宇宙兄弟賞|母親で、父親で。【エッセイプロジェクト】 | 『宇宙兄弟』公式サイト

宇宙兄弟賞|母親で、父親で。【エッセイプロジェクト】

2025.11.12
text by:編集部コルク
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宇宙兄弟はじまりの年を記念して、六太がミラクルカーを退社した5月15日に募集開始した宇宙兄弟エッセイプロジェクト みんなの心のノート

「心のノートにメモった言葉」がテーマとなった第2回の入賞作品から、六太賞/日々人賞/宇宙兄弟賞の受賞作品をご紹介していきます!

今回は宇宙兄弟賞受賞作品その6。
受賞者の方には賞品として、小山宙哉サイン入り色紙を後日お送りします。

母親で、父親で。(20代 松子)

母への言葉を、探していた。

5年前、中学生だった私は、趣味で書いたエッセイが新聞に掲載されたことをきっかけに、卒業式の答辞を任されていた。

コロナ禍でも丁寧に紡いだ思い出の数々、同級生、先生への感謝。一通り書き終わった私は、最後に、母へ贈る言葉を前にして手を止めた。

文章を書くことは好きだ。将来は作家になりたいとさえ思っている。
けれど、母がくれた愛を、どう表現して返したらいいか、どうしても分からなかった。分からないまま、気が付けば『宇宙兄弟』を開いていた。


私は、言葉に詰まったときよく『宇宙兄弟』の言葉に助けられていた。愛や情熱やポジティブさを伝える方法を、たくさん教えてもらってきたからだ。

当時は確かベティがメインの回が多かった気がする。

ベティ・レイン――母親で、宇宙飛行士。

そんなベティの姿を、私はよく自分の母と重ねていた。
私の母はキャビンアテンダントで、世界中を飛び回っている。「ちょっとそこまで行ってきた」という顔をして帰ってくる母のおかげで、空と外国はいつも私のすぐそばにあった。

コロナ禍の当時も母は海外に出向き、命懸けで働いていた。
女手一つ。何不自由なく、私を育ててくれた。

ベティが危機に瀕する。クリスの不安そうな表情は、15歳の私の胸をぎゅっと締め付けた。どうしようもなくシンパシーを感じていた。世界で起こるテロ事件、未知のウイルスの脅威、空の事故ー母が帰ってこなかったらどうしようと不安で眠れない夜が、私にもあった。

そんなとき、ベティと、母の声が聞こえた。

――「私はあなたの母親だけど、」

母はいつも美味しいお弁当を作ってくれた。時差ボケだなんて言いながら、それでも早起きして。休みの日は一緒にたくさん出かけてくれた。本当は疲れているはずなのに。運動会はビデオカメラを構えてくれていた。ガタイのいいお父さんたちに揉まれながら。

2人でだって足りないはずのこの世界で、ずっと、ひとりで、私を守ってくれた。

――「私はあなたの母親だけど、あなたの父親にもなりたいと思ってた」

その言葉を目にした途端、鼻の奥がつんとした。

本当は、寂しかった。肩車、3人の家族写真、「お父さんがウザイ」となんだか嬉しそうに話す同級生。正直、羨ましかった。

でも、父が傍でくれるはずだった、もうひとつ分の愛を、母は全部背負い込んでくれていたのだ。ずっと。そう気付いたとき、寂しさも羨ましさも、ベティと母の声が溶かしてくれた。そして、抱えきれないほどの、母たちの愛だけが、丁寧に私の心のノートにメモられた。

卒業式当日、私は『宇宙兄弟』の言葉を拝借して、母にこう伝えた。

「私のお母さんであり、お父さんでいてくれて、本当にありがとう」

母は、人前では泣かない。卒業式の日も、強くて気丈な親として立っていた。でも、自分で撮ったビデオの、その言葉の部分を何度も見返して、ひとりで泣いていたことを、私は知っている。

20歳になった今でもこの言葉は、私の夢と結び付いて、心のノートに深く刻まれている。

『宇宙兄弟』が紡ぐような、温かい言葉を届けられる作家になりたい。母がひとりで抱えきれないくらいの恩を、返したい。いつか私が、母を守りたい。そしてまた、母を泣かせたい。


ほかの受賞作品はこちらから読めます
六太賞|「悩むなら、なってから悩みなさい」
日々人賞|ひとりきりで見つけたもの
宇宙兄弟賞|宇宙に咲く花
宇宙兄弟賞|心にメモった2人の言葉
宇宙兄弟賞|地球人
宇宙兄弟賞|1番最初に決めた夢
宇宙兄弟賞|シャロンに救われた過去

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