圧倒的な品質とデザイン性の高さを有する時計産業は、日本が世界に誇るもののひとつ。
　CASIOのプレミアムライン「オシアナス」は、その代表格として名の挙がるブランドです。
　最先鋭のテクノロジーと究極のアナログともいえる職人技が融合して生みだされる腕時計は、一本ずつが「作品」と呼ぶべき気品を放ちます。そんなオシアナスが今年誕生15周年を迎えるにあたって、コラボレーション作品が企画されました。

　『宇宙兄弟』をモチーフとした新作「宇宙兄弟×オシアナス　Limited Edition」です。
「オシアナスのデザインと機能は、近未来の風合いを意識してあります。『宇宙兄弟』の作品世界との相性は、大変良かったですよ」
　そう話してくれたのは、リミテッドエディションのデザインを担当した岸野容子さん。プロジェクトが立ち上がった2018年の春から始まったプロジェクトを着々と進行し、完成へと導きました。

　岸野さんが今回のプロジェクトを担当することとなったのは、デザイナーとしての20年以上に及ぶキャリアと実績のほか、もうひとつ大きな理由がありました。以前からずっと、『宇宙兄弟』のファンでいてくださったのです。
　「ムッタに代表されるような、決して完璧じゃない人たちが大きな夢に立ち向かっていく姿に、いつも励まされてきました。もっとたくさんの人と作品のすばらしさを共有したくて、社内で『宇宙兄弟』を浸透させる活動までしていたんですよ。コミックを手渡して『これぜひ！』と上司に読ませたりとか（笑）」
　コラボレーションの企画が動き出したときには、当然岸野さんに、やってみるかと声がかかり、二つ返事で請け負ったそうです。
　「仕事にはいつもやりがいを感じていますけど、最初から最後までこんなに楽しんで制作できたのは初めてでしたね」
　プロジェクトが動き出すと、宇宙兄弟側との打ち合わせは幾度にも及びました。小山宙哉の仕事場まで足を運び、綿密な話し合いも重ねました。もともと時計好きの小山宙哉は、貸し出していただいたオシアナスを毎日腕に巻き、感触をたしかめていきました。そうして体験してみたところ、オシアナスの高い品質とデザイン性に大いに共感するところがあり、コラボレーション作品づくりにいっそう熱がこもったのでした。
　時計づくりの具体的なプロセスとしてはまず、岸野さんが『宇宙兄弟』ファンとしての知見をフル活用して、名シーンや名セリフをコミックから抽出した「イメージ集」をつくりました。

　「作品のイメージをひと目でわかるよう抽出してみました。というのも今回のコラボレーションでは、限られたキャラクターやシーンに着目するよりも、『宇宙兄弟』の世界観の全体を、まるごと腕時計の中に入れ込みたかったからです」
　そうして『宇宙兄弟』の世界観を可視化したうえで、岸野さんはデザイン案を３つに絞り、提案しました。

　「それぞれ『宇宙に浮かぶ月と地球』『月から見た地球』『宇宙飛行士が身につける宇宙服と月面』をテーマにしたものでした。小山宙哉との綿密な打ち合わせにより、それらのアイデアをミックスすることに。宇宙飛行士が月面に降り立ったとき最初に見るであろう光景としての、宇宙の中の月と地球を表現する、という案にまとまっていきました」

　時計盤面の中心にある青と赤の円は、宇宙服に付いているバルブを表しています。盤面をぐるりと囲むサファイアパネルリングも、上部半分は漆黒の宇宙を表したブラックで、下部半分は輝く月面を表すシルバーという２色仕立てになっています。ブラックとシルバーの境界は、球形を感じるなだらかな曲線となっています。
　宇宙飛行士が月面にすっくと立ち、宇宙を眺め渡す。視線の先には深い青色を湛えて浮かぶ地球が……。そんな光景が、小さい時計から浮かび上がるようなデザインです。さまざまなイメージと意味合いが重層的に折り畳まれており、たしかにそこには『宇宙兄弟』が大切にしている世界観が、余すところなく詰め込まれています。

　ただここでひとつ、疑問に思うところが。「オシアナス」は、ギリシア神話の海の神にちなんでブランド名が付けられています。ブランドロゴも波をモチーフにしている通り、海のイメージで統一されています。デザインを宇宙のイメージで固めることに、問題はなかったのでしょうか。
「オシアナスが海のイメージ、そしてそこから導かれる青色を大切にしてきたことはたしかですが、かつては宇宙から見た地球というテーマを採用したこともあります。それに、GPS衛星電波を用いて時刻情報を取得する機能が特長のひとつであり、宇宙とは親和性が高いのです」
　それに、今回の「リミテッドエディション」でも、いつものオシアナスと同じく、青が基調とされています。さらには、CASIOのプレミアムラインにふさわしい上質感も、もちろん踏襲しています。とりわけ、世界地図がうっすらと浮かび上がる文字盤面は、光の浴び方によって輝きが変わって、たいへん美しい仕上がり。
　「そこは蒸着という技術を用いてつくられています。金属を蒸発させて、素材の表面にコーティングさせる表面処理です。これによって、通常の塗装ではどうしても出せない微妙なグラデーションと風合いを生み出すことができました」

　この絵柄は、目を凝らしてみないと全体像が捉えられませんが、この世界地図って見覚えある気がしませんか？　そう、じつはコミック35巻に同じ絵柄が出てくるのです。月面に残されたムッタとフィリップを救うため、レスキュー・ミッションが立ち上げられ、その発表会見が催されるシーンがありますね。「From the Moon to the Earth」と名付けられたミッションのロゴマークとして掲げられているデザイン、それがそのまま文字盤に用いられています。

　腕時計をつけていると、まるで自分もレスキュー・ミッションに参加する一員のような気分になれて、知らずテンション上がりますよ。
　オシアナスはCASIOのプレミアムラインなので、製造技術にも最高峰のものが用いられています。そのあたりにもぜひ注目していただければと岸野さんは言います。

　「たとえばケースとバンドパーツには、研磨技術の最高峰とされるザラツ研磨という工法を採用しています。しかもその作業は、最も高い技術を持つ職人が担当したので、カーブの美しさや滑らかさを堪能していただければ。関わった技術者も職人も、どんな細部も気持ちを緩めるむことなくつくり上げています。一つひとつのパーツを丁寧に作ることによってしか、上質感は生み出せないとよく知り抜いている者たちばかりですからね。
　私としても当然ながら、あらゆる細部にまで目配りをしてデザインをしました。こんなに小さいプロダクトですけれど、デザインするときにはこれを野球場のように大きなものとしてイメージしながら進めろと教えられるんですよ。自分がごく小さい人間になって、腕時計の世界を探検するような気持ちで、この部分の形状はこれでいいか、角度はどうだろうかと見ていくわけです。肉眼で認識できないほどの時計の細部はつい見落としてしまいそうになりますが、一か所でもアバウトにしてしまうと、途端に時計全体が醸し出す上質感は目減りしてしまいます。

　くわえていえば、今作では専用のケースボックスも製作されました。漆黒の内箱の上面には、小山宙哉がオリジナルのイラストを描き下ろしています。外箱垂直面には通信衛星の絵を配し、GPS機能搭載の時計であることをアピール。フタを開けると中面に、月面に刻まれたムッタとヒビトの足跡もあしらわれています。
　「せっかくですから本体のみならず、収納する箱までぜいたくにつくらせていただきました。時計のイメージが月から見た地球でしたので、箱のほうは、宇宙空間から月と地球を眺めるというさらに大きな視点によるものにしようとデザインしています」
　本体はもとよりパッケージまでもこだわり抜いたこの逸品、入手すれば腕時計を購入したというよりも、オシアナスと『宇宙兄弟』が織りなす新しい世界観を身近に置くという感覚を得られるはず。これは単なるひとつの小さいモノではあるけれど、あなたの暮らしをこれまでとはちょっと違ったものにしてくれる、大きな存在なのだとも言えそうです。

　腕時計はよく『小宇宙』とたとえられますが、本当にそうだと思います。ひとつの世界、というか宇宙をつくり出そうというのに、目が届いていない部分があるようでは話になりませんよね。ましてや今回の作品は、以前から親しんできた『宇宙兄弟』とともに新しい宇宙をつくろうという試み。存分に楽しみながら、全力で取り組みました。
　ぜひ身につけてお出かけしていただきたいですね。オシアナス、そして『宇宙兄弟』、ふたつの宇宙を連れて歩けるなんて、それだけで最高の気分になれるはずですから」

宇宙兄弟×オシアナス　Limited Edition

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