小山 焼肉食べに行ったりはよくするんですか?
金澤 好きですよ。メンバー3人で行ったりすることも。曲をつくるときって、ある程度かたちができてくると、誰かの家に集まったりすることがあるんですよ。あまり夜遅くまでやってもいいものは出てこないと経験上わかっているので、終了時刻はだいたい20時あたりに定めておく。終わったあと、じゃあ焼肉でも行くかという流れがたまにあって。
漫画家の方はどうなんですか、外食したりする時間ってあるんですか? いや、もう気になってしかたないんですよ。あんな漫画が描けてしまう人の頭の中ってどうなっているんだろう、いったいどんな生活しているんだろうと。
小山 僕からするとミュージシャンの考えや日常のほうがすごく興味深いですよ、ふだんはステージ上の華やかな姿しか見えませんからね。僕の場合、外食は原稿が終わったあとにたまに行く程度ですかね。ただほとんど深夜になってしまうんで、なかなか機会が見つけられないかな。
金澤 仕事のコアタイムはどのあたり?
小山 スタッフが来るのは朝10時くらいで、終わりは21時半ですかね。ミュージシャンも、僕らは表舞台にいる姿しか知らないから、ふだんの生活が謎に思えますよ。
金澤 音楽の世界ではたいてい予定が昼過ぎ以降に組まれるんですよ。ミュージシャンなんてどうせ夜更かしで朝は仕事にならないだろうと思われてるみたいで(笑)。僕は朝7時くらいに起きるから、午前中は自分の時間と捉えていろいろしてます。そうはいっても掃除、楽器の練習くらいですけど。食事は基本的に家で作りますよ。実家がレストランなので、ある程度は料理できるんです。
ああ、そう考えるとずいぶん家に籠りがちな生活です、僕。曲づくりも基本は家で進めるし。漫画家も部屋に籠りがちな印象があるんですけど、実際はどうなんですか?
小山 漫画の仕事は大きくふたつに分けられて、原稿描きと、ネームというラフ描きがあります。ラフはどこでやってもいいので外に出てやることが多いですけど、原稿になったらスタッフといっしょに長時間、ひたすら籠るしかないです。
金澤 ストーリーを思いつく決まった場所はないですか? 僕は曲づくりで何かいいことを思いつくのは、風呂場でシャンプーしているときが圧倒的に多くて。いちばん力が抜けているときなんでしょうね。
小山 僕は必ず『入り込む』っていう作業が必要です。演劇や演技の経験はないけれど、それはたぶん役づくりに近い。映画の比喩でいえば、漫画家はすべてを自分でやらざるを得ません。監督もして、役者として演技もして、撮影もする。そういうすべての作業を脳内で進めて、作品の世界にぐっと入り込んで、キャラクターと同じ目線になっていって、それでようやくセリフができていく感じです。
金澤 『宇宙兄弟』で毎回、名言がこれでもかっていうくらい出てくるのは、それほど作品やキャラクターに入り込んでいるからこそなんですね。
小山 漫画は毎話ごとに見せ場をつくらなくちゃいけなくて、それが絵のこともあれば、セリフだったりもする。だからいつも、何かしら気の利いた言葉を探しているっていうのはありますよね。
小山 音楽って、映像と組み合わせたときに力を発揮するような気がするんですけど、映像を浮かべながらつくることはあります?
金澤 あ、そうです、それはあります。見えるものや環境を変えようとは努めていて、日中に時間があるときは海とか山とか、自然をよく見に行きます。最近はとくに、曲をつくるために感動体験を増やさなくちゃ! と思っているので、できるかぎりあちらこちらへ行きますね。
小山 海や山に身を置くと、どういう気づきが得られるんですか?
金澤 その場にいるときよりも、帰ってから蘇ってくるものが曲に反映されることが多いです。いいイメージを自分の中に取り込んで帰るというか。そのためにはやっぱり自然の光景がいい。
うちの実家はレストランで、茨城と栃木と福島の県境にあって、街灯もほとんどないくらいの田舎なので星がものすごくきれいに見えるんです。夏休みになると、店の駐車場に段ボールを敷いて寝転んで過ごしたりしてました。
流星群の当たり年のときなんか、1分に1度は流れ星が見えたりして、全身がゾワッとする感覚を味わった。自然の中に身を置くと、今でもたまにそういうことが起きて、子供のころの気持ちに戻れたりするじゃないですか。それをどこかで求めているのかもしれない。
そうやって音が生まれてくる瞬間のことって、漫画のストーリーを思いつくときと似ているのかなと想像するんですけど、どうなんでしょう。あ! と思う瞬間がどこかにあるんですよね?
小山 そうです、ありますよ。ただ僕の場合、そういう気づきがストーリーのために生かされるのとはちょっと違うんです。このあとこうなってこんなトラブルが起きて、といった大まかな話の流れはもちろん決めてあるんですけど、輪郭はけっこうぼんやりとしてます。描きたいシーンのビジュアルががなんとなく見えていて、そこへ向けて手探りで進んでいく感じです。
だから大事なのは、その流れをおもしろく見せるための何か。それはたとえばキャラクターの言動だったりするわけですが、そこを思いつくためにいろんな気づきが大事になってきますね。そのあたりがうまくいくと、漫画家がよく言う「キャラクターが動いて話ができていった」という状況が訪れて、話がどんどんいい方向へ転がっていく。
金澤 あ、それは曲づくりにもありますよ! こちらの考えなど待たずに、曲自体が勝手に動き出していくのがやっぱりいちばんいい状態です。
でもたしかに、大きなストーリーより細部というか、キャラクターの言動やちょっとした表情、しぐさがおもしろさの肝というのはその通りですね。たとえばコミックの第34巻では、ベティが気胸になってしまう。読者としては「そうか気胸なのか!」と事実に驚くというよりも、ベティの痛みや周りの動揺、気づかい、そのアクシデントがもたらす状況の変化なんかがありありと伝わってくるからのめり込んでしまうわけで。
僕も以前、気胸になったことあるんです。僕のはあるとき突然かかってしまう自然気胸で、ベティのような衝撃による気胸とは種類が違いましたけど。
レコーディングしていたら急に胸が痛くなって、病院に行こうとしたらもう歩けない。担ぎ込まれて気胸と診断されて、すぐ手術でした。胸にドレーンを刺してもうまく空気が抜けず、結局そのまま腹腔鏡手術で処置しました。
なのでベティの痛みは本当によくわかるし、すごくリアルに表現されているなと思いながら読んでました。いやたしかに、あの痛みを背負いながら大気圏突入なんて絶対にしたくないですよ(笑)。
小山 すごいタイムリーなお話、ありがとうございます(笑)。
金澤 そうだ、お仕事中にコーヒー飲んだりなさいます? 僕コーヒーが大好きで、オリジナルのコーヒーをつくってしまったんです。持ってきましたので、よろしければどうぞ。
小山 ありがとうございます。コーヒー大好きです、ぜひ仕事しながら飲ませていただきます。では僕のほうからも、こちらお渡ししますね。『週刊金澤』で使っていただいた原画です。
それからもう1枚、描いてきました。こちらは結婚祝いということで、どうぞ。
金澤 ええっ! あ、僕らが宇宙服を着てる絵が! えええっ! そんな、これ、たいへんなことじゃないですか? ありがとうございます、家に飾ります。これはもう、ね、家宝にしますよ(笑)!