隣のロボット

隣のロボット

ロボットづくりとその仕事について紹介する、ロボット開発の会社で働く村上さんのコラム。

第6回『隣のロボット』ーーロボットはサラリーマンにつくられる 良いチームをつくる方程式は存在するのだろうか?

第6回『隣のロボット』ーーロボットはサラリーマンにつくられる 良いチームをつくる方程式は存在するのだろうか?
第6回
ロボットはサラリーマンにつくられる 良いチームをつくる方程式は存在するのだろうか?
最初はくせ者ぞろいだったムッタたちジョーカーズ。たよれるリーダー・エディを迎え、同じ目標である”月面探査”を目指すうちに、お互いを信頼し、助け合う最高のチームへと変わっていきました。
今回の『隣のロボット』は、ロボットづくりのための、”仲間集め”について。 0からはじめたロボットベンチャーの中で、”良いチーム”をつくる時に必要なことは…? ロボットと一緒に、チームも完成されていくその裏側の過程を、お楽しみください!

アニメや映画でよくあるように、ロボットはひとりの天才だけでつくれるものではない。

ロボット開発に用いられる技術は多岐に渡り、プログラミングも、ものづくりの面でも膨大な作業になる。だから、会社でも研究機関でもチームを組んで開発を行うことになる。

フラワー・ロボティクスは自律移動型ロボットPatin(パタン)を一般に販売することを目指している。会社の事業としておこなうならば、お金と時間の感覚も不可欠だ。

資金も組織力もないベンチャーがロボットをつくるためには多くの課題があるが、特に難しいのはチームづくりだ。どんな組織をつくるか、というテーマは会社の根幹に関り、将来を左右する。

日々改善し、変化している途中だが、これまでフラワー・ロボティクスがどんなチームで動いてきて、そしてこれからどんなチームを目指しているのかをお伝えしたいと思う。

‐アイデアの種を芽吹かせる 〜どんなロボットをつくろう〜

「どんなことをしようかな?」

と考えている段階では、やる気のあるひとりがいれば足りる。

この「やりたいこと」を定めて、具体的にするのが最初の大きな関門でもある。

フラワー・ロボティクスで次はどんなロボットをつくるべきか、ということを考え始めたのは、ロボットブームがはじまる少し前、2013年の冬頃。これまでヒューマノイド(人型ロボット)をつくってきたフラワー・ロボティクスだったが、人間や生物の形を実現することが目的ではなかった。

モノの形状はそれが果すべき目的で決まる。

人の生活をサポートするロボットとしては、現在のテクノロジーとものづくりの技術を考えあわせても、人型である必要はないと判断した。

そこで出たのが、台車型ロボットという発想である。さらに単機能ではなく、複数の機能を取り替えて使えるロボットはどうか、というアイデアが生まれ、台車型の本体+機能を持ったサービスユニットという構成が出来上がった。

この段階では、フラワー・ロボティクス代表の松井とロボットに関心をもつ人たちがブレストの形で進めていた。
1秋葉原で購入したセンサーで実験を重ねるのも日常茶飯事である

‐アイデアを形にしてみる 〜図面を立体に、動くロボットに〜

Patinのコンセプトは出来上がったが、まだ紙の上の存在である。

世に出すために、まずは想定する「Patin」を作ってみなくてはならない。

これまでの回で書いたように、技術的にも、ハードウェア的にも多くの制約がある中で、実現する機能の精査と、それを成立させる「体」をつくる必要があった。

Patinのイメージを図面に起こすエンジニアがメンバーに加わったが、設計はできるもののロボットの専門家ではない。そこで、フラワー・ロボティクスで学生時代にアルバイトをしていた博士号を持つロボットエンジニアの協力を仰ぐことにした。

ベースとなるデザインをもとに、技術とメカの視点から調整していく。

「設計図」ができあがったら、実際にそれが動くのかをつくる作業に入る。
開発が進むと、必然的に「開発分野」と「作業量」の両方が増える。

制御、音声認識、画像処理、センサー、回路設計、ファームウェアなど開発内容は分岐していき、それぞれに高度な専門知識や経験が必要になる。既存のメンバーで対応しきれなくなると新しいメンバーを採用しなくてはいけない。

同時にやるべき業務もどんどん増えるので、単純に人手も足りなくなる。
このとき、選択肢は現状維持か、人を増やす、の大きく2つがある。

私たちは「必要ならば補充する」という方針で進めていった。

ロボットという不確実性の高いものを開発する中で、とりあえず完成形を見たい、という気持ちが強かった。

ロボット開発においては、「現在の技術では無理」「実現するには10年時間が必要」という結論は珍しいものではない。そうなれば、体力のないベンチャーは方針を変える必要がある。

私たちは理想のロボットをつくれるのか、つくれないとしたらその理由はお金か、時間か、能力か。判断のために、想定しているPatinを完成させる、あるいは「できない」と結論を出すことが私たちの至上命題だった。

こうして2015年はPatinに関わるメンバーがどんどん増えていった。
2各分野の専門エンジニアが集まり日々問題を検討、解決していく

‐開発と製品化のジレンマ 〜スケジュールと予算、襲い来る現実〜

頭だけで考え、手を動かさずに「無理だよ」と開発をやめるなら、ロボットベンチャーをやる意味はない。だが「無理」という結論を出すのは非常に難しい、という事実に気づかなかった、あるいは見て見ぬふりをしたというのが私たちの失敗であった。

日々刻々と新しい技術は出てくる。この技術があれば、あの部品があればと、「可能性」を探ってしまう。エンジニアとはそういう生き物だ。それがイノベーションの源泉でもあるのだが、事業としておこなう以上、どこかで区切りをつける必要がある。

すべての可能性を検証するにはお金と時間がかかる。また、終わりは決して訪れないのだ。

私たちのもうひとつのミスは、スケジュールに縛られ過ぎていたことである。

Patinは2014年のコンセプト発表のときから、2016年の発売を公言していた。

本来、試作を完成させてから製品版に移るところを、同時並行して進めたことで無理が生じた。

開発と製品化、両方のコストが嵩み、リソースが分散しているのでスケジュールも遅れる。ベンチャーにとってデッドラインに片足を乗せている状態だった。

このままでは一生製品は出来上がらないと判断し、私たちは意図して視座を下げることにした。

‐ロボットもチームもリセット 〜ゴールに辿り着くために、前向きに諦める〜

ベンチャーはその時やるべきことと、長期的な目標を達成するためのスケジュールに折り合いをつけながら進まなくてはいけない。

今をきちんと積み上げなければ、未来はやってこないのである。

私たちは機能を精査し、確実にできることを、高い精度で実現する方向に舵を切った。

なんでもかんでも実現しようという頭を捨て、もう一度Patinの価値、実現すべきことを考えなおし、必要なことにリソースを集中することにした。

決断までには大きな抵抗感や迷いもあった。

今この開発を止めると全体のスケジュールが何ヶ月遅れるとか、この機能がなければロボットではないとか、社内外から多くの意見が出てきた。費やしてきたものを惜しむ気持ちもある。

お金だけでなく、メンバーそれぞれが時間も気持ちも注いで来たわけだから、ひとりひとりにロボット、Patinに対して思いと理想がある。

だが、みんなの意見をまとめたものではなく、「ロボットを日常の風景にする」という、私たちのビジョンを体現するロボットとしてつくらなくては意味がない。

肥大化し、薄まってしまった思いを凝縮する必要があった。結果として開発分野、製品化への作業などを減らしPatinもチームもシンプルになった。
組織のフェーズが変わると、事業のために必要な能力も変わっていく。そのとき、足していく思考だけでなく、入れ替えたり減らしたりする発想も不可欠だ。仲間が増えると勢いは増し、前に進む速度が上がった気がする。うまくいっている感覚が芽生えてしてしまう。

だが何か問題が起きたとき、人間は部品を交換するように気軽に変えられるものではない。勢いだけでなく、慎重さが必要だと改めて学ぶ機会だった。
選んだ道がどこに繋がっているかは定かではない。ただ、この決断を正しいものにしなくてはいけないことだけは確かだった。
3社内外のエンジニアとMTGをおこない、進捗や計画を共有しながら進める

‐よいチームになるためには、中身も枠組みも大切

フラワー・ロボティクスは今年15年目を迎える。

15年経ってもチームづくりの正解には辿りつけず、まだまだ試行錯誤が続いている。

ひとつ明らかなのは、強いリーダーシップやマネジメントだけでうまくいくわけでなく、働くひとりひとりが能力を持ち、前に進む意識が無くてはチームは成り立たないということだ。

自ら考え、動き、それぞれの役割を果たしながらも、必要なときは手を取り、力をあわせる必要がある。

チームで動く中で問題にぶつかると、自分ひとりでなんでもできればとても楽だと思う。だが、仲間によってより早く、より大きな目標に辿り着けることがほとんどだ。

これまでPatinの開発には何十人ものメンバー、いくつもの企業の協力を得てきた。これからもたくさんの人や組織の力を必要とする。

そういえばドラえもんは誰がつくったのだろう?と思って調べてみたら、公式には指定されていないということを知って驚いた。確かに、ロボット製作者はひとり、というのは実情と異なる。

エンジニア以外の、経営やマネジメント、法務、営業など直接開発に関わらないメンバーもPatinを生み出すのに不可欠な存在なのだ。

多くの人や組織の力を借り、育っていくロボット。それがベンチャーらしいロボットの作り方ではないかと考えている。
44月から本社とラボとが合流。密なコミュニケーションを取れるように

==次回の予告==

ドラえもんについてもうひとつ得た知識なのだが、ドラえもんは量産品なのだという。

名も無きエンジニアが開発した未来の世界のネコ型ロボットドラえもんが工場のラインを流れる画像を見つけて、大変なことばかりだけれど、やはりロボットは量産する前提で作られるべきなのだと自分たちの方向性に裏付けをもらった気分になった。私たちは世界に一体のロボットを作っているわけではない。

Patinは昨年末から一般に公開する機会が増えてきた。製品化へ一歩ずつだが歩みを進めている。

次回は、Patinを研究室から「社会」へ出す苦闘をお話しようと思う。

 

〈著者プロフィール〉
村上美里
熊本県出身。2009年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業。市場調査会社(リサーチャー)、広告代理店(マーケティング/プロモーション)、ベンチャーキャピタル(アクセラレーター)を経て2015年1月よりフラワー・ロボティクス株式会社に入社。