ヒマワリ型衛星で地球外生命の証拠を探せ!宇宙兄弟

《第12回》宇宙人生ーー宇宙人はいるのか?《後編》 NASAが本気で地球外生命を探すわけ

2015.08.28
text by:編集部コルク
アイコン:X アイコン:Facebook
《第12回》
《後編》NASAが本気で地球外生命を探すわけ
「宇宙人はいるのか?」という疑問に迫ってきた連載もいよいよ最終回。中編では前編で紹介した遠く離れたところにある地球に似た星を具体的に調べる方法をご紹介しました。今回はもっと身近な太陽系の中にいるかもしれない「地球外生命体」のおはなし。あなたの身近にもやっぱり宇宙人はいる⁉

 
先の二回の記事で、ケプラー宇宙望遠鏡は何百光年、何千光年も離れた宇宙の彼方に1000を超える惑星を発見し、ヒマワリのような形をしたStarshadeという人工衛星を使うことで近い将来にそれらの惑星に生命が存在することの間接的証拠をつかむことができるかもしれないこと書きました。

しかし実は、地球外生命は、もっともっと近く、僕たちの太陽系の内で見つかる可能性もあります。

2020年に打ち上げ予定の火星ローバーが生命の痕跡を探しにいくことは先の号外記事で書きました。しかし、太陽系で地球外生命が見つかる可能性がある星は火星だけではありません。

2012年、ハッブル宇宙望遠鏡は、木星の衛星エウロパの南極上空に水蒸気があることを発見しました。エウロパといえば、星全体が分厚い氷で覆われた極寒の世界です。そのどこから湯気なんかが沸いて出てきたのでしょう。エウロパに寄り道した宇宙人がラーメンでも食べていたのでしょうか。

実はエウロパ、表面を覆う分厚い氷の層の下に液体の海があるという説が有力視されています。水蒸気はラーメンの湯気ではなく、地下の海の水が、氷の割れ目を伝って、クジラの潮吹きのように吹き出てきたのではないか、というのが多くの科学者の予想です。実際、土星の衛星エンケラドスから潮が高さ数百キロにわたって噴き出している様子を、NASAの探査機カッシーニが撮影しています。これはエンケラドスの地下に液体の水が存在する動かぬ証拠になりました。

宇宙人生14
土星の衛星エンセラドスで見つかった「潮吹き」。Credit:NASA/JPL-Caltech

そしてエウロパやエンケラドスの地下の海こそ、地球外生命が見つかる可能性がもっとも高い場所のひとつなのです!

しかし木星や土星はハビタブル・ゾーンのはるか外側に位置します。エウロパも表面温度はマイナス160度の極寒の世界です。どうしてそんな場所で水が凍らずに存在できるのでしょうか?

鍵は木星の重力にあります。木星の重さは地球の318倍もあり、重力も強力です。木星はこの重力によって、まるでパン生地をこねるように、エウロパを「モミモミ」と揉んでいます。もちろんエウロパはパン生地みたいに柔らかくありませんから、目に見えてぐにゃぐにゃと変形することはありませんが、このモミモミの力、すこし硬い言葉を使うと潮汐力が、エウロパ内部に熱を発生させ、水を液体に保っていると考えられているのです。エンケラドスに地下の海が存在するのも、土星にモミモミされるからです。

その海に生き物がいるとしたら、どんな形をしているのでしょう。単純な微生物なのか、それともひょっとして魚のような高等動物もいるのか。スターウォーズマニアの僕としては、エピソード1に出てきたグンガンのような水中の文明がありやしないかと、つい妄想が膨らんでしまいます。

『宇宙兄弟』の5巻で、手島有利がエウロパの生命探査に参加するために、せっかく最終選考まで進んだ宇宙飛行士の選抜を辞退するシーンがあったのを覚えていらっしゃるでしょうか。あれは作り話ではありません。エウロパの生命探査という手島の夢は、現実にNASAで計画が進んでいるのです。

スクリーンショット 2015-08-25 15.03.27『宇宙兄弟』作中のJPLによるエウロパミッションは作品の設定であり、実在するものではありません。

現在、2020年代の打ち上げを目指して、エウロパ・クリッパーという名の探査機の開発がNASAジェット推進研究所で進められています。木星の周りを回りながらエウロパを上空から観測する探査機で、氷を透過するレーダーを備えており、地下の海がエウロパのどこに、どのくらいの深さで広がっているのかを調べる予定です。

さらに、もし本当に潮吹きがあったならば、潮を突っ切るようにエウロパ・クリッパーを飛ばして、水蒸気の中にどのような物質が含まれているかを質量分析器で直接調べることができます。いったい何が見つかるのでしょうか。もしかしたら生命の存在を示唆するような物質がみつかるかもしれません。あるいは豚骨や味噌の成分でもみつかれば一転してラーメン説が有力になるかもしれませんし、どんなスープのラーメンを宇宙人が好むのかも明らかになるでしょう。

宇宙人生14-2エウロパ・クリッパーの想像図。Credit:NASA/JPL-Caltech

それにしても、どうしてNASAはここまで血眼になって地球外生命を探しているのでしょうか。その理由は、みなさんが「宇宙人はいるの?」と聞く理由ときっと同じです。

Are we alone?
僕たちはひとりぼっちなのか。

たった3つの単語で表されるこの問いこそ、人類文明にとってもっとも根源的な問いのひとつではないでしょうか。

人類とは、虫かごの中で生まれた一匹のアリのようなものです。卵から生まれて、周りを見渡して、誰もいない。僕は本当にこの世界でひとりぼっちなのか。仲間はどこにもいないのか。

決してそんなはずはない。そう信じているからこそ、そのアリは生まれた虫かごから恐る恐る這い出して、仲間を探す旅に出たのです。

その旅は始まったばかりです。人類文明は5000年にわたる歴史のほとんどの期間を、虫かごの中に篭って過ごしてきました。この50年でようやく、そのアリは虫かごからほんの数歩だけ外に出ることを覚えました。

Are we alone? 旅に出たアリはいつか仲間と出会い、この問いへの答えを見つけるでしょう。それは案外、そう遠くない未来なのかもしれません。

ところで、もし読者のなかに地球人のフリをした宇宙人の方がいらっしゃったら、TwitterかFacebookでこっそり連絡をください。ぜひラーメンでもすすりながらあなたの星の話を聞かせて欲しいと思います。もちろん秘密は守りますよ!

(『宇宙人生』【第12回】宇宙人はいるのか《前編》はこちら)

(『宇宙人生』【第12回】宇宙人はいるのか《中編》はこちら)

***


コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!

書籍の特設ページはこちら!


〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。

2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。

本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。

■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
《号外》史上初!ついに冥王星に到着!!NASA技術者が語る探査機ニューホライズンズへの期待
第11回<前編>:宇宙でエッチ
第11回<後編>:宇宙でエッチ
《号外》火星に生命は存在したのか?世界が議論する!探査ローバーの着陸地は?
第12回<前編>:宇宙人はいるのか? 「いないほうがおかしい!」と思う観測的根拠
第12回<中編>:宇宙人はいるのか? ヒマワリ型衛星で地球外生命の証拠を探せ!
第12回<後編>:宇宙人はいるのか? NASAが本気で地球外生命を探すわけ
第13回:堀北真希は本当に実在するのか?アポロ捏造説の形而上学
《号外》火星の水を地球の菌で汚してしまうリスク
第14回:NASA技術者が読む『宇宙兄弟』
第15回:NASA技術者が読む『下町ロケット』~技術へのこだわりは賢か愚か?