NASAで働いていると言うとよく聞かれる質問がいくつかあります。第一位は次回にとっておいて、今月は第二位から。その質問が、
「宇宙人はいますか?」
であります。宇宙人などというとオカルトめいて聞こえるかもしれませんが、これは決して馬鹿げた質問ではありません。それどころか、「宇宙人」という表現こそ使っていないものの、地球外生命探査はNASAにとって目下の最重要テーマのひとつなのです。
そういえば我らがムッタくんとヒビトくんが宇宙飛行士を目指したキッカケのひとつは、幼少時にUFOを見た経験でした。僕は見たことがありませんが、是非とも見てみたいですし、宇宙工学者として宇宙人がどんな宇宙船を作るのか興味がありますから、連れ去ってほしいとまではいかなくとも、体験搭乗くらいさせてくれたらなあ、と思います。
考えてみれば地球人はたいへん失礼極まりない種族で、テレビや映画や小説で勝手に宇宙人を悪役に仕立て上げます。人間を襲ったり人間を食べたり人間に卵を産んだり人間に乗り移ったり、気まぐれにナメック星を破壊したりハイウェイ工事のために地球を破壊したり。でも宇宙人ってそんな悪い奴らかなあ。日本人が70年前に鬼畜扱いしたアメリカ人だって酒を飲み交わして友達になればいい奴らなわけで、宇宙人だって友達になればちょっと彼らの星を案内してくれて、ウマいご当地料理を食わせてくれて、ともすればカワイイ宇宙人の子を紹介してくれたりもするんじゃないかと思うわけです。
たとえば、先月に「地球2.0」を見つけたとNASAが発表したことは皆さんの記憶に新しいでしょう。NASAが打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡が1400光年の彼方に見つけた、ケプラー452bという星です。
この星、どこまでも地球に似ている。一年の長さは385日。大きさは地球の1.6倍で、ちょっと大きすぎるように思えるかもしれませんが、木星は地球の11倍の大きさがありますし、871光年離れたところにあるWASP-12bという惑星に至っては地球の20倍の大きさがあります。1.6倍でも十分に似ているといえます。
それにしても「ケプラー452b」だなんて、どうしてこんな味気ない、製品番号みたいな名前なのか。「ケプラー452」というのが主星の名前。ケプラー宇宙望遠鏡が惑星の存在を確認した452個目の恒星、という意味です。ある恒星の周りに最初に見つかった惑星は”b”、その次に見つかった惑星は”c”…とお尻に小文字のアルファベットを添えるというのが決まりだからです。どうしてbから始まるか。長男に次郎と名付けるみたいで変じゃないかと思われるかもしれませんが、aは主星を指すからです。でも普通はaは省略し、単に「ケプラー452」と呼びます。
ちょっと待て、452個?そんなに見つかっているの?そうです。いや、それどころか、もっと見つかっています。複数の惑星を従えた恒星が多くあるからです。この記事の執筆時点でケプラー宇宙望遠鏡が発見した惑星は1030個、それ以外の方法で見つかったものも合わせれば1879個にものぼります!ハビタブル・ゾーンにある惑星も、既に12個も見つかっているのです!
JPLの一角にある系外惑星カウンター。上から順番に、今までに見つかったハビタブル・ゾーンにある惑星の数、存在が確認された惑星の数、そして確定していないが惑星の可能性がある候補の数を示しています。見に行くたびにこれら数は増え続けています。
ケプラー宇宙望遠鏡が観測できるのは、限られた方向にある比較的近い星のみで、しかも惑星を検出できる確率は200分の1程度です。それでも既に千を超える惑星が発見されていて、そのうち12個はハビタブル・ゾーンにあるのです。この結果から推定すると、どうやら銀河系にはハビタブル・ゾーンにある惑星がなんと数百億個もあるようなのです。そして宇宙には約1000億個の銀河があります。単純に掛け算をすると、地球のような惑星が約10垓個、宇宙に存在することになります。
10垓ですよ、10垓。どれだけ大きな数か想像がつきますか?
1000000000000000000000個。
ゼロが21個並んでおります。1年分の新聞の朝刊の文字数が3000万字ほど(ゼロが7個)。日本の全国民が1年に食べるお米の米粒の数が100兆粒のオーダー(ゼロが14個)。それよりもはるかに多い。まさに「天文学的数字」なのです。
これだけの数の地球のような星が宇宙にあって、生命が誕生した星はたった一つだけと考える方が、よほど不自然だと思いませんか?
(『宇宙人生』【第12回】宇宙人はいるのか《中編》へつづく)
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コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!
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〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。
2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。
本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。
さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。
■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
《号外》史上初!ついに冥王星に到着!!NASA技術者が語る探査機ニューホライズンズへの期待
第11回<前編>:宇宙でエッチ
第11回<後編>:宇宙でエッチ
《号外》火星に生命は存在したのか?世界が議論する!探査ローバーの着陸地は?
第12回<前編>:宇宙人はいるのか? 「いないほうがおかしい!」と思う観測的根拠
第12回<中編>:宇宙人はいるのか? ヒマワリ型衛星で地球外生命の証拠を探せ!
第12回<後編>:宇宙人はいるのか? NASAが本気で地球外生命を探すわけ
第13回:堀北真希は本当に実在するのか?アポロ捏造説の形而上学
《号外》火星の水を地球の菌で汚してしまうリスク
第14回:NASA技術者が読む『宇宙兄弟』
第15回:NASA技術者が読む『下町ロケット』~技術へのこだわりは賢か愚か?