その後の探査により、氷惑星に地下の海が存在することは珍しくないことがわかってきた。木星最大の衛星(太陽系最大の衛星でもある)ガニメデ、土星の衛星タイタンとエンケラドスにも地下の海があると考えられている。さらに、木星の衛星カリストと海王星の衛星トリトンにも地下の海がある可能性がある。海があるということは氷を溶かす熱源があるということだ。熱源があるということは、生命存在の必要条件であるエネルギーがあるということである。
とりわけ面白いのが、土星の衛星タイタンとエンケラドスだ。
タイタンは、地下の海だけではなく、地表に湖がある。水の湖ではなく、メタンの湖だ。この世界は常に分厚い雲に覆われており、その雲からメタンの雨が大地に降り注いでいる。降った雨は束となって川をなし、山を流れ下って湖に注いでいる。しかし分厚い雲に阻まれ、ボイジャーのカメラでは川や湖の様子を捉えることができなかった。
この発見にボイジャー姉妹が果たした役割は、エウロパの時と同じように、仮説を立てたことだった。メタンの湖や雨を仮説から科学的事実にしたのは、2004年に土星軌道に投入されたオービター、カッシーニだ。カッシーニには雲を透過できるレーダーが積まれていた。さらに、カッシーニには「乗客」がいた。ヨーロッパ宇宙機関のタイタン着陸機、ホイヘンスだ。2004年、ホイヘンスはタイタンの大気に突入し、ゆっくりとパラシュートで降下しながら観測を行った。川や湖岸と考えられる地形が写っていた。ホイヘンスが着陸したのは湖岸近くの沼地のような場所だと考えられている。次ページの写真が、人類が手にしたタイタン地表の唯一の写真である。
この大地の土は有機物から成る。その下にはエウロパのように氷の殻があり、その下に水の海がある。つまり、この海には、上からは生物の体を成す有機物が、下からは生命活動に必要なエネルギーが供給されている可能性がある。
21世紀の太陽系における最大の発見の一つが、エンケラドスの「潮吹き」である。
エンケラドスは直径約500㎞の、土星の小さな氷衛星だ。ボイジャーはいくつかの謎めいた発見をした。ひとつは、赤道以南にほとんどクレーターがないこと。すなわちこの世界が「生きて」いる証拠であるが、こんな小さな世界に地殻活動があるとは考えられなかった。もうひとつは、土星にEリングという淡い輪があるのだが、その輪の最も密度が濃い部分が、エンケラドスの軌道と一致することだった。この世界には何かがある。ボイジャー姉妹はいまひとつ土星系に謎の置き土産をして飛び去った。
右:タイタンの地表から届けられた唯⼀の写真。 (Credit: ESA, NASA, JPL, University of Arizona)
謎を解いたのはカッシーニだった。カッシーニが撮影したエンケラドスの南極付近の写真に、何かが空高くへ噴き上げている様子が写っていたのである!
それは巨大な水蒸気のジェットだった。エウロパと同じように、エンケラドスにも分厚い氷の下に広大な地底の海があり、氷の割れ目から塩水が吹き出していたのだ。その噴水は高さ500㎞にも及び、一部は脱出速度を超えて宇宙に飛び出し土星の輪の一本となっていた。それが、Eリングの正体だった。そしてこの世界の海にも、命が存在する可能性がある。