『宇宙兄弟』モチーフのグラフィックアート、「Last Rocket Road」はいかにして生まれたか?
『ANIMAREAL』 のグラフィック・アーティストマサヤ・イチさんが『宇宙兄弟』のファンであるということからデザインされ、小山宙哉など限られた人にだけ贈呈されたアートパネル。
1969年に人類が月面に着陸してから今年で50年。月面着陸50周年を記念して、「Last Rocket Road」を公式ストアにて7/7〜【抽選販売/限定30枚】販売します!
作品についてマサヤ・イチさんへインタビューをさせていただいたのでご紹介させていただきます!
(ライター:山内宏泰)
アニメ・漫画の人気キャラクターや名シーンが、実際に立ち現れたらどんなにすてきだろう……。そんな妄想をしたことって、誰しもあるのでは?
ならば実現させてしまおう、と思い立ったのがグラフィック・アーティストのマサヤ・イチさん(以下、イチ)である。写真、3DCG、手描き、特殊メイクと現代のテクノロジーを総動員し、卓越した業を駆使して、アニメや漫画をリアル化させているのだ。その創作をICHIさんはANIMAREALと名づけている。「アニメ」と「リアル」を組み合わせた造語である。
基本的にはアニメ・漫画の制作サイドから、「このキャラクターで」「こんなイメージをリアル化してほしい」といった注文を受けて、制作が始まる。これまで手がけてきたのは約100作品に及ぶ。
そのなかで、ひとつ例外的な作品がある。
「受注制作ではなくて、思うがままに『自分発信』」でつくった最初の作品、それが『宇宙兄弟』をモチーフにしたこの『Last Rocket Road』です」
▶『Last Rocket Road』は7/7から7/14までの期間限定で抽選受付中!
イチさんは、コミック第1巻刊行時からリアルタイムで読み続けてきた『宇宙兄弟』の長年のファン。
「ムッタがいちど会社勤務に収まりながらも自分でまた宇宙飛行士になる夢を追いかけ始めるところとか、宇宙飛行士になるための具体的なプロセスの一つひとつに、熱くさせられてきました。
記憶に残っているシーンは無数にありますけど、今回の作品に取り上げたひとコマはとくに忘れられない。ムッタを乗せたロケットが打ち上げられ、「ロケットロード」と呼ばれる煙が空に描かれるさまを、ムッタの師匠のひとりヤンじいが見守っている。グッときますね。
この1枚の絵には、主人公が2人描かれていると思うんです。ヤンじいと、姿は見えないけれどロケット内にいるムッタ。
そしてこの瞬間って、宇宙へ飛び立つムッタにとってはスタートのときであり、ヤンじいにとっては自分の人生の仕事が成就し幕を閉じるときですよね。ひとつの絵の中に終わりと始まりがあるのもカッコいい」
とことん惚れ込んだひとコマを、イチさんはどのようにリアル化していったのか?といえば、
「できあがった1枚のアートパネルを実際のコミックの該当コマと比べると、すべてがそっくり同じというわけではないんです。
画面のタテヨコ比からしてまったく違いますから。
もとになったコマはヨコ長のものでしたが、それをぐいっと思いきりタテ長にしてあります。ロケットロードが上へ上へと伸びていくところが、このシーンを絵として見せるなら最大のポイントにして見どころだろうと思ったので。
漫画の絵柄を完璧にトレースしようとしているわけではないんです。そもそも漫画というのはデフォルメによって絵づくりがされているもの。
作者はエッセンスを削りに削り、最小の要素を使って漫画の絵をつくりだしている。僕がやっているのは、ギリギリまで削がれたその漫画作品のエッセンスから、あれこれ想像して絵をふたたび膨らませ、人が最もリアリティを感じるかたちにすること。
つまりは再構築をしているので、もとの絵とまるっきりそっくりにはなりませんね。
具体的な作業としては、基本的にはまず無数の写真画像を切り貼りして、その上にCG加工をして仕上げていきました。マットペイントと呼ばれるSFXの制作技術の一つですね。絵柄を頭に思い浮かべて、最初にロケットロードの煙と空をつくりました。下描きなどはしません。もととなる漫画がすでにあるわけですから、それがそのまま設計図です。
広がる丘や畑の風景は、イメージにぴったりの写真を何枚も組み合わせていきます。人物のボーダー柄や地面の影などは手描きで仕上げています。たくさんの写真を用いて、さらに加工もしていくとなると、どうやって全体の統一感を保つのかと思われそうですが、そこは画面への光の入り方をうまくコントロールすることがポイントになります。
そのあたり、僕はもともと美大で油画を描いていて、いやというほどデッサンをしてきたので、光と影はわかるんです。風景全体における光の効果は、絵柄をつくったあとで全面的に描き加えています」
漫画そっくりにするわけではないという一方で、現実そのもののリアルを目指すというわけでもない。
「はい、ANIMAREALはアニメとリアルを融合させて新しい世界観をつくり出すものですから。今作でいえば、ロケットロードは現実には、こんな真上に一直線に伸びることはありません。でもそこは物理現象に忠実であるより、ムッタのロケットロードはできるかぎりまっすぐであってほしいという願いや、絵的な美しさを優先させます。
上へ上へ、どこまでもまっすぐ上昇し、伸びていこうというメッセージ性をはっきり表したほうが、作品としてはいいんじゃないかと考えています」
『宇宙兄弟』も含めて、アニメ・漫画作品のファンはひじょうに熱心。作品をもとに新たなアートを構築するとなると、厳しい目が向けられるのではないかと心配してしまうのだけれど……。
「いまのところ幸い、お叱りを受ける事態にはなっていません。僕も小さいころから誰にも負けぬくらいアニメ・漫画好きなのでよくわかるのですけど、ファンが怒るのは作品に対する愛が感じられないとき。二次創作などでそのキャラクター・作品のファンから非難されるときも、解釈の違いや完成度の高さ低さというより、理解の低さを叩かれる。愛情を持ってその作品を深く知ろうとする姿勢さえあれば、考察や方向性、意見の相違は許容するのがファン心理なのだと思います。」
「僕の場合、創作のモチーフにしている作品への愛は必ずありますし、作品からおもしろさを汲み取る力は以前からあるほうでした。
思えば小学生のころからそうだったんです。学校で夏休みの課題として出る、読書感想文ってありましたよね。僕の育った地元の公立校では、あの絵画バージョンがありました。読書感想文か読書感想画のどちらかを選べたんです。絵はずっと得意だったから、毎回迷わず絵を描くほうを選んでいました。
それを中学生まで続けていて、何度も全国的な賞をとっていたんですよ。何かを読んで、それを絵で表現する力は備わっていたんでしょう。数年前、この受賞歴を人に話すと、『それってANIMAREALでやってることそのものじゃない?』と言われてハッとしました。やっていること、小学生のころから変わっていない!と気づかされたんです。
自分の得意なことを貫き仕事にできているなら、なんて幸せなことかと思っています。だからこそ、アニメ・漫画のつくり手の方々にも作品を納得して受け入れていただけてきたのだとも感じます。『宇宙兄弟』の今作も、小山宙哉さんに見ていただき『いいね!』と言ってもらえました。それは、ビジョンにズレがないところを確認していただいての言葉だったろうと推測します。子供の頃から磨いてきた、物語や世界観を読み取る力がものを言ったのだとしたらうれしいことです。」
人類の月面着陸50周年を記念して、今作の販売が決まり、これを自分の部屋に飾れる機会がやってきた。つくり手の熱い想いが込められたアートピース、日々見るだけで前向きな気分がかき立てられそうだ。
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「ANIMAREAL」とは「アニメ」と「リアル」を組み合わせた造語。
グラフィックアーティスト マサヤ・イチが中心となって、アニメや漫画を徹底的にリアル化して創り上げられたアート作品は単なる実写化ではなく、一貫したコンセプト・揺るぎない作品愛・最高水準の技術により、アートとして新たに表現されている。
ANIMAREAL代表。グラフィックアーティスト。3歳から絵画を始め、6歳で油画の道へ。 京都造形芸術大学に進学し、LONDON Central Saint Martinsに留学。在学中にMacに触れて以来Photo Shopにのめりこむ。現在は多くの漫画やアニメを題材とした公式アートを制作。京都造形芸術大学と大阪成蹊大学にて教鞭を執る。スタン・リー推薦のアートブック「ART of ANIMAREAL」がパイインターナショナルより発売中。