【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉1−1】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (前半) | 『宇宙兄弟』公式サイト

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉1−1】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (前半)

2017.03.26
text by:編集部コルク
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2016年、国際宇宙ステーションで115日間の長期滞在を終え、帰還後も精力的に活動を続けている宇宙飛行士・大西卓哉さん。なんと今回、JAXAの協力で大西さんと小山宙哉とのスペシャル対談が実現! 宇宙での貴重な体験をたっぷりと聞いてきました。打ち上げの瞬間から帰還シーンまで、ドラマチックなエピソード盛りだくさんで、順次公開していきます!

ロケット打ち上げのカウントダウン!その時、宇宙船内の様子とは

小山宙哉(以下、小山) 本日はよろしくお願いします! 大西さんは2016年7月から10月まで国際宇宙ステーション(ISS)に滞在されていたということで、もう何から聞くべきか迷ってしまいますが、まず打ち上げの時の心境はどうでした?

大西宇宙飛行士(以下、大西) 宇宙飛行士として訓練をしている頃はずっと、ソユーズロケットに乗って宇宙に向かう時の心境ってどんなものなのだろうと、楽しみにしている一方で多少の不安もあったんです。でもいざ当日、宇宙服に身を包んで宇宙船の中に座ってみると、想像以上に落ち着いている自分がいましたね。もうちょっと恐怖心や不安を感じるのかなと思っていたんですが、発射のカウントダウンが始まっても冷静なままで……。そんな自分自身に驚きました。

小山 どんなことを考えていたとか、覚えています?

大西 完全に打ち上げのことに集中していましたね。宇宙船には打ち上げの2時間半前に乗り込むんですが、そこから宇宙船の立ち上げや機器の点検などを進めていくと、だいたい打ち上げの30分前くらいに作業が全部終わってしまうんですよ。その後は、地上の管制官がヘッドセット越しに音楽を聞かせてくれていたので、ひと息ついてリラックスできたのも良かったのかもしれません。曲は事前にクルーが各自リクエストした曲をみんなで聞いていました。なので日本の曲もあればロシアの曲もありましたよ。

ちなみにNASAでは宇宙飛行士がキャプコムを担当しますが、ソユーズ打ち上げの際の交信管は、訓練のあいだずっと自分を見て来てくれたインストラクターが担当してくれるんです。お互いのちょっとした癖もよくわかっているし、何より声を聞いているだけで安心するので、打ち上げの緊迫した場面でもすごく心強かったですね。

小山 大西さんは、ロシアとアメリカの宇宙飛行士と一緒だったんですよね。それが面白いというか、なんだか微笑ましい組み合わせに感じました。

大西 コマンダーがロシア人で、宇宙船の右側の席に座っていたのがアメリカ(NASA)の女性でした。おかげで色々な文化を知ることができて楽しかったです。ロシア人のコマンダーは元軍人で、アナトーリさんというんですが、普段は寡黙なんですけど、お酒を飲むとよく喋るひょうきんな方。でも仕事はきっちりやってくれる。

一番やりやすかったのは、作業を基本に忠実にやってくれたことです。ロシアの宇宙飛行士のなかでも、宇宙ステーションへの滞在経験があって慣れている方は、必ずしも手順どおりにやるかというとそうでもなくて(笑)。「俺はこうやるのが正しいと思っている」という部分があると、わりと自己流で進めることもあるそうです。自己流とまではいかなくても、何も言わずに自分でテキパキと進めてしまう人もいますしね。

でもアナトーリは、手順書に沿って一つひとつの操作を読み上げてくれ、私がそれを操作して、2人で結果を確認し合うといったスタイルで進めてくれました。それがすごくやりやすかったです。

小山 作業は全てロシア語でやるんですか?

大西 そうですね。今はもう宇宙ステーションに行くための宇宙船はロシアにしかないので、ロシア語は必修科目になっているんです。もちろん私もロシア語を勉強しましたけど、考えるスピードや話についていくスピードが、どうしてもネイティブスピーカーとはタイムラグがあるので……。あそこまできっちりとやってくれるロシアのコマンダー、なかなかいないのではないかと思います。私は民間旅客機のパイロット出身ですが、飛行機の機長と副操縦士がエアラインでやっているやり方とまったく同じだったので、本当に感謝しています。

小山 実は今、「宇宙兄弟」でもロシア編を描いているんですが、まずロシア語が読めなくて苦労しているんです。資料を見て描こうとしても、これはレストランと書いてあるのか、コンビニと書いてあるのかがわからない。絵が合っているのかもわからない状況で。

大西 ロシアには取材に行かれました?

小山 それがまだ行けてないんですよ。だからこそ難しいというのもあって。ロシアの方に取材でお話をさせていただいているんですけど、そういえば、その方もやっぱりお酒が好きですね。

大西 彼らは飲み会が大好きなので(笑)。しかもロシア流の乾杯というのがあって、一人ずつコメントを言ってから「乾杯!」の掛け声で、みんながウォッカのショットグラスを空けるんです。それを人数ぶんやって、さらに何周かするという。

小山 ショットグラスなんですか! 僕、ビールグラスで描いてました。

大西 ビールグラスでウォッカはちょっとハードル高いですね(笑)。でもお酒が弱い人もいますので、基本的には自分のペースで飲んでいますよ。

訓練では経験しなかった軌道に投入するまでの不思議な感覚

小山 打ち上げの時の揺れとかG(重力加速度)は、さすがに訓練でも経験しないですよね。

大西 本番の打ち上げで初めて経験しました。訓練では、シミュレーターという機械を使って打ち上げのシークエンスを何回も行うんですが、実物大のモックアップに座るので、手を伸ばした時にどの位置にスイッチがあるかや、その距離感、バルブの位置などは全部把握できています。でも揺れとか音はさすがに模擬できませんから、きっと振動も音もすごいだろうなと思っていたんですが、実際の乗り心地はとても静かで。宇宙船のカプセル自体が密閉されているのと、宇宙服を着てヘルメットも締めているので、それだけで何重にも防音になっているんでしょうね。ロケットの先端に乗っているので、一番下の第一弾エンジンが吹いている時は、ボボボ……と振動してエネルギーが噴射されているのを、お尻のずっと下のほうで感じるといった状態でした。

意外だったのは、エンジンを切り離す時ですね。打ち上げに使用した燃料を消費すると、軽くするために使い終わったエンジンを切り離していくんですが、それまではずっと加速度がかかっていて、イメージとしては孫悟空みたいに巨大なお釈迦様の手のひらに自分が乗って、グーッと持ち上げられているような感覚があります。それが切り離しの瞬間だけエンジンが止まって加速度がなくなるので、持ち上げてくれていた手が空中で急にパッと外されたような状態になるんです。一瞬浮いて、そこから落ちるのかなって、ちょっとドキッとするような瞬間でした。

小山 後ろに戻されるような感じですかね?

大西 そうですね。本当に一瞬なんですが、落ちていく感じ。あれは新鮮でした。しかもエンジンが切り離されるたびに、ヘルメット越しでも聞こえるくらい、「ガチャーン! ガチャーン!」と何かが外れていく大きな音がして、思わずどこかが壊れているんじゃないかと不安になるくらい。その後、次のエンジンが点火するとまたググッと持ち上げてくれるんです。

小山 訓練の時も、それを教えてくれるといいですよね。「ここでこういう音が出ますよ~」「ここでこういう感じがしますよ~」って。

大西 さすがにそこまではやりませんでした(笑)。軌道に投入したあとは宇宙船だけで飛んでいくのですが、姿勢をコントロールするためにも、小さいスラスターは結構頻繁にエンジンを吹いているんです。それも結構「ボボボッ」という音や振動がしますし、エンジンから出た燃えカスのようなものが豆まきしているみたいな感じで窓の外に飛んでいるのを見ると、「ああ、本当に宇宙船って生きているなあ」と感じましたね。

小山 ほかの2人とはどのような会話をしていました?

大西 軌道に投入した時は、ホッとして手を合わせて喜んでいました。でもそのあとすぐに仕事が始まるんです。それからはずっと仕事に集中して、打ち上げから3、4時間経ってやっと、ひと息つく感じです。

小山 なるほど。それにしても、「宇宙船は生きている」なんて表現、実際に乗った人でなければ出てこない言葉ですね。帰還されてからまだ半年も経っていない状態でリアルなお話を聞けるなんて、本当に光栄です。

構成・文/秋山美津子(SUPER MIX)

 

(後編に続く)

【プロフィール】

秋山美津子(フリーランス・ライター)
高校時代、自ら天文学部を発足するも、なぜか放送部に吸収合併された経験アリ。『宇宙兄弟』に出会ってからは、ISSの観測を楽しんでいます。自宅のベランダからは、北の空がまったく見えないのが悩みのタネ。
公式HP: http://www.spmx.jp/

 


大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 スペシャル対談 宇宙への旅立ち編【後半】
こちらから^^
https://koyama-official.sakura.ne.jp/wp/column/interview/33081/

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