わたしが最初にタウシュベツ川橋梁を訪れたのは10年前。
夏には湖に沈んでしまい、見えなくなる幻のような橋です。
この写真は昨年の秋、水が引き始め顔をだしたばかりのタウシュベツ川橋梁です。
(6:19 AM – 2016 6/23のツイートより)
KAGAYAさんの連載エッセイ第7回では、日本国内で見ることのできる、星空観測スポットをご紹介します♪
北海道のタウシュベツ川橋梁から、大分の原尻の滝まで。都心からでもアクセスができる美しい天の川の観測場所や、撮影時の注意など、天体観測のコツもあわせてお届けします。どうぞお楽しみください。
【銀河のほとり、幻の鉄道橋を汽車がゆく】
今回は小旅行で撮りに行くことのできる星空をご紹介したいと思います。
2015年の5月末、私は北海道へ行きました。目的地は上士幌町にある「タウシュベツ川橋梁」で星空の写真を撮ることです。
北海道はかつて、道内開拓と産業振興がさかんであった時代にたくさんの鉄道が敷かれ、数多くの機関車が走っていました。
しかし時代とともにそれらの多くは廃線となり、今は静かに佇む線路だけが鉄道大国だった当時の北海道の風景を残しています。糠平湖にかかるタウシュベツ川橋梁も、そんな忘れられた鉄道である旧国鉄士幌線の風景を今に伝える場所のひとつです。
水面にその姿を映しながら、どこか物悲しくよこたわる姿が印象的なタウシュベツ川橋梁を初めて訪れたのは10年前でした。そのときから、月や天の川と一緒にこの橋梁を撮るチャンスを狙っていました。
タウシュベツ川橋梁の撮影で重要なのは、湖の水位です。橋梁のかかる糠平湖はダム湖。春には橋の下の地面が見えるほど水が引きます。5月から夏にかけて雪解け水が入るため水位があがり、8月には橋梁全体が水没して見えなくなってしまいます。橋梁の下に水が張り、めがね橋としてバランス良く見えるのが5月から6月の限られた期間なのです。
さらに私はこの橋梁を月がほんのりと照らし、その橋に重なるように天の川がよこたわる構図の写真を考え、日時を調べました。すると、そんな日は5月末と6月末にわずか、1年に2〜3日しかありませんでした。
星景写真では、暗い夜に地上の風景を浮かび上がらせるテクニックとして、月を照明代わりに使うことがよくあります。満月前後の月は明るすぎて天の川そのものが写りにくくなってしまいますが、ある程度欠けた月は地上の風景を浮かび上がらせる照明として好都合なのです。今回は橋梁を立体的に写したかったのでほどよい月明かりのある夜を選びました。
月夜の散歩。(先日、北海道上士幌町にて撮影)
(5:44 AM – 2016 6 /8のツイートより)
また、タウシュベツ川橋梁に行く時にはいくつか注意しなければならないことがあります。
タウシュベツ川橋梁周辺には鉄道やバスは走っていないため、交通手段は車か徒歩に限られます。
タウシュベツ川橋梁への道は狭い林道で、一般の車の通行は禁止されています。そのため、重い機材を車で運び込む必要があったわたしは事前に林道使用の許可を得なければいけませんでした。
そして、もっとも注意すべきは熊です。この周辺にはヒグマが棲息しています。特に夜中にひとり、静かに撮影をしているのは危険です。熊よけの鈴も、じっと撮影をしている最中は動かないので鳴らず役に立ちません。今回私は星好きの友人、数人とともに、音楽を聴きながら撮影を行いました。
その朽ちた鉄道橋は、天の川の果てまで続いているようでした。
(今朝未明、北海道上士幌町タウシュベツ川橋梁にて撮影)
(7:19 AM – 2016 5/29のツイートより)
5月末のタウシュベツ川橋梁のたもとで見た風景は、まるで宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の幻想世界でした。
私は『銀河鉄道の夜』のストーリーをタウシュベツ川橋梁に重ねました。銀河鉄道の出発点である北十字、銀河ステーションがある白鳥座付近から天の川の岸を走り、蠍座を通り、地平線の向こうにある南十字まで。かつて鉄道が走っていたタウシュベツ川橋梁に、ちょうど銀河鉄道のコースを重ねるような構図でシャッターを切りました。
撮影をしながら、銀河鉄道が星空の中を走って行く心象風景を、天の川が彩る北上川に見ていたであろう宮沢賢治さんのことを思いました。
タウシュベツ川橋梁も、10年前に比べるとずいぶん風化が進んだように見えました。それほど遠くない未来には崩れ去ってしまうのかもしれません。
失われつつある古い橋の時間の中の、美しい一瞬の宇宙を切り取れたような一夜でした。
月光を浴びて眠る鉄道橋。
かつて汽車を載せていたころの夢を見ているのでしょうか。
(先日、北海道上士幌町タウシュベツ川橋梁にて撮影)
(6:42 AM – 2016 6/4のツイートより)
【都心から行ける! 天の川の見える場所】
30年近く前、高校地学部合宿で天の川を初めてみたときのことを忘れません。山の上の夜、雲が退いて頭上に姿を現した天の川の輝きに、わたしは吸い込まれるように呆然と立ち尽くしました。そんな天の川に魅了され、世界中の夜空に天の川の姿を追ってきたのです。
天の川は私たちのすむレンズ状の星の大集団、銀河を内側から見た姿で、よく見ると黒い雲のように見える暗黒帯や、星雲・星団がひしめきあっています。私たちが物質に満ちた宇宙の中にいるということを地上にいながら立体的に実感できる眺めでもあるのです。
天の川がどの地域で見えるのか参考になるのが夜空の明るさマップです。これは全国の光害の程度をマッピングした地図で、インターネットで公開されています。この地図で青・緑色に着色されているところは天の川が見える場所とほぼ一致しています。赤や黄色のところでは撮影も難しくなります。天の川がどの地域で、どの程度撮れるかの見当がつくのです。北海道も、タウシュベツ川橋梁のある中部、さらに根室や摩周湖のある道東は青色であり、光害の影響が少ないことが分かります。
東京都付近に住む人にとって出かけやすい、東京都周辺の天の川が見える場所としては、富士山の西側がおすすめです。
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第一回:星空を追いかけて
第二回:ウユニ塩湖で「星の野原」に立つ
第三回:ペンギンにアザラシ、南極の虹。0℃の真夏に、徹夜で夢を見た。
第四回:南極で、宇宙の一部になる。
第五回:パタゴニアの雲から、オリオン座の超新星爆発まで、僕はこの空の決定的瞬間に、ずっと夢中だ。
第六回:八王子の丘から撮る、巨大な月が浮かぶスカイツリーの夜景