『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第4章チームの成長とリーダーシップ(1/2) | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第4章チームの成長とリーダーシップ(1/2)

2018.07.06
text by:編集部コルク
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『宇宙兄弟』で、六太が月面ミッションを共にするチーム「ジョーカーズ」。なんと集められたのは、クセが強すぎて周囲と馴染めない「やけっぱち」のメンバーだった! 「ジョーカーズ」の軌跡を追いながら、チームが成長するためのルールと、各ステージで求められるリーダーシップを紐解きます。

「半ばやけっぱち」のチームが誕生した理由

チームには必ず、始まりと終わりが存在します。
終わりの形式はさまざまで、目標やミッションを達成しての栄えある解散もあれば、 経営方針や業績の変化に伴うもの、人事面での組織改編などもあるでしょう。

でも、できることなら誰だって最後に仲間たちと、こんな言葉を交わしたいはず。
「私たちは最高のチームだった!」と——。

本書をここまで読んでいただけた方ならもうおわかりだと思いますが、優秀なメン バーを集めれば必ずしも優秀なチームができるとは限りません。チームとは、変化を重ねていくことで成長する場合もあれば、破たんする可能性もあるからです。
最高のチームになるために必要なのは、メンバーがよりよい関係を築きながら共通の目的・目標を達成するというプロセス。
このプロセスこそが、「チームビルディング」なのだと僕は考えます。

ところで、チームビルディングの前にもう1つ、重要な局面があります。
「どのようなチームを、どのようなメンバーで集めるか?」という、「チームメイキ ング」です。
チームメイキングはマネジメントの範疇になるので、リーダーシップという概念とはまた異なりますが、せっかくなので少し触れておきたいと思います。
と言うのも、ときどき、「マネージャー」と「リーダー」の役割をごちゃまぜにし て捉えられていることがあるようなのです。
そもそもマネージャーの役割とは、「管理・コントロール」することなので、チー ムビルディングに直接関わることはありません。ミッションのために集まってきた人たちに、「あなたたちのチームは、これをしたらいいんだよ(してください)」と、わかりやすく伝えてあげることが仕事。ときには、「〜しなければならない」という表現も使いますし、リーダーと違って、状況をコントロールする能力が求められます。

片やリーダーはチームに内在し、「〜したい」という意思の元に行動することで、 チームビルディングに大きく関わっていきます。
注意しておきたいのは、あくまで管理する立場であるマネージャーがチームビルデ ィングに干渉しようとすると、チーム全体の人間関係が混乱し、こじれる危険性があるということです。
反対に、リーダーがマネジメントまで行おうとすれば、今度はチームの中に階層が生じてしまいます。ヒエラルキー型の組織ならまだしも、ネットワーク型を目指して いるのであれば、なおさらそこに矛盾が生まれ、崩壊するパターンに陥ってしまうでしょう。
リーダーとマネージャーは補完関係にありますが、それぞれの役割は違うという点を意識しておくと、両者の持つ特性をより効果的に発揮できると思います。
さて、『宇宙兄弟』においてのチームメイキングと言えば、やはり六太が月面ミッ ションに任命され、チーム「ジョーカーズ」が誕生したエピソードでしょう!

チーム編成のキーマンとなるバトラー室長は、自身もかつて宇宙飛行士だった人物。 それ故に、月面基地プログラムのマネージャーであるゲイツよりも、現場の目線を取り入れながら、宇宙飛行士の各チームを見守っています。かと言ってマネジメントサイドの使命や責務を怠ることもなく、バランス感覚に優れた、とても魅力的なキャラクターですよね。六太が月面ミッションのクルーに任命されたのも、バトラー室長のジャッジがあってこそでした。

六太とミッションを共にする「ジョーカーズ」のメンバーは、全員で6人。
正規クルーのバックアップ(控え)として結成されましたが、これも月へ行くため のスタンダードなステップであり、いずれは正規クルーへと昇格します。
しかしバトラー室長は当初、ジョーカーズがチームとして機能するかどうか、確信 を持てずにいました。
まずは彼の言葉を参照しながら、メンバーを見ていきましょう。

◉ アンディ・タイラー 「無口さと、あの巨体が醸し出す異様な雰囲気のせいで怖がられている
◉ ベティ・レイン 「強い態度と物言いが、まるでバリアでも張っているかのようで近よりがたい」
◉ カルロ・グレコ 「気取った言動に嫌気が差した周囲から、疎ましがられている」
◉ フィリップ・ルイス 「ムダに陽気で騒がしいあのノリに、誰もついていけない」

……なかなか辛辣な評価が並びますね。とはいえ、決して彼らのことを嫌っているわけではなく、どうすれば異端児である4人の能力を活かせるのかと、悩んでいたのでしょう。NASAの職員にこう打ち明けています。
「残念ながら、本心から彼らと共に宇宙へ行きたがる者はいません。考え抜いた結果が、半ばやけっぱちのこの組み合わせです。どうしようもない孤独な彼らを一緒のチ ームにさせ——。そこにナンバ・ムッタという男を放り込む。それがどう作用するのか……しないのか——。ある意味ギャンブルです」

なんとバトラー室長は、六太の「無敵」思考やファシリテーティブな考え方、愚者風リーダーシップによるチームの化学反応を期待して、彼をジョーカーズに抜擢していたのです。
さらにもう1人、この個性派揃いのクルーをまとめるキャプテンとして、ベテラン宇宙飛行士のエディ・Jが登場します。
彼は、バトラー室長が「どうしようもない彼らをまとめられそうなキャプテンは、 あんた以外に思いつかない」と、自ら説得に動いたほどの人物。
ジョーカーズがどのようにチームとして成長していくのかは後述しますが、バトラ ー室長のこの「半ばやけっぱち」の判断、じつはチームメイキングとしてはあながち間違いではありません。

〝フォーブス誌〟発行人のリッチ・カールガードと、ジャーナリストのマイケル・S・ マローン共著による、世界中のチーム事例を科学的に分析、検証した書籍『超チーム力』(ハーパーコリンズ・ジャパン刊)では、メンバーの構成について、次のように述べています。

◆ 集団のパフォーマンスを高めるのは、性別・年齢・人種の違いといった見た目の多様性ではなく、問題解決能力・観点・解釈などにおける多様性である。

◆ 人種やジェンダーという表面的な差ではなく、文化・人生経験・スキル・考え方といった「真の違い」に注目しよう。こうした要素をチームに多く取り入れるほど、 その集団が成功する可能性はさらに高まる。
ジョーカーズは、まさにこの「内面の多様性」によって集められたチーム。
性別や年齢、人種といった見た目の違いも網羅してはいますが、重要なのは「真の違い」のほう。メンバーのタイプがバラバラという点です。
ただし、バトラー室長も「ギャンブル」と表現したように、多様性による化学反応はうまくいくとすばらしいパフォーマンスを生み出す一方で、悪いほうに転ぶと、チ ームが空中分解してしまう危険性もはらんでいます。
同書では、それを回避するために必要なのが「リーダーシップ」だと説いています。

◆多様性が高まるほどチームはより不安定になるが、その爆発を防ぐための唯一の手段と言っていいのが、質の高いリーダーシップだ。優秀なリーダーは集団を1つにまとめ、異質の人々からなる多様性に富んだチーム力を生み出すことができる。

ジョーカーズにとって、キャプテンのエディや六太は、この「質の高いリーダーシ ップ」を発揮するために不可欠な人材だったということですね。

チームメイキングは、「どんなチームで何を達成するか」というビジョンが明確でないと、どんな人材をアサイン(任命)していいのかわかりません。
ビジョンがあやふやなままでチームを作ろうとすると、「なんとなく」で優秀な人間を集めてしまいがちです。それが結果的に、船頭の数を多くしているだけの組織になってしまうのです。
そうならないために、押さえておきたいポイントが次の3つです。

①チームのビジョンやミッション、目的と照らし合わせ、どのような人材が必要なのかを明確にする。
②表面的な多様性ではなく、文化や考え方、スキルといった内面の多様性に富んだメンバーで構成する。
③メンバーの個性や、チーム内の多様性を活かせるようなリーダーシップを発揮できる人材を入れる。

チームメイキングの段階では、この3つのポイントをクリアしていることがベストと言えるでしょう。
さあ、次はいよいよ、ワクワクするようなチームビルディングの始まりです!


〜心のノート〜

チームの個性を活かすには、「ビジョン」を明確にし、 内面の多様性に富んだ人材集めが必要不可欠。

 

どんなチームでも、 成長するには法則がある 

チームビルディングとは、メンバーがよりよい関係を保ちながら、共通の目的・目標を達成するためのプロセスを築いていくこと——。
ではこの「プロセス」について、もう少し理解を深めていきましょう。
いかなるチームでも、結成した直後からメンバー全員が最高のパフォーマンスを発揮するということは、そうありません。
僕たちはみんな、自分の仲間がどんなタイプの人間なのかを徐々に理解しながら、 自らの役割や分担を見つけていきます。これを重ねていくことで、チームは成長していくのです。

こうしたチームの発達段階を分析する際に活躍するのが、アメリカの心理学者、ブルース・W・タックマンが提唱した「タックマンモデル」です。
タックマンモデルでは、チームの成長には【形成期】【混乱期】【規範期】【達成期】 の「4つのステージ」があるとしています。
このモデルをベースに、それぞれのステージで考えられるチーム内の特徴を、わか りやすく挙げてみました。

チームの発達段階

◉第1ステージ【形成期/Forming】
・チームが結成されたばかりで、メンバーがお互いのことをあまり知らず、自分が何をするべきかもよくわかっていない。
・与えられた指示や目標に向かって、とりあえず行動している状態。
・各自がリーダーシップを発揮するというよりも、役職(ポジション)としてのリーダーからの指示を期待している。
・「誰かがなんとかしてくれる」という、メンバーへの依存が大きい。
・「これを言ったらまずいかな?」など、メンバーに対して遠慮がある。
・不安や内向性、緊張感がある。
・会話が「Should(〜しなければならない)」で語られることが多い。
・【混乱期】へとステージを進めるには、コミュニケーションと情報の「量」が重要となる。

◉第2ステージ【混乱期/Storming】 
・メンバーに独立心が芽生え、「私だったらこうするのに」「私はこうしたい」という意見やアイデアが出てくる。
・個人が主張することで、考え方や行動への対立、衝突が生まれる。
・メンバーのエネルギーはチーム内部の競争に向けられる。序列や力関係、役割、 機能などが表面化してくる。
・影響力の大きい人物がリーダーシップを発揮し、チーム内を仕切ろうとする。
・ビジョンが曖昧で、共有されていない。
・【規範期】へとステージを進めるには、コミュニケーションと情報の「質」が重要となる。

◉第3ステージ【規範期/Norming】
・「自分はこのチームのメンバーとして、どのように行動すべきか」を、メンバーそれぞれが理解している。
・チームの中で暗黙のルールが自然と築かれている。
・目的やビジョン、メンバーの役割、責任の範囲が明確になっている。
・指示されるのではなく、自分たちで目標やゴールを設定することができる。
・知識や問題解決の手法が共有されている。
・「私たちのやり方」「うちのチームは」といった表現が共通言語。
・【達成期】へとステージを進めるには、自分たちで合意したルール・役割・目標 を達成することが重要。

◉第4ステージ【達成期/Perfoming】
・メンバーのエネルギーが、共通のゴールに向かって外に向けられていく。
・目的やビジョンを共有し、チームとしての能力が発揮され成果が生まれる。
・目的やミッションを達成することで、成功体験を共有する。
・メンバーそれぞれがリーダーシップを発揮し、役職のリーダーは形式化する。
・建前ではなく、「これを言っても嫌われない」と、本音で話せるようになる。
・「このチームだったら何が起きても大丈夫」という強い信頼関係が生まれる。

このように、チームが【形成期】から【達成期】にまで成長するには、チーム内の 環境やメンバーたちの意識・関係性にさまざまな変化が起こります。
【形成期】から【混乱期】・【規範期】を経ずに【達成期】へとジャンプできることはありませんし、各ステージに要する期間もバラバラです。【形成期】から【混乱期】 になるのに半年以上かかるチームもあれば、1ヶ月で【混乱期】を迎えるチームもあるでしょう。

「チームの発達段階」とは、自分たちのチームが現在、どのステージにいて、何をすればいいのかを把握するための地図のようなもの。

あなたのチームは、どのステージに該当するでしょうか?
今、自分のチームがどの段階にいるかを知ることで、次にやるべきことが見えてくるはずです。


〜心のノート〜
チームやメンバーの現状を正しく把握することで、リーダーがやるべき課題が見えてくる。

(つづく)

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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。

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<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。

企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。

文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。