今回はコヤチュー部会報誌vol.5に掲載されたくるり・岸田繁さんとの対談の内容を大公開します!
テレビの企画で以前、小山宙哉と対談の機会をいただいたくるり 岸田繁さん。このたび、『宇宙兄弟』を生み出している仕事場を訪問してくれました!
まずはやはり、ちかごろ誌面を賑わせている、あのそっくりさんキャラクターのことから、お話は始まりました!
「クジョーの出てくる巻は、お墓に入れたい」
小山 だれの目にも明らかだとは思いますが、クジョーことNASAのフライトサージャン・久城光利のモデルとして、『宇宙兄弟』に登場いただいています。ありがとうございます。
岸田 僕は毎週、漫画誌を何冊か買って読んでおりまして、「モーニング」もそのひとつなんです。あるとき、いつものように何気なく『宇宙兄弟』のページを開いたら、「ん! あれ? 自分⁉︎」となりました。でも自分は自意識過剰なほうなので、いやいやそんなわけない、俺じゃないだろうと思いつつ、でもなんか京都っぽいしゃべり方やし、これはもしや、とひとり悶えてました。
小山 よく見ていただくとヘッドホンや靴に、くるり(Quruli)のイニシャルにあたる「Q」の文字も入っていますし、これはもう岸田さん本人で確定です(笑)。
もともとは、ストーリー上で医師が務めるフライトサージャンというポジションの人を登場させることになり、ここは天才気質の日本人にしたいなと思ったんです。白衣を着せたらどうかと考えていたところ、岸田さんの姿が浮かんだ……。岸田さんが奥田民生さんや伊藤大地さんとやっていらっしゃるバンド「サンフジンズ」で、白衣を着ている姿がありますよね。それを連想したわけです。頭のなかで思い描いてみると、驚くほど役にぴったりで、すぐにこれはいけると感じました。
岸田 こんないい役にしてもらってなんと言っていいやら……。長く生きていても、なかなかこんな経験できませんよ。クジョーが遠隔操作でベティを手術する場面(第34巻)なんて、ドキドキしながら読んだものでした。なんやかんや言ってこんなときでも落ち着いているクジョーさんはやっぱり偉いなあ、僕もそうならなければと思いましたね。
小山 岸田さんはボーカルだけでなくギター、ベース、ドラムといろんな楽器を弾きこなすじゃないですか。そういう器用さを見ていると、遠隔手術のような作業だってすんなりできそうだなということも感じたんですよね。
岸田 僕も小山さんも京都出身だからそうなるんでしょうか、クジョーの京都弁も読者によく雰囲気が伝わっている気がします。京都の言葉ってかなり繊細なニュアンスや微妙なイントネーションがあって、文字にするのがなかなか難しいものなのに。なんでこんなにうまくいっているんでしょう。間合い、みたいなものですかね。
小山 岸田さんをモデルにしたキャラクターがまとっている空気と一体化して、言葉が出てくるからじゃないですか? だからこそ間合いみたいなものが表現できる。
岸田 ちゃんとお話しできる場でお会いするのは今日で2回目ですけど、最初のときに、僕のイメージをこんなに掴んでいただいてたなんてうれしいですね。クジョーの出てくる巻は自分のお墓に入れたいくらいです(笑)。
「言葉は苦手分野なんだろうなと思ってます」
小山 僕も漫画を描くときはいつもセリフに苦心しますけど、歌詞をつくることってやっぱり難しいですか?
岸田 はい、それはもう。できることなら誰かに代わってもらいたいほどに。言葉って、扱うのがすごく難しい。音楽にはリズムとかメロディなどいろんな要素がありますけど、歌詞というのは「縛り」の要素にもなりかねません。
本来の音楽って、農作業なんかの動作に合わせて「エッサ、ホイサ」と自然に漏れ出たようなもので、そういうのはごく自然に身体に馴染む。でも僕らの書く歌詞は、もう少し書簡に近いもの。聴き手への手紙であることを求められていたりもします。聴き手に何かを伝えるなら、僕は言葉より音を使うほうが早いというか、得意分野なんだなと自分では思っていますね。
それでも言葉は、使いようによっていろんなことができるものだとも思っていて。音と音のあいだの接着剤として使うこともできるし、うまくタイミングをつかめばそれだけで急に輝くこともある。いまここで言うからおもしろい言葉とか、たいしたことは言ってないのにおもしろいボケなんかもあるじゃないですか。あれはタイミングがいいからこそでしょう。歯の浮くようなキザなセリフでも、使いどきを選べばうまく収まることもありますし。
そういう言葉の力をうまく使っていきたいんですけど、いい歌詞が書けたなと思った翌日は、使いものにならないくらいヘトヘトになったりするので、たぶん言葉は苦手分野なんだろうなと自分では思ってます。
小山 ファンは岸田さんの紡ぐ言葉も待ち望んでいるのでしょうけど。いつだってありきたりじゃない、すごく考え尽くされた歌詞だという気がします。
たとえば『琥珀色の街、上海蟹の朝』の歌詞では、「さよならさ マンダリンの楼上」というフレーズが出てきて、誰も歌ってない新しい詩であると同時に、言葉の響きがここのメロディとリズムにこれしかないというくらいハマっていて気持ち良さがあります。
岸田 あれは京都の北のほうにある天橋立、その松林の一本道を5往復くらいしながら考えました。メロディが先にあったので、歌いながら考えていて、ふと出てきた言葉ですね。理屈ではあまり考えていない気がします。マンダリンという言葉を思いついてから、マンダリンってなんだっけとスマホで調べたりしましたから。もちろん考えは巡らせるんですが、考えすぎると作文みたいになってきてつまらなくなってくる。その塩梅はむずかしいところですね。
「ムッタの持っているタイム感が好き」
岸田 僕にとって最初、ムッタは「いちばんわかりづらい人」でした。自分の内側に矛盾を抱え込みながら、なんとかものごとを乗り越え、責任をとっている。そのしくみというか、行動原理がよくわからなかった。逆にヒビトには、すっと感情移入ができたんですけどね。
でも最近、ムッタのことが少しずつわかるようになってきて、無理だろうけど自分もこういう人になりたいなと思うようになりました。ムッタは「思いつくことの天才」ですよね。危機や困難に立たされたとき、真正面からぶつかるばかりじゃなくて、ふと違う方法を見つけようとしたり、いろんな人のメッセージを受け取って方向を修正したり。スパッと決断する格好良さとは違う、自分のやり方を持っている。
小山 たしかにそれぞれのシーンや状況で、「ムッタならどうする?」ということをいつも考えてはいますね。
岸田 その「ムッタならどうする?」は、「小山さんならこうする」と近いものなんですか? 自分の考えがどれくらい反映されるんだろうと不思議なんです。
小山 よくよく考えた結果として、自分の考えが反映されているとは思います。ただ、じゃあムッタが言うようなセリフを、いざというときに自分が言えるかといえばそれはない。これを言われたらハッとするだろうとか、ちょっと救われるんじゃないか、こんな場面で言うならこれがベストだ、というものを探して、じっくり言葉を練った末にムッタのセリフがあるので。
岸田 そうやって時間をかけて創り出されているからなんでしょうか、僕はムッタの持っている「タイム感」のようなもの、考えて結論を出すまでの時間の感覚というのがすごく好きで。それは『宇宙兄弟』全体の魅力にもなっている気がします。小山さん自身はどうなんですか、めちゃくちゃ焦ることとかあるんですか?
小山 どうですかね、あるとは思うんですけど、のんびりはしているんでしょうね。京都の人の感じなのかもしれませんけど。
岸田 同じ京都なのに、僕はめっちゃ焦ってばっかりですが(笑)。だから『宇宙兄弟』を読んでいると落ち着くんです。どんなヤバい状況でも気を確かに持てば大丈夫だと、背中押してくれるような存在。そういう漫画って初めて読んだかもしれません。なんでそういう感じが出せるんですかね?
小山 思い当たるとすれば、マイナスのことばかりを描くこともプラスばかり描くこともないからでしょうか。ピンチが訪れたり悩んでいる人がいたら、次にはそれを救う何かを描くし、その逆もある。マイナスかプラス、どちらかをずっと引きずって押していくようには描いていないので。
岸田 ギリギリまでは行くけれど、落ち切ったりはしないということですね。落ちるところまで描かないのには理由があるんですか?
小山 漫画のおもしろさのバランスというものがある気がしていて。マイナスばかり積み重ねると噓っぽく見えてくるし、ハッピー過ぎてもおもしろくない。そのあたりを僕は「バナナ理論」と呼んでいます。漫画なので登場人物を格好良くしたいけど、格好良過ぎるとシラジラしく見えてしまう。そういうときは、手にバナナを持たせたりするとバランスがとれる。そういうのがムッタはすごく得意なんです。
岸田 たしかにムッタはいつもそんな感じですね。でも、これだけ僕ら読む側もムッタをはじめいろんな人物に慣れ親しんでくると、このお話がどう「結ばれる」ことになるんだろうと、勝手に想像してしまいます。
小山 そうですね、当初は担当編集者と「コミックで20巻くらいの話になるといいんじゃないか」と話していましたけど、それをすでに大きく越えていますから。キャラクターが増えてくると、一人ひとりのエピソードをちゃんと描きたくなって、どんどん延びていくんです。
岸田 いや、延びていくのは読む側としてうれしいかぎりです。「結ばれ方」も、僕はそういうのを自分のなかであれこれ予測するのが好きなんで、まだしばらくは読者の愉しみを充分に味わわせてください。
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