小山 大久保さんのスゴさは記録にはっきり表れていますよね。Jリーグで得点王に何度も輝き、通算得点もナンバーワン。これほどずば抜けた結果を出せるのはなぜですか。野性の勘みたいなもの?
大久保 毎試合、探りながらやってるだけですよ。フォワードって、点をとり始めるとすぐ研究されてしまうから、常に違うパターンを考えないと。ポジションを変えてみたり、出足を一歩早くしたり。あと、他の選手がシュートを打ったらいち早く身体を動かすのも大事。シュートの直後はボールの行方を追って選手の動きが止まる。その隙を突いてこぼれ球を狙う。
小山 同じことをしちゃいけないという点では、漫画家も苦しみますよ。「似たシーン、前にもあったな」と読者に思わせてはいけない。
大久保 そう、そこが漫画家のスゴイところ。よく毎回おもしろい話をつくり出せますね。アイデアはどう生まれるんですか?
小山 おもしろくなるまで、ひたすら考え続けるのみです。幸い漫画家は試合中のストライカーより考える時間がありますから。どうしても煮詰まったら、読者の立場になって客観的に見直してみる。すると突破口が見つかったりします。
大久保 それわかります! ディフェンダーの気持ちになってみて、どう動かれたらイヤかなと考えることは僕もよくありますよ。練習ではたまにキーパーもしてみます。ここに蹴れば絶対に手が届かないなとか、確認するんです。
小山 やれることはやり尽くすんですね。すべてはゴールのため?
大久保 そうですね、ゴールや勝利の瞬間はやっぱり最高。観客席から声援を浴びると、舞台の上に立っているような気分です。あれにまさるものは知らないなあ。漫画家の最高の瞬間はいつですか?
小山 ネームを描いてい納得のいくものができたときですね!「これからこれを読んでくれる人がいる」と思ってワクワクしますよ。何度経験してもあの高揚感は変わらない。
大久保 何度経験しても、というのは凄くわかります。ゴールを決めたうれしさって、いくら繰り返したって減らない。
小山 その喜びこそ、長く仕事をやっていく力の源になりますよね。もしも最高の瞬間に慣れて何とも思わなくなってしまったら、きっと同じテンションで仕事を続けることはできないと思う。
大久保 そうかもしれないですね、僕はサッカーを始めたころと、今も気持ちは全然変わらない。まだまだ上手くなりたいし、ゴールを決めて思いきり喜びたいって、練習や試合をするたびに思ってますよ。僕も先生も自分のモチベーションは尽きそうにないけれど、他に欠かせない「支え」ってありますか?
小山 関わりのある人すべてが支えになってくれているのは間違いないです。中でも家族の理解がなければ、漫画家はやっていけないでしょうね。生活のリズムはどうしても普通じゃなくなってしまうし。「自分の漫画で読者に感動してもらいたい」とか言ってますけど、スタッフや担当編集者、そして家族など最も近しい人たちには迷惑をかけっ放しなんじゃないかって(笑)。
大久保 僕も家族に支えてもらうことで仕事ができているのは、毎日感じてます。試合に負けたときは、ため込んだストレスを癒してもらうし、勝ったときには家で子どもたちとゴールシーンを再現して喜んだりも。そういう時間があるから、また次の試合でがんばることができるんです。
小山 僕も迷惑はかけているけど、家族のおかげでこうやって描けてきました。今もこれからもかけがえのない存在です。周りに目一杯支えてもらってる分、いい仕事を積み重ねていきたいって思います。
(「コヤチュー部会報誌」vol.2より)