【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜スーパームーンを追って東京八王子へ(1/3)街の中で宇宙と出会う〜 | 『宇宙兄弟』公式サイト

【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜スーパームーンを追って東京八王子へ(1/3)街の中で宇宙と出会う〜

2018.07.25
text by:編集部コルク
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『宇宙兄弟』の公式サイト連載がきっかけで出版されたKAGAYAさん初のフォトエッセイ、『一瞬の宇宙』。

忙しかったりつらかったり、悩んでいたり、ひたむきにがんばっている方にこそ、ほんのひと時でいいから空を見上げてほしいーー

宇宙兄弟公式サイトでは、世界中で星空を撮り続けるKAGAYAさんのこのフォトエッセイを大公開します。

街の中で宇宙と出会う

天体が繰り広げる現象は都市で生活する人々にとって、普段あまり意識することがない世界かもしれません。自分とは全く関係のない遠い世界の出来事ととらえられることも多いでしょう。しかし、見方を変えると案外身近に感じられるものなのです。

子どもの頃、わたしが初めて天体望遠鏡を覗いたのは従兄弟に見せてもらったときのことです。その夜明けのことは忘れません。空が明るくなり、天体観測を終えようというとき、名残惜しくて夜空の天体に向けていた望遠鏡をはるか何十キロメートルも離れた富士山に向けてもらいました。すると、その山頂に輝く測候所(2008年より気象観測所)の丸いドームがキラリと見えたのです。わたしは天体と並べてこの光景をスケッチしました。

当たり前ですが、望遠鏡を上下させるだけで、宇宙と地上は行ったり来たりできるということを感じました。わたしにとってこのときから、宇宙の出来事と地上の出来事は連続したものなのです。同じ視野にはるかにスケールの違うものが見えていることに衝撃を受けました。

その後、天文学に興味を持って、いろいろな本を読んでみると、どうやら自分の体は星のかけらでできているということもわかりました。宇宙ができた頃になかった元素が星(恒星)の中やその最後の爆発の際につくられ、惑星やわたしたち生命の体をつくっているのです。わたしの体も森も建物も月も天の川もすべてがっている。自分の体は宇宙から来て宇宙に帰っていくのだ。そう思うと身の周りの自然や天体がたまらなく愛おしくなり、また幸せな気持ちになりました。

わたしは地球上のどこにいても、自分が見ているものを宇宙の風景だと感じています。夜桜を照らす月、夏の海と天の川、それらをみな、この宇宙の中の愛すべきひとつの風景だととらえて作品にしています。わたしは作品を通じて宇宙と人間のがりを伝えていきたいと思うようになりました。

ある日の深夜、超望遠レンズを取り付けたわたしのカメラのファインダーに、東京スカイツリーの向こうに昇る巨大な月が映っていました。月の見た目の直径はスカイツリーの半分ほど。その迫力に思わず声がもれました。

わたしと月との間には空気もあってその影響で月の色はオレンジに、形は少しひしゃげています。その月はまるで空へ浮かんでゆく船のように見えました。船はゆうゆうとスカイツリーをかすめて上昇し、やがて色は白く、強く輝き始めました。

このような月の出は街の中でも見ることができます。昇る時間を事前に調べて、見晴らしの良い場所で待ち構えれば、あとは天候だけ。もし双眼鏡をお持ちであれば、さらにドラマティックな光景が見られるでしょう。月の出はほぼ毎日繰り広げられる小さな天体ショーです。観覧するのは簡単です。開演時刻、観覧場所に、できれば双眼鏡を準備して待つだけです(雨天、曇天中止)。

 

(つづく)

 

KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』連載はこちらから

 

KAGAYAプロフィール
1968年、埼玉県生まれ。
絵画制作をコンピューター上で行う、デジタルペインティングの世界的先駆者。
星景写真家としても人気を博し、天空と地球が織りなす作品は、ファンを魅了し続け、Twitterフォロワー数は60万人にのぼる。画集・画本
『ステラ メモリーズ』
『画集 銀河鉄道の夜』
『聖なる星世紀の旅』
写真集
『星月夜への招待』
『天空讃歌』
『悠久の宙』など