【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜スーパームーンを追って東京八王子へ(3/3)再びチャンスを狙う〜 | 『宇宙兄弟』公式サイト

【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜スーパームーンを追って東京八王子へ(3/3)再びチャンスを狙う〜

2018.07.25
text by:編集部コルク
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『宇宙兄弟』の公式サイト連載がきっかけで出版されたKAGAYAさん初のフォトエッセイ、『一瞬の宇宙』。

忙しかったりつらかったり、悩んでいたり、ひたむきにがんばっている方にこそ、ほんのひと時でいいから空を見上げてほしいーー

宇宙兄弟公式サイトでは、世界中で星空を撮り続けるKAGAYAさんのこのフォトエッセイを大公開します。

再びチャンスを狙う

あの日、スーパームーンとスカイツリーの共演は残念ながら撮ることができませんでした。さらに先の日時でシミュレーションをしてみると、満月ではないものの、月の出とスカイツリーが近い位置で重なるタイミングが年に数回あることがわかりました。次のタイミングは2ヶ月後、12月の初旬でした。

2015年12月5日深夜、わたしは再び、おじさんに教えてもらったあの場所をたずねました。その夜は天気も良く、絶好の撮影日和でした。

すでに真冬の寒さの12月の深夜、大型三脚の上に超望遠レンズを据えてファインダーを覗くと、大気の影響でゆらゆら瞬く街明かりとスカイツリーが見えました。調べた月の出の時刻になるとその東京の街明かりと空の間に大きく歪んだ光の塊が現れました。

あれが月か!

その光の塊は徐々に巨大な船の形になり、スカイツリーの背後に回り込み、やがて空へと浮かんでいきました。わたしたちが住む街の灯、そのはるか38万キロメートル向こうの月はあまりに巨大。その巨大な月が地球の自転でゆっくり動いていくのがわかります。こういった現象を目の当たりにしているとき、人間の力が到底及ばない大きな力に圧倒されて心が震えるのです。

どれだけ準備に時間がかかっても、目的の光景に出会う時間は一瞬です。宇宙の法則に従って動く天体と、気象条件、そして地上の風景がつくりだすほんのわずかな時間にぴったりと居合わせ、二度とは起こらない瞬間を狙ってシャッターを切る。この世は千変万化。その時が過ぎると、風景は別のものに変わっていきます。そして、写真の中に切り取ったその瞬間だけが、まるで凍結されたように永遠のものになるのです。これが撮影の醍醐味です。

それから2週間ほどたったある日、仕事中に電話が鳴りました。よく連絡を取り合っている河出書房新社の編集担当の方からでした。

「KAGAYAさん、どこかへ撮影に行かれたときに、三脚をお忘れになりましたか?」

なんでも、わたしの名前が書かれた三脚を預かっているという人から編集部に連絡があったとのことでした。そういえば三脚が少ない気がして、同じものを買い足したところでした。思い当たる場所はいくつかあり、わたしは、おそらく富士山を撮りに出かけたときに訪れたキャンプ場だと思いました。

さっそく編集担当の方に教えてもらった電話番号にかけてみると、なんと電話の向こうの声は八王子の自動車整備工場のあのおじさんでした。

「朝一で仕事に来た人が『道の端に人の高さくらいの巨大な三脚が立っていた』と言って近所で話題になっていたので行ってみたら、その三脚に『KAGAYA Studio』って書いてあったんだよ」

おじさんはその名前にピンときて、わたしの写真集に記載されていた出版社に電話をしてくれたようでした。

「すみません、わたしのものに間違いありません。また月を撮りにいくときに引き取りにうかがいます」
「いいですけど。ずいぶん立派な三脚ですが良いんですか?」
「大丈夫です」

わたしは次にスカイツリーと月が一緒に撮れる日時を計算し、もう一度おじさんに会えるのが楽しみになってきました。

よくよく考えてみたら、最初のあの日、おじさんにゴミの不法投棄を疑われなければわたしは声もかけられず、あの撮影場所も教えてもらえず、写真は撮れなかったはず。出会いのきっかけはなんでもありだなぁ、と思うと同時に、快く自分の撮影場所を教えてくれたおじさんに感謝しているのでした。

(つづく)

 

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KAGAYAプロフィール
1968年、埼玉県生まれ。
絵画制作をコンピューター上で行う、デジタルペインティングの世界的先駆者。
星景写真家としても人気を博し、天空と地球が織りなす作品は、ファンを魅了し続け、Twitterフォロワー数は60万人にのぼる。画集・画本
『ステラ メモリーズ』
『画集 銀河鉄道の夜』
『聖なる星世紀の旅』
写真集
『星月夜への招待』
『天空讃歌』
『悠久の宙』など