まぐれにナメック星を破壊したりハイウェイ工事のために地球を破壊したり。でも宇宙人ってそんな悪い奴らかなあ。日本人が70年前に鬼畜扱いしたアメリカ人だって酒を飲み交わして友達になればいい奴らなわけで、宇宙人だって友達になればちょっと彼らの星を案内してくれて、ウマいご当地料理を食わせてくれて、ともすればカワイイ宇宙人の子を紹介してくれたりもするんじゃないかと思うわけです。

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小学生の頃に小野少年が書いた宇宙人「テレパシー」
で、そもそも「宇宙人はいるのか」という疑問、あるいはもう少し広く、「地球外生命体はいるのか」という疑問。まだ答えは出ていません。ですが、僕は「いないほうがおかしい」と思います。同じように思っている科学者も多くいます。向こうから地球に挨拶しに来てくれれば話は簡単ですが、もしそうでなくても、僕が生きている間に地球外生命が発見される、もしくはその存在の証拠や痕跡が発見される可能性は十分にあると思っています。この10年ほどで、どこを、どう探せばよいか、だんだんと見当が付いてきたからです。

たとえば、先月に「地球2.0」を見つけたとNASAが発表したことは皆さんの記憶に新しいでしょう。NASAが打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡が1400光年の彼方に見つけた、ケプラー452bという星です。

この星、どこまでも地球に似ている。一年の長さは385日。大きさは地球の1.6倍で、ちょっと大きすぎるように思えるかもしれませんが、木星は地球の11倍の大きさがありますし、871光年離れたところにあるWASP-12bという惑星に至っては地球の20倍の大きさがあります。1.6倍でも十分に似ているといえます。

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「地球2.0」ことケプラー452bの想像図。Credits: NASA/JPL-Caltech/T. Pyle
何より重要なのは、この惑星が「ハビタブル・ゾーン」にあること。ハビタブルとは居住可能という意味で、主星(惑星が周りを回る恒星)から近すぎず遠すぎず、つまり暑すぎず寒すぎず、惑星表面に液体の水が存在しうる領域と言う意味です。太陽系では、ハビタブル・ゾーンの内側にある金星は表面温度が450度を超える灼熱地獄ですし、逆にハビタブル・ゾーンの外側にある火星は寒すぎて水は殆どが地下で凍ってしまっていると考えられています。それに対してハビタブル・ゾーンにあるケプラー452bは程よく暖かくて、地球と似た生態系が存在する可能性があります。ならばもしかして知的生命体がいて、文明を築いていて、望遠鏡で向こうからこっちを観察して「太陽系の第三惑星はハビタブル・ゾーンにあるらしいぞ」なんて話をしているかもしれない、などと想像が膨らむわけです。

それにしても「ケプラー452b」だなんて、どうしてこんな味気ない、製品番号みたいな名前なのか。「ケプラー452」というのが主星の名前。ケプラー宇宙望遠鏡が惑星の存在を確認した452個目の恒星、という意味です。ある恒星の周りに最初に見つかった惑星は”b”、その次に見つかった惑星は”c”…とお尻に小文字のアルファベットを添えるというのが決まりだからです。どうしてbから始まるか。長男に次郎と名付けるみたいで変じゃないかと思われるかもしれませんが、aは主星を指すからです。でも普通はaは省略し、単に「ケプラー452」と呼びます。

ちょっと待て、452個?そんなに見つかっているの?そうです。いや、それどころか、もっと見つかっています。複数の惑星を従えた恒星が多くあるからです。この記事の執筆時点でケプラー宇宙望遠鏡が発見した惑星は1030個、それ以外の方法で見つかったものも合わせれば1879個にものぼります!ハビタブル・ゾーンにある惑星も、既に12個も見つかっているのです!

宇宙人生12JPLの一角にある系外惑星カウンター。上から順番に、今までに見つかったハビタブル・ゾーンにある惑星の数、存在が確認された惑星の数、そして確定していないが惑星の可能性がある候補の数を示しています。見に行くたびにこれら数は増え続けています。

ケプラー宇宙望遠鏡が観測できるのは、限られた方向にある比較的近い星のみで、しかも惑星を検出できる確率は200分の1程度です。それでも既に千を超える惑星が発見されていて、そのうち12個はハビタブル・ゾーンにあるのです。この結果から推定すると、どうやら銀河系にはハビタブル・ゾーンにある惑星がなんと数百億個もあるようなのです。そして宇宙には約1000億個の銀河があります。単純に掛け算をすると、地球のような惑星が約10垓個、宇宙に存在することになります。

10垓ですよ、10垓。どれだけ大きな数か想像がつきますか?
1000000000000000000000個。
ゼロが21個並んでおります。1年分の新聞の朝刊の文字数が3000万字ほど(ゼロが7個)。日本の全国民が1年に食べるお米の米粒の数が100兆粒のオーダー(ゼロが14個)。それよりもはるかに多い。まさに「天文学的数字」なのです。

これだけの数の地球のような星が宇宙にあって、生命が誕生した星はたった一つだけと考える方が、よほど不自然だと思いませんか?
(『宇宙人生』【第12回】宇宙人はいるのか《中編》へつづく)

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コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!

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〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。

2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。

本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。

■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
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