「ファンの方々と一緒に楽しみたい。一体になって盛り上げていきたい。」という川崎フロンターレと『宇宙兄弟』のスタッフに共通する想いで実現した一大企画。真夏の暑さに負けない、熱あふれる2日間となりました。
「宇宙強大」イベントレポート【中編】は、8月6日のイベントの舞台裏をたっぷりお届けします!
川崎フロンターレの本拠地・等々力競技場で、小山さんがデザインした宇宙服ユニフォームを着用する選手たち。そして、中学時代はサッカー少年だったという小山さんが、始球式セレモニーでシュートをする大役に。果たして当日、どんなドラマが待っていたのでしょう…?
■お祭りのあとは、大事な公式戦が待っている
川崎フロンターレと、JAXAや『宇宙兄弟』がコラボレーションして開催となった夏の一大イベント「宇宙強大」。1日目の8月6日は、日が高いうちから等々力競技場周辺に、たくさんの人が詰めかけました。スタジアム周辺で、「宇宙兄弟ブース」をはじめ数々の催しが展開されて、好評を博しました。
日が少しずつ傾いて、猛暑がようやく緩みかけてくると、人出はますます増えてきました。それはそうです、スタジアムでは19時から、J1リーグの公式戦がおこなわれるのですから。ホーム川崎フロンターレが、ヴァンフォーレ甲府を迎え撃ちます。この日の時点で、フロンターレは年間順位1位をキープ。夏場をうまく乗り切れば、優勝の二文字も浮かんできます。サポーターも、応援に熱が入るというものです。
それに、地域との交流や、サポーターを楽しませることに注力してきたのがフロンターレというクラブです。チームの調子如何にかかわらず、約2万5千人収容のスタジアムは、常時たくさんの観客で埋まるのです。
今宵も2万人超えの動員が見込まれるスタジアムの周辺は、夏祭りのように盛り上がっています。その喧噪を縫うようにして歩いて、スタッフ出入口にたどり着いた男性がひとり。スニーカー履きの軽装で、一見サポーターに紛れてしまいそうですが違います。そう、小山宙哉さんです。
■小山宙哉、大役を担う
なにしろこの日は「宇宙強大」デー。試合直前、小山さんは観衆の前に立って挨拶をし、そのあと始球式としてPKを蹴ることになっているのです。控室に通された小山さん、まずはクラブのスタッフから段取りの説明を受けます。
どうやら、試合に向けて万事整ったピッチの真ん中で、一挙手一投足を見られながらマイクを握り、そのあとすぐにゴール方面へ移動してシュートを決めなければいけないようです。キーパー役は川崎フロンターレのマスコットキャラクター、フロン太くん。着ぐるみなのでけっこうボリュームがあって、シュートコースをかなり塞いでしまいます。大きなフロン太くんをうまく避けながら、ゴールの枠内にシュートを決めねばなりません。シュートをしたら、その勢いのままフロンターレのサポーター席へ走っていき、「いっしょに応援しよう!」と観客を煽って、ようやくひと段落となります。
Jリーグの試合開始時間は厳密に決められています。そのため、試合前セレモニーは秒単位でスケジュールが組まれ、遅れは許されません。これは緊張する場面だ……。説明を傍から聞いているだけでも肩に力がはいりそうですが、小山さんはといえば、
「はい。ふむ。わかりました」
淡々と相槌を打つばかり。緊張とは無縁なタチなのですね。それでも、
「これ、シュートはちゃんと入れんと、シャレにならんなあ」
と、そこだけは思案顔。小山さんはサッカー経験者で、10代のころはサッカーに夢中になっていました。昔取った杵柄、問題はなさそうなのですが、じつは漫画の仕事で多忙を極める小山さん、今日のこの日まで、練習する時間をまったくとれませんでした。それでちょっとだけ、不安な顔を覗かせたのです。
ではいちおう下見をと、ピッチ上に行ってみました。
ペナルティ・キックを蹴る場所にボールを置いてみます。と、意外にゴールは離れて感じられるもの。
「こんなに遠かったんだっけ……」
小山さんからつぶやきが漏れました。その後、選手たちが最終調整をする室内練習場をほんの短時間だけ借りて、キックの練習を2、3回だけさせてもらいました。
■ゴールネットに突き刺さる鮮やかシュート
登場の時間が迫ってきました。小山さんは宇宙服ユニフォームへと着替えます。
今日は川崎フロンターレの選手たちも、みなこれを身に着け試合に臨みます。選手と気持ちはひとつ! というところでしょう。着心地は?
「思いのほか、いいデザインに仕上がったと思いますよ。何より、試合で着てくださるというのがほんとうにうれしい。これを着た選手たちがピッチ全体に散っていく姿、きっときれいでしょうね」
キックオフも間近となり、声援のボルテージも上がってきたころ、小山さんがピッチに呼び込まれます。
まずは観客へのご挨拶。客席にも、宇宙服ユニフォームを着たサポーターがたくさん。夜空に無数の星が輝くさまをデザインしたユニフォーム、数多く集まると星空が出現したみたいで美しい。そんなスタンドの光景を眺めながら、「宇宙強大」実施への感謝と、これから始まるゲームへの期待を語って、万雷の拍手を浴びています。
一礼すると、スタッフに促されて、ゴール前へと走る小山さん。時間が少し押しているようです。フロン太くんはすでにキーパー役としてスタンバイしています。ボールをペナルティスポットへ置いて、間髪入れず小山さんは助走を開始。決められるか……。
ゴーール! 鋭く右足を振り抜くと、ボールはゴール左隅に吸い込まれました。本物の試合でも、キーパーは防げないんじゃないかというほどの見事なシュート。準備のときから泰然としていたのも納得、本番に強いのですね。
歓声に沸くスタジアムのなかをまた走って、サポーター席の前へ。
「こやーま、ちゅーや!」
と連呼するサポーターとエールを交わし、試合へ臨む雰囲気を高めたところで、小山さんはピッチを後にしました。フロンターレへの愛と『宇宙兄弟』への愛がひとつになって、ともに歩もう、闘おうという機運が、ここで最高潮に達しました。
セレモニーも一助になったのでしょうか、いざ試合が始まってみると、フロンターレは序盤から攻勢をかけます。『宇宙兄弟』ファンを公言するキャプテン中村憲剛選手を中心にボールを支配。前半から得点を重ね、結果、4対0の快勝を収めました。
グッジョブを成し遂げた小山さんは、ユニフォーム姿のまま観客席へ上り、満足そうに試合を最後まで堪能したのでした。
(続く)
ライター:山内宏泰(@reading_photo)
前編・後編はこちらから▶
【前編】川崎フロンターレと、「宇宙への夢」を共有した2日間のこと
【後編】ISSと川崎フロンターレが、しっかりとつながった日