【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜南極皆既日食(1/3)世界の果てへ〜 | 『宇宙兄弟』公式サイト

【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜南極皆既日食(1/3)世界の果てへ〜

2018.09.03
text by:編集部コルク
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『宇宙兄弟』の公式サイト連載がきっかけで出版されたKAGAYAさん初のフォトエッセイ、『一瞬の宇宙』。

忙しかったりつらかったり、悩んでいたり、ひたむきにがんばっている方にこそ、ほんのひと時でいいから空を見上げてほしいーー

宇宙兄弟公式サイトでは、世界中で星空を撮り続けるKAGAYAさんのこのフォトエッセイを大公開します。

世界の果てへ

実はわたしは一番行きたいところにまだ行くことができていません。本当は宇宙に行きたいのです。間近で見てみたいのは、土星の環。でも土星はあまりに遠く、わたしが生きているうちに土星旅行が実現することはないでしょう。だから今の夢は月へ行くことです。月旅行ならばわたしが生きているうちに実現できる可能性が万が一くらいあるかもしれないと考えています。でも、それが叶うとしたら、そのときわたしはかなりの歳になっているはずです。

宇宙旅行で現実的なものは、大気圏の外に飛び出し数分で戻ってくるもので、無重力体験もできます。これならば生きているうちに実現できそうです。しかしまだ身近なものとはいえません。

そんな宇宙に比べたら、地球上には行こうと思えば行ける場所がたくさんあり、これは幸運なことです。宇宙に行ける日までこの惑星地球の上をくまなく巡っていきたいと思っています。

2003年11月17日、わたしはロンドンに向かう飛行機の中で目ざめました。

この旅の目的は南極で皆既日食を見ること。太陽が沈まない南極の白夜(南極圏や北極圏で、夜の時間になっても太陽が沈まないこと)に起こる皆既日食です。

南極へは、日本からイギリス・ロンドンのヒースロー空港、南アフリカ・ケープタウンを経由して空路で向かいました。

南アフリカのケープタウンへ到着すると、さっそくコンダクターから悪いニュースが告げられました。わたしたちが向かう南極のベースキャンプは今猛烈な低気圧の中にあり、ブリザードが吹き荒れている。事前に現地で準備を進めているスタッフによると、この24時間で2つのテントと仮設トイレが吹き飛ばされたといいます。そのような天候では飛行機は南極に着陸することができません。

この旅行ではこうした悪天候を想定し、ケープタウンで準備を整えた後に、3日間の出発予備日を確保していました。

予備日の初日は、
「到着したらまず吹き飛ばされたトイレを捜さなきゃ」
「いや、きっと逆向きの風が吹いてトイレとテントは戻ってくるよ」
「でもトイレの中身はめちゃめちゃだろうなぁ……」
なんて冗談を周囲の人と言い合いながら過ごしていたものの、低気圧が居座り続け、日食までの時間が短くなってくると、不安と焦りが出てきました。

「南極への午前中のフライトが決定。40分後に集合」

コンダクターからようやくそう告げられたのは11月23日の日食の当日になってからでした。わたしはそのとき、朝食のワッフルのすべてのくぼみに大好物のメープルシロップを入れたところでした。周囲が朝食を放り出して準備に急ぐ中、わたしは急いでワッフルをほおばってから、あわただしく準備にかかりました。

出国手続きをすると、わたしたち南極大陸への冒険者たちは、パスポート上は行方不明扱いになります。南極大陸はどこの国にも所属しない場所だからです。目指すはノボラザレフスカヤ、南極大陸にあるロシアの基地です。

わたしたちが乗り込んだのはロシアのジェット機「イリューシン76」。機内はケーブル類がむき出しで、まるで貨物機のような無骨な内装。防音すらされていない機体は、ジェットエンジンの爆音を機内に轟かせ、離陸しました。地球の果て、南極大陸へのフライトは、わたしに宇宙へ向かう夢のフライトを連想させました。

(つづく)

 

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KAGAYAプロフィール
1968年、埼玉県生まれ。
絵画制作をコンピューター上で行う、デジタルペインティングの世界的先駆者。
星景写真家としても人気を博し、天空と地球が織りなす作品は、ファンを魅了し続け、Twitterフォロワー数は60万人にのぼる。画集・画本
『ステラ メモリーズ』
『画集 銀河鉄道の夜』
『聖なる星世紀の旅』
写真集
『星月夜への招待』
『天空讃歌』
『悠久の宙』など