MOONWORKERたちの現場 日揮編(前編) 2040年の月面インフラ整備に挑戦する若き宇宙エンジニアたち | 『宇宙兄弟』公式サイト

MOONWORKERたちの現場 日揮編(前編)
2040年の月面インフラ整備に挑戦する若き宇宙エンジニアたち

2025.11.11
text by:編集部コルク
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「ちょっとだけ無理なことに挑戦してこーぜ」。

ムッタの言葉のとおり、『宇宙兄弟』にはいろいろな挑戦の姿が描かれています。夢に向かって一歩を踏み出す挑戦。不可能に見えることをあきらめずに実現しようとする挑戦。自分の持ち場で淡々と最善を尽くし続ける挑戦もあります。

宇宙飛行士も、地上で社会を支える人も。

私たちは、挑戦するすべての人をMOONWORKER(ムーンワーカー)と呼んでいます。

この記事では、そんなMOONWORKERたちの現場を訪ね、その仕事と想いをお届けしていきます。

■今回のMOONWORK現場:日揮グローバル株式会社
日本を代表するエンジニアリング企業の日揮グローバル株式会社。
海外におけるエネルギーや化学、医薬、環境、社会インフラまで、巨大な設備を設計し、世界各地から
機材を調達し、建設、運転操業までを担っています。国内外のプロジェクトで培った安全・品質・生産性のノウハウを武器に、地上のインフラを支えています。

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■着用いただいたTシャツ
MOONWORKER TシャツがJCG(日揮)のロゴ入りユニフォームに!
宇宙飛行士が宇宙服に守られ、過酷な宇宙空間に挑むように。MOONWORKER Tシャツは、挑戦する人を応援し、高機能・高技術で支えるTシャツです。

記事の前編と中編では、日揮グローバルが次に見据える場所のひとつ「月面」を舞台に、2040年の月面インフラ構築に向けて進める取り組みをご紹介します。

記事の後編では、日揮グループにおいて国内プラントの設計・調達・建設事業とメンテナンス事業を担っている日揮のメンテナンス現場で活躍するMOONWORKERたちの姿をご紹介します。

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2040年の月面インフラを目指す、若き宇宙エンジニアたち

『宇宙兄弟』は連載当初、近未来の物語として始まりました。第1巻が描かれたのは2025年。そして、六太は宇宙飛行士へと歩みを進め、4年後の2029年には月面ミッションに参加することになります。作中の2029年 ——月に基地があり、長期滞在が可能になる様子が描かれています。

そのビジョンは現実にも重なりつつあります。アルテミス計画では月面着陸と長期滞在に向けた準備が進み、日本のエンジニアたちも動き始めました。

「人が月で暮らすなら、酸素・水・燃料のインフラが要る」

そう考えた日揮グローバルのエンジニアは、地上で培ったプラントエンジニアリング技術や知見を、月面という“次の現場”へと拡張しています。プロジェクトを担うのは、30代中心のエンジニアチーム「月面プラントユニット」。2040年の実装を見据え、概念設計と地上実証を着実に積み重ねています。

左から、宮下俊一さん・眞杉美帆さん深浦希峰さん・森創一さん・田中秀林さん・小川航輝さん

We Are Space Engineers(宇宙エンジニア)!

日揮グローバルの「月面プラントユニット」。現在約6名のメンバーが、「宇宙エンジニア」として未来の月面インフラ構築に挑んでいます。今回は、その方々にお話を聞かせていただきました。

■宮下 俊一さん 開発管掌&プロジェクトディレクター

「エンジニアから世界を変えていく」という強い意志を胸に、DX(デジタルトランスフォーメーション)とSX(スペース・トランスフォーメーション)を推進する責任者。宇宙兄弟で好きなキャラはハガード。「困難な局面でも動じず、組織を正しく導く力がある。あの”強面だけど明るい”感じも良いですよね。私もそうありたいなと思っています」と語ります。

■深浦 希峰さん 月面プラントユニットリーダー&プロジェクトマネージャー

学生時代にロケット打ち上げの団体に所属。 前回(2021年-2022年)の宇宙飛行士選抜試験も受験。2018年から有志として宇宙事業を模索し、2020年12月の月面プラントユニット発足時には、一人目の専任メンバーとして参加しました。JAXAに出向経験もあり。好きなキャラは福田さん。「実はJAXA出向中、福田さんのモデル・植松洋彦さんの真ん前の席だったんです(笑)。自分の道筋を見つけながら歩まれている姿というのが、福田さんという漫画のキャラクターと、さらにモデルになった植松さんご本人がリンクしていて、私もそういうふうに進んでいけるといいなと尊敬しています。」

■森 創一さん プロジェクトマネージャー&メカニカルリードエンジニア

機械エンジニアとして、国内外の石油化学や医薬プロジェクトを経て、月面に挑戦。「日本の技術を集めれば、月面開発は必ずできる」と信じ、社外パートナーとの連携も推進。好きなキャラは六太。「人間味があって、一緒にいたらきっと楽しい。大学時代はエンジンの研究で機械に囲まれて毎日油まみれになっていました。私も日揮グローバルに入社していなければ、自動車の会社にいたかもしれません。ムッタの姿にどこか親近感があります。」

■田中 秀林さん エンジニアリングマネージャー&プロセスリードエンジニア

プラント全体の思想や仕様、装置構成など基礎検討全般を担当。宇宙事業に誘われ、「もう一歩先の挑戦をしてみたい」と参加。好きなキャラはビンス。「一緒に仕事をするならビンスがいいですね。良いことは良い、悪いことは悪いと明確に伝えてくれる人で、発言が理にかなっている。そして何より信念と熱い想いも秘めている。エンジニアとして、とてもやりやすいタイプだと思います。」

■眞杉 美穂さん 電気計装制御エンジニア

航空宇宙工学出身でロケットエンジン研究の経歴を持つ筋金入りの宇宙好き。2025年にジョイン。「制御」という下流工程のスペシャリストとして、チームに新しい風を吹き込んでいます。好きなキャラは日々人。「目標に向かって努力を重ねながらも、やさぐれず純粋な少年の心を持っているのが好きです。」

■小川 航輝さん プロセスエンジニア

中学生のときに『宇宙兄弟』と出会い、就活時に化学工学の分野で宇宙産業に貢献できる仕事をしたいと考えていたところ、「月面プラント」のリリースを見て入社を決意。かけ出しながらも「六太に似ている」と仲間から声をかけられる期待の新星です。好きなキャラも六太。「いつも誰かを想って行動する六太の姿が本当に素敵で憧れです。『やったことの結果が誰かの”意味のあること”になればいいんだ』という六太の言葉が好きで、私もそんな仕事をたくさんしていきたいなと思っています。私もシャンプーがよく泡立ちます

2つの火種が月面事業をスタートさせた

月面プラントユニットの活動は、2人のエンジニアが抱いた小さな火種から始まりました。

最初の火種――深浦さんが見つけた一文

2018年、アメリカで「アルテミス計画」が国家戦略として打ち出され、人類を再び月に送り出す準備が本格的に動き始めました。
その動きに呼応するように、日本国内でも「この新たな月探査時代にどう貢献するのか」が議論され、政府資料の片隅にはこんな一文が出てきました。

「月面の水資源を活用した水素・酸素の燃料製造プラント」

当時、入社4年目だった深浦さんはその文字を目にした瞬間、胸が高鳴ったといいます。
「きっともう、どこかの企業が動き出しているんだろう」と思いながらも確かめずにはいられず、JAXAに直接話を聞きに行きました。

返ってきた答えは意外なものでした。
「構想はあるのですが、まだ具体的な事業者は決まっていません。むしろ、御社のような企業が興味をもってくださるなら、大変有り難いです」

思いもよらない言葉に、心臓が跳ねた瞬間。
「まだ何の権限もない若手ではあるけれど、これは会社に持ち帰って、なんとか動かしてみよう」
そう強く決意したのです。

社内で挑んだ小さな第一歩

深浦さんが向かったのは、社内の「EPC新技術創造ワーキンググループ」。
石油や天然ガス以外の新分野から新しい技術を探るために立ち上げられていた組織です。

「宇宙から新しい技術を持ってくる。だから、宇宙市場を調査させてほしい」

そう提案した深浦さんの声は、最初は小さなものだったかもしれません。
けれどその一歩が、同じように宇宙に関心を抱いていた仲間を少しずつ呼び寄せていきました。

やがて2018年には有志による調査活動が本格的に始動。
ただ、マネタイズの方法も、どんなふうに事業を請け負うのかも見通せず、活動は一度縮小してしまいます。
それでも深浦さんの胸の奥には、あのときJAXAから返ってきた言葉が燃え続けていました。

二つ目の火種 ――森さんが持ち帰った宇宙への想い

2019年。日揮グローバル社内で「2050年の将来の日揮を考える」という若手提案企画が立ち上がりました。未来の事業を自由に描き、最終的に社長・会長へ直接プレゼンするという挑戦的な場。そのテーマのひとつに「宇宙」がありました。

そこに手を挙げたのが、クウェート勤務から帰国したばかりの森さんです。
宇宙に特別なキャリアはありませんでした。けれど、心の奥底ではずっと「宇宙」が身近にありました。

幼い頃、筑波で暮らしていたときにJAXAの公開イベントで体験させてもらった水ロケットや火薬ロケットの打ち上げ。
中高時代を過ごした愛知では、親友のお父さんである小笠原宏さんが重工メーカーでロケット関連の仕事をしていて、その縁で夏休みに手渡された一冊の本――『アポロ13号奇跡の生還』。その本は、ずっと森さんの本棚に眠っていました。

やがて社会人になり、クウェートでのプラント建設現場勤務を終えて日本に戻ったある日。東京・八重洲の居酒屋で、その小笠原さんと再会します。

お酒を飲み交わしながら、ふと森さんは口にしました。
「日揮で宇宙なんて、どうでしょう?」

返ってきたのは、即座の肯定でした。
「面白いじゃないか。やってみたらいい」

その言葉に背中を押され、森さんの中で眠っていた火が大きく燃え上がります。
「本気で宇宙に関わろう」
そう決めた瞬間でした。

出会い、そして合流

ちょうどその頃、社内で宇宙をテーマに有志活動を進めていたのが深浦さん。
やがてふたりは出会い、互いの火種を持ち寄るようにして動き始めます。

別々に芽生えた想いが交差し、共鳴し、ひとつの流れとなっていく――。
この出会いこそが、月面プラントユニットの本格始動へとつながる大きな転機となったのです。

エンジニアのハートに火をつける!ボトムアップで部署設立

深浦さんと森さんの火種が出会い、細々と続いていた宇宙×プラントの活動。
けれど当時はまだ「有志の取り組み」にすぎず、社内での正式な立ち位置はありませんでした。日常業務をこなしながら合間を縫って進める活動は、情熱だけでは限界があります。

そんな二人を陰で支えていたのが宮下さんでした。
メカニカルエンジニアリング部に所属していた宮下さんは、業務改善や新技術開発に充てられる予算を握っており、その一部を「宇宙への挑戦」にも投じてくれました。非公式ながら、技術的にも組織的にも“次の一歩”を踏み出すための足場が、静かに築かれていったのです。また、この時期に合流したのが、プロセス設計のスペシャリスト田中さん。プラントの最上流工程を描く力を持つ田中さんの参加は、構想に現実感を与え、プロジェクトに確かな厚みをもたらしました。

そして2020年、転機が訪れます。
新型コロナウイルスの世界的流行により、化石燃料を中心としたプラントビジネスが一時的に停滞。会社全体が「次の事業の柱」を模索する中で、宇宙というテーマはこれまで以上に説得力を持ち始めました。

その追い風を受け、深浦さん・森さん・宮下さん・田中さんはじめ参加メンバー達はオンライン会議で日々打ち合わせを重ね、提案資料を磨き上げていきます。

2020年6月、彼らはついに経営層に向けたプレゼンテーションの場に立ちます。

作り上げた提案は、「エンジニアのハートに火をつける取り組みだ」と経営層の共感と評価を得て、ついに正式な部署としての承認を受けるに至ります。前例のない挑戦であっても、技術者が誇りと情熱をもって立ち向かえば必ず道は拓ける。その真剣な眼差しと積み上げたロジックは、社長や会長の心を動かしました。

こうして、若手のボトムアップから始まった小さな活動は、正式に「月面プラントユニット」として部署化されました。大企業・日揮グローバルの中で、異例とも言える挑戦の火が、ついに本格的に燃え上がった瞬間でした。

ピースが集まるように…宇宙を目指して仲間が集まる

月面プラントユニットが正式に部署化されてから数年後の2025年、新たに眞杉さんが加わります。

眞杉さんは大学で航空宇宙工学を学び、ロケットエンジンの研究に取り組んでいた筋金入りの宇宙好き。実は2017年の段階で、深浦さんから「いつか一緒にやらないか」と声をかけられていたといいます。しかしその頃はオーストラリアでのプラント建設現場勤務や産休・育休と重なり、すぐに参画することは叶いませんでした。

それでも2025年、プロジェクトが詳細設計のフェーズに入り、「制御」の専門知識が不可欠になったタイミングで、ついに眞杉さんが電気計装・制御エンジニアとしてジョイン。上流から下流へと流れていくプラント設計において、“実際に動かす”部分を担える技術者の参加は、待ち望まれていた一歩でした。

さらに、月面プラントユニットの挑戦は社外にも知られるようになり、新卒採用の面接で「日揮グローバルの月面プラント構想を見て入社を志望しました」と語る学生が現れるようになります。

そのひとりが小川さんでした。中学時代に『宇宙兄弟』を読んで宇宙の仕事に憧れを抱き、就職活動のときにユニットのリリースを目にして「ここしかない」と志望。宇宙エンジニアを目指してチームに加わっています。

深浦さんと森さんが描いた構想を核に、宮下さんが組織の橋渡しを担い、田中さんがそれを“形”にまとめる。そして眞杉さんが“動かす”技術を引き受け、小川さんのような新世代が未来をつなぐ。
役割と世代のピースが揃い、月面プラントユニットは、より力強いチームへと育っていきました。

(中編に続く)

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次のページでは、「誰もやったことがない」月面でのプラント建設に挑むエンジニアたちの奮闘と、2040年に向けた構想 「Lumarnity®」 とは何かを紐解いていきます。