『宇宙学生 』「作って動かす」ローバ研究は楽しい! | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙学生 』「作って動かす」ローバ研究は楽しい!

2017.09.02
text by:編集部コルク
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宇宙学生  「作って動かす」 ローバ研究は楽しい!

「宇宙学生」はいろんな方面から「宇宙にまっすぐ」な学生を現役大学生の宇宙フリーマガジンTELSTAR編集部が取材して、宇宙の魅力を伝えます。

みなさんは「惑星探査ローバ」(『宇宙兄弟』作中での表現はローバー)というものをご存知でしょうか?簡単に「ローバ」と呼ばれることが多いのですが、月や火星など、遠い天体へ行って走行するロボットのことです。作中では、ヒビトが月面で乗っていたローバがアクシデントに見舞われましたが、ムッタの機転と自動車メーカーに勤めていた経験から危機を脱したこともありました。

今回取材させて頂いた学生さんは、惑星探査ロ―バの自律化の研究をされています。惑星探査では地球から遠く離れた惑星へと信号を送り、ローバに命令を出すことになるのですが、その命令が届くまでに月であれば1.3秒、火星に送る場合は最低でも4分もかかってしまいます。そのタイムラグを回避するために、ローバ自体が地形を認識し、その領域が安全かどうかを判断する機能を持たせ、自律的に目的地まで走行できるようにする必要があります。この研究が「ローバの自律化」です。他にも、危険な領域を回避する経路を自ら生成する、自分の現在の位置を推定する、などの機能も合わせて研究されています。

今回は、その「ローバの自律化」の研究をされているJAXA 久保田研究室の坂本琢馬さん、渡邉哲志さんに取材をしてきました。

今年2017年、”Google Lunar XPRIZE”というコンテストがクライマックスを迎えます。「誰が一番早く月に行って、ローバを動かせるか?」というもので、日本からは「HAKUTO」というチームが出場しています。いま世界的にローバは高い注目を集めていますが、お二人はどんなローバの研究をしているのでしょうか?

(HAKUTOに参加している宇宙学生の記事はこちら!

©JAXA

ローバーって?

−具体的にどんな研究をされているのですか?

渡邉さん:惑星探査ローバに搭載した赤外線カメラを使用して、地形の傾きを推定する研究を行っています。ローバで惑星探査を行う際、斜面を走行すると電力を多く消費してしまう上に、転倒のおそれもあります。ローバは電力が限られていますし、また転倒してしまうと最悪の場合運用終了となってしまうので、斜面を推定して危険を回避する必要があります。こういったことから地形の傾きを赤外線カメラで推定する研究を行っているのです。カメラと言っても、人間の眼で見ているのと同じ映像を撮影する通常のものとは異なり、赤外線カメラでは温度を測って可視化します。サーモグラフィが赤外線カメラに当たりますね。温度差を赤外線カメラで検知することにより、傾斜角、つまり地形の傾きを推定しています。

赤外線カメラを使う最大のメリットは、通常の可視光のカメラでは推定が困難な領域でも推定が可能である点です。ローバが探査するような惑星・衛星の表面は地球と比較しても特徴的な地形が少ないのですが、そのような領域では正確な地形の傾きを推定することが困難です。可視光カメラでは通常2台のカメラで三次元情報を得ているのですが、そのためには左右の画像の対応付けが必要となります。対応付けとは、左の画像のある点が右の画像の中ではどこに当たるのか探索することです。特徴が少ないと左右の画像の対応付けが困難となるので、推定が困難になります。この手法は地表面温度だけを使用しているため、地形の特徴によらず推定が可能であり、惑星探査には向いているのです。

坂本さん:自律化のテーマからは離れるのですが、僕は小型ローバの研究に携わっています。大型のローバであれば多少の障害物は乗り越えられるのですが、小型のローバだとわずかな段差も乗り越えられません。そこで「ジャンピングローバ」というものを研究しています。文字通り、障害物をジャンプして乗り越えようというものです。そのためには極限まで軽量化をする必要があります。通常はローバを動かすためにモータを使用するのですが、軽量化を追求するためには電磁モータは重いため、ジャンプするためには向いていません。そこで「形状記憶合金※」を利用したローバの研究をしています。形状記憶合金とは、温度が高いと強い力を伴って元の形状に戻ろうとする金属のことです。

※形状記憶合金:同じ力を出すのにモータの種類はいくつかありますが、形状記憶合金の特徴は軽いことです。ローバの軽量化の研究において、形状記憶合金はモータに適した素材であると言えます。

 

−地球からの探査だけでなく、実際に着陸して探査するのはなぜですか?

坂本さん:地球からの観測で得られた画像の解像度には限界がありますが、惑星探査では物理的なデータを含め膨大なデータが得られるからです。遠く離れた地球から観測するのと、実際に着陸して観測するのとでは全く異なります。

 

−研究をしていて楽しい点は何ですか?

坂本さん:新しい惑星探査ローバを作っているということそのものが楽しいですね。最先端のことをやっているという感覚があります。

渡邉さん:学部4年生のとき、JAXA相模原キャンパスの特別公開に向けて、研究室にある小惑星「イトカワ」の模型を僕が持ってローバが自ら見つけるというプログラムを書いたんです。結果的に特別公開には間に合いませんでしたが、それが上手くいって自分の思い通りにローバが動いてくれた時は嬉しかったですね。

 

−そのローバを私たちも実際に見るチャンスはありますか?

渡邉さん:宇宙科学研究所の相模原キャンパスで特別公開を実施するのですが、そこで見ることが出来ます。それに向けて、ローバの足回りやソフトウェアなどの役割を分担して、研究室のメンバー全員で準備しています。

自律で障害物を認識・回避して目的地まで走行することを目標にしているのですが、その初期段階として、僕は画像を用いた障害物認識プログラムの作成に取り組んでいます。

坂本さん:僕は、障害物を自分で見つけて避ける経路を作り、命令を変更して、ローバが自分で考えて動く、という機能を実装することを目標に取り組んでいます。

 

研究への想い

−国内でローバがさらに発展するのに必要な研究はなんでしょうか?

渡邉さん:コンピュータのハード、ソフトの両面を発展させる研究が必要だと考えています。僕の研究分野の画像処理の技術に関して言えば、ローバに乗っているコンピュータは何十年も前の性能のものを使っています。宇宙空間の放射線の影響により使わざるを得ず、可視光カメラで撮影した画像1フレームの計算にも時間がかかってしまいます。このような厳しい条件でも、安定して長い距離を自律で走行させる技術が求められると思っています。

坂本さん:小型・複数台のローバには未来があると思います。小型・軽量化されたローバが実現すれば複数台のローバを一度に打ち上げることが可能となり、結果探査にかかるコストが削減されます。さらに、この方法では従来のように一台のスーパーロボットを持っていくやり方よりも、予期せぬトラブルや故障に対してよりロバスト(ある機械の性能やパフォーマンスが環境の変化などの外的要因によって変化することを阻止する内的な仕組みのこと。堅牢性、強靭性。筆者挿入)であると言えます。また、惑星に着陸してからの故障のリスクも下がります。大型のローバだと一台が壊れることへのリスクが大きいですが、小さければ多少危険な場所への探査もリスクを恐れずに行えます。壊れても費用的にも被害が少ない上、他のローバで補うことができるためです。この分野において、日本で研究がさらに進めば、他の国から1歩リードすることが出来ると思います。

 

−高校の授業で活きていることはありますか?

坂本さん:僕は数学だと思います。

渡邉さん:僕はソフトウェアの開発を現在しており、高校でソフトウェアの授業はなかったので直接的にリンクしている科目はないですが、物理や数学はどの分野でも必要だと思います。

 

−どんな高校生でしたか?

渡邉さん:ソフトテニス部に入っていたのですが、練習後は部室でトランプなどをしている普通の高校生でした。

坂本さん:僕も部活をやっていて、休みの日は家でゆっくりしていました。宇宙の研究をしようとは当時は思ってなかったのですけど、もし思っていたら航空宇宙学科のような学科に行っていたと思います。そうすると、いまローバとは関わってなかったと思うので、面白いなあと思います。

 

−今後、どのような形で宇宙研究に関わっていきたいですか?

坂本さん:ローバ研究にずっと関わっていきたいなと思っています。

渡邉さん:僕は来年就職するので研究は終えるのですが、宇宙事業には関わっていきます。それまではローバの研究を頑張りたいなと思います。

 

−宇宙への想いを教えてください。

坂本さん:僕は宇宙というものは、ただの空間であって、そこに存在している物質が時間軸に沿って物理法則を守りながらエネルギを交換している、ただそれだけのものだと思います。

僕たちが今いるここも宇宙ですし。当たり前のことが起きているだけのことに特別な意味を見出すことが、僕はあまり好きではないんです。宇宙分野だから何かが特別だ、という考えは持っていなくて、自分の専門にこだわらずに情報を集めたいと思っています。

渡邉さん:僕は、宇宙飛行士は全然目指していなくて、宇宙に行きたいとはあまり思っていません。むしろ、自分が関わった探査機なり人工衛星を地上から見ていたいです。そして、それが人々の役に立ったり、新たな発見に役立ったりしてくれればこの上ない幸せだなと思っています。

 

−今後の宇宙開発について思うことはありますか?

坂本さん:SFみたいなことが起きてほしいです。宇宙エレベータとか、月面基地とか。太陽系を脱出して他の星に行ける移動手段が出来るといいですね。

渡邉さん:僕も生きている間に宇宙エレベータができれば、夢があっていいなと思います。あとは、約40光年先に地球によく似た惑星が見つかっているので、そこまで行って探査できるようになってほしいです。

 

−最後に宇宙高校生に向けてメッセージをお願いします。

坂本さん:遊ぶのも大事ですが、今は勉強をしっかり頑張って下さい。でも、やりたいことは見失わないようにして下さい。

渡邉さん:宇宙が好きだけど、自分には宇宙は無理だって思っている人は多くいると思うのですが、誰にでもチャンスはあると思っています。僕もそういう学生の一人だったのですが、行動したことによって全てが良い方向に変わっていったので、まずは行動してみる、「やってみる」ことが大切 。

左:坂本さん、右:渡邉さん

 

地球上や惑星・衛星軌道上からの観測とは異なり、惑星・衛星に着陸して観測すれば大量のデータが得られます。しかし、遠い惑星との通信は時間もかかり地表には斜面や岩石など危険がたくさんあります。そのたくさんの問題を解決するために、作中のムッタやNASAのバギー開発チームのような人たちが様々な方向からの研究をしていることがわかりました。

機体の小型化、危険を自ら察知する自律運転など、今後更なる発展が期待されるローバ。その発展を支える宇宙学生、リアルムッタの姿を垣間見た今回の取材でした。

お二人が研究されている惑星探査ローバが実際に見られる、JAXA宇宙科学研究所の特別公開の詳細はこちら!

JAXA相模原キャンパス 特別公開2017
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「宇宙学生」前回の記事はこちら
『宇宙学生』 とりあえず手を動かすことから始めよう

 

「宇宙学生」昨年の連載記事はこちら☆

第一回 宇宙を「広報する」って?
第二回 宇宙開発は理系のモノ?
第三回 宇宙科学研究所の学生ってどんな人?
第四回 大学生がロケットに関わるには?
第五回 宇宙建築って何だ?
第六回 HAKUTOメンバー 川﨑 吾 「一歩踏み出すこと」の大切さ