『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる』シリーズの第三弾『あなたを伸ばす部下、つぶす部下』が発売されました。発売を記念し、著者の古野俊幸さんと、宇宙領域で活躍を続ける内山崇さんの対談を実施。
先日公開した前編では、内山さんのFFSとの衝撃の出会いや、宇宙飛行士たちの因子について語りました。引き続き、内山さんの宇宙開発の経験を、古野さんがFFS理論の視点から分析します。
<プロフィール>
古野俊幸:株式会社ヒューマンロジック社 代表取締役。『宇宙兄弟』とFFS理論を組み合わせた書籍『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる』シリーズの著者。(写真右)
内山崇:宇宙船の開発・運用に20年以上従事。2008年のJAXA宇宙飛行士選抜試験ファイナリスト。著書に『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』。(写真左)
多様性は必要だけど、十分条件じゃない
── FFSについて、内山さんから何か質問はありますか?
内山:ストレスの多い環境で、ちょっとしたことで険悪な雰囲気になる時がありますよね。そこに、場を和ませる因子の人を入れるようなことも可能なんでしょうか? チームの危機を乗り越える特効薬になると思うんですが。
古野:できるんですけど、常に特定の因子の人を入れるというわけじゃないですね。メンバー構成を見る必要があります。
例えば、こだわりが強い凝縮同士の対立には、受容の人が優しく話を聞いてあげるといい。でも、保全同士だと違う。保全同士は、自分のテリトリーを守るから「俺はちゃんとやってる、お前のせいだ」と罪のなすりつけ合いをしているケースが多いんですよ。ここで、相手の気持ちを重視する受容の人が入っても、結論がつかない。この時は、弁別性や凝縮性が高い人が明確にジャッジする。拡散がいい意味でぶっ壊すのも面白いですよ。
── そう考えると、メンバーの多様性って重要ですね。
古野:確かに多様性は必要条件だけど、十分条件じゃないんですよね。異種を補い合うメカニズムを働かせることが必要。
内山:チーム内で目的を共有するとか、グッと締めてくれるリーダーがいるとか、そういうことですか。
古野:目的の共有は絶対で、特にワクワクするミッションがあるといいです。多様なメンバー全員でミッションを握るには、難易度高かったり、抽象的だったりする方がいいんですよ。
── 宇宙兄弟では、ジョーカーズはみんな多様で、最初はバラバラでしたよね。エディが来て、短期的なミッションで一旦まとまった。でも、ゲイツと戦っている時に本当のチームになった感じがします。
古野:そうですね。エディが「ミッションを取り戻す」と言ったところから急に 1枚岩になった。月に展望台をつくるという、誰もやったことがない難易度の高そうなミッションだからこそだと思いますよ。
内山:力を合わせないとできないぐらい高い目標があった方がいいんですね。
自分で学ぶ部下、指示を待つ部下
古野:内山さんの部下も、全員多様なんじゃないですか。
内山:そうですね。個性も違うし、専門性やキャリアも違います。
古野:コミュニケーションの取り方はどうしていますか?
内山:部下によって違いますね。ビジョンや期日は伝えつつ、プロセスは任せてみて、この人にはもう少し指示を出した方がいいかなと色々試している状況です。私は入り過ぎると、細かく言いたくなっちゃうんですよね。だから、最低限のことを言って、待つようにしています。ただ、放任しすぎと言われることもあって、バランスが難しいです。
古野:そこは千差万別、みんな悩んでますよね。今回の本は、初任管理職が主なターゲットです。つまり、課長さんのイメージ。日経BPでの記事では「人間関係の悩み」についてが反響が強く、特に課長が一番悩んでいるという声が多いらしいですよ。初めて管理職になった人にとって、そもそもマネジメントは難しい。さらに最近は、飲みニケーションみたいな昭和的な方法は向かないし、かといって放置してもダメだし、リモートも多いしで、悩みが増えている気がします。
── 具体的には、どんな悩みがあるんですか?
古野:例えば、ある会社は、現場で若手社員に失敗させながら学ばせるカルチャーでした。でも、業務が増えて、余裕がなくなってきた。そこで、仕事のできる派遣さんを雇ってしまって、新人社員はほったらかし。それで、いざ若手がアサインされても、教わってないからできないですよね。上司側も、すでに仕事できる人に任せているから、部下に手取り足取り教える経験がなくて、困ってしまっている。
内山:自分から情報を取りに行く人は、ある程度どんな環境でも、どんどん学ぶんですけどね。一方で、待ってしまう人もいる。今は人手不足で教えるリソースが足りないから、その人たちは放置されてしまう。この2極化はすごく感じていて、均一化するにはどうしたらいいのか悩みます。このままでは差が開いていくことを、その人自身にいかに気づいてもらうか。
── そういった部下のモチベーションを上げるのも、FFSの因子ごとに違いますよね。
古野:そうですね。例えば、保全も拡散も動機づけするには「面白いこと」なんですよ。ただ、保全は面白いことはやりたいけど、不安だと踏み出せない。だから自信がつくまでは、手取り足取り教える。でも、拡散には、それをするとマイナスになるので、興味を引きながら任せるとか。
弁別タイプが理不尽を乗り越えるには
── 今回の本では「上司×部下」の2人の因子の掛け合わせに注目しますよね。例えば、内山さんのように弁別が高い上司の場合、どう部下にアプローチしたらいいんですか?
古野:弁別の人は、保全と拡散の人の情動がわからないんですよ。好きとか嫌いっていう気持ちの面ですね。「とにかくやりたいんです」って言ってくる拡散の人のことはわからないでしょ。
内山:わからないというか、そこは切り分けなきゃダメでしょってずっと思ってます。気持ちは聞くし、わかるけど、一旦置いといてって(笑)。
古野:でも、拡散は気持ちを置かれると困るんです(笑)。だから、弁別の上司でも、そこをスパッと切らないことですね。まずは、君はこの面白いことやりたいんだよねと合意を取りつける。
弁別同士はやりやすいですよ。ただ、弁別の人は、無駄を排除しすぎて、到達点が低くなる場合がある。やっぱり混沌にこそ、新しいものを生み出す可能性があるじゃないですか。だから、視座をあげて、理不尽を乗り越える必要があるんです。その時は「確かに理不尽だけど、君の経験のレベルと、私の経験のレベルで、理不尽が違うのはわかるか?」と、禅問答っぽく問いかける。そして、自分より優秀な人の話を受け入れるのが合理だと気づくと視座が一気に上がります。
内山:よくわかりますね。私も、なんで上層部は理不尽な判断をするんだろうと思ってた時期があったんです。でも、視座をあげると、上の人たちの中では理屈は通っていたことがわかる。だから、同じように思っている後輩がいると、実はアッパーマネジメントなりに理屈があって、今はこういう状況なんだと伝える 話せるようになりました。
部下が上司を伸ばす
── 今回のFFS本は『あなたを伸ばす部下、つぶす部下』ですが、部下が上司を伸ばすという点は意外な感じがします。
古野:いいリーダーはいいチームをつくるし、いいチームはいいリーダーを輩出するというのが僕の持論で、部下が伸びれば上司も伸びる。部下との関わり方を学ぶことで、部下がいいアウトプットを出せれば、当然上司の評価も上がるし、仕事しやすくなるはずですよね。今回の本は、そのきっかけになるといいなと。
内山:今は人的リソースが色々な業界で不足していますよね。その中で、優秀な人がストレス環境で浪費しているリソースをどうするかが重要で。みんながFFSを理解したら、ものすごく生産性が上がると思うんですよね。効果は計測りづらいと思うんですけど。
古野:人が採用できないから、今いる人で回さないといけない。でも、その人たちも辞めちゃうからどうにか採用する。そういったコストを計算すると、本1冊安いもんなんですけどね。
内山:本当に、FFSは会社に導入してほしいです。マネージャーとして悩んだ経験がある人にはめちゃくちゃ刺さると思います。
古野:まずは月で遭難するワークショップやってもらいましょう(笑)。
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