【前編】川崎フロンターレと、「宇宙への夢」を共有した2日間のこと | 『宇宙兄弟』公式サイト

【前編】川崎フロンターレと、「宇宙への夢」を共有した2日間のこと

2016.10.19
text by:編集部コルク
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人類と宇宙の関係を開拓し続けるJAXAやNASAの活動は、このサイトを訪れる人にとってお馴染みのはず。そんなJAXAやNASAと、サッカーのクラブチームが似通っていると言ったら、意外に思うでしょうか。ライターの僕の目には、両者がひじょうに近しいものに映ります。
類似点はいろいろあるのですが、いちばんは組織の構造です。
まず、最前線の「晴れ」の場に立つ存在がいます。実際に宇宙へ赴く宇宙飛行士や、試合でピッチに立つ選手たちですね。
そして、その表舞台に立つ人たちが最高のパフォーマンスを発揮するために、膨大なバックアップメンバーがいます。JAXAやNASAのスタッフ、クラブチームのスタッフとも、晴れの場を輝かせるために、あらゆることをフォローし、活動への理解を得るための活動に尽力します。
この夏、似た者同士の宇宙とサッカーが、急接近する機会が訪れました。その邂逅がどんなものだったか、ふりかえってみましょう。

■「宇宙強大」という、大胆ネーミング

ダジャレ! ですか、いきなり。イベントにとって、タイトルはかなり大事な要素であろうに……。

初めて耳にしたときは、驚きと戸惑いが隠せませんでした。

宇宙の、また『宇宙兄弟』のニュースを追っている向きは、すでにご存じの通り。この夏、Jリーグ川崎フロンターレと『宇宙兄弟』のコラボレーションによる、一大イベントが開催されました。

8月6日と16日にわたる2DAYSで、舞台はフロンターレの本拠地、等々力競技場。Jリーグ公式試合のセレモニーに小山宙哉さんが登場したり、スタジアムとISSを結んで生交信を試みるなど、スケールの大きな催しです。

その全体を貫くタイトルが、

「宇宙強大」

というものだったのです。

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たしかに、「宇宙兄弟」と名乗っては作品タイトルと同じになってしまうし、イベント内容が多岐にわたっていたので、それらを包括する名付けはなかなか難しいところ。

え、ダジャレ? と、つい思ってしまいましたが、考えてみればこれでよかったのでしょう。

「総力を挙げたイベントが行なわれるのだな」と思わせる力強さがあるし、なんといってもインパクトは抜群。いちど目にすれば忘れられませんね。人に覚えてもらうためには、秀逸なネーミングです。

■プロモーションのアイデアはJリーグ屈指

ダジャレを駆使した、ちょっと「ベタ」なネーミングというのは、じつは川崎フロンターレの得意技なのです。

Jリーグクラブは全国に多々ありますが、フロンターレほど認知や集客のためのプロモーションを数多く、幅広く仕掛けているクラブはありません。例を挙げてみると。

選手とサポーターがともに多摩川の清掃にいそしむ、「多摩川エコラシコ」。

チームの月間MVP選手に、スポンサーであるDoleの果物を進呈する「バロンDole」。

売り上げの一部が競技場改築資金となるしくみの、ロゴ入り「かわさき応援バナナ」の販売。

などなど。それに、本拠地・等々力競技場で試合のある日はいつも、スタジアム前の公園一帯に屋台が並んで、大きなお祭りのような賑わいとなります。試合の途中、ハーフタイム時におこなわれるショーもバラエティ豊か。川崎在住の西城秀樹さんが登場するショーが、恒例行事としてすっかり定着していたりします。

とにかく話題になるものなら、またはサポーターや地域の人たちが喜んでくれるものなら、なんでもやるというスタンス。ダジャレ風のネーミングは、それで人の目に留まりやすく、記憶にも残りやすくなるのだったら、積極的に採用します。続けていれば、特長にもなりますし。

「次はどんな名前でくるんだ?」

と楽しみにしているサポーターも、たくさんいるようです。これまでのタイトルを見ると、サッカーファンの心をつかめるよう考え抜いたのだろうとの跡が感じ取れますよ。「多摩川エコラシコ」は、ライバルチーム同士による伝統の一戦のことをサッカーの世界では「クラシコ」と呼ぶ(スペインのFCバルセロナとレアル・マドリードのそれが最も有名です)ところからきています。「バロンDole」は、世界の最優秀選手を表彰する賞「バロンドール」に引っ掛けたもの。サッカーファンならクスッと笑えるネーミングになっているのですね。

 ■プロモーション部長、「前人未到」を目指す

川崎フロンターレがプロモーション活動のアイデアを続々と繰り出し、実行へ移すにあたっては、中心となっている人物がひとり。サッカー事業部プロモーション部部長の天野春果さんです。

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1997年の創設当初にクラブのスタッフとなって以来、ホームタウンとなる川崎市と連携しながら、地域に愛されるクラブを目指し邁進してきました。

今回の「宇宙強大」の企画も、天野さん主導で進められたもの。クラブが立ち上げられたのは1996年であり、今年は20周年の記念にあたります。ここはひとつ、大きなことをしなくては。そう考えた天野さん、これまでやったことのないスケールでプロモーションを仕掛けようと心に決めます。

が、すでにありとあらゆる試みをしてきたフロンターレ。未踏の地はどこかにないものか……。考えあぐねていると、あるとき、ふと思いつきました。そうだ、まだ手を付けていない場所がある。宇宙だ! と。

テーマに宇宙を掲げるのは、驚きに満ちていていいのだけれど、フロンターレには当然ながら、宇宙に関する知識やノウハウの蓄積などありません。具体的に事を進めるには、宇宙のことに日ごろから取り組んでいる人たちと組む必要がある。そこで天野さんが目を向けたのが、JAXAであり、『宇宙兄弟』でした。

■ファンと一体になれるなら、どんなことでもやってしまおう!

サッカーと宇宙。もはや直接的な結びつきなんてどこにもありません。でも、それでいいのです。サポーターや地域の人々と、川崎フロンターレというクラブの両者が、もっと親しみのある関係を築き、一体となるきっかけになるのであれば、どんなことだってやるのが天野春果流のプロモーションなのですから。

この突き抜けた前向きさと軽やかさ、何が大切かを見据えてまったくブレない姿勢に、『宇宙兄弟』スタッフは、話が持ち込まれた当初から強い共感を覚えました。『宇宙兄弟』も日ごろ、同じことを考えていたからです。

読者の人たちと、作品をいっしょに楽しみたい。作品が、もっと身近な存在であってほしい。そう思ってスタッフは日々、あれこれと企画を考え、交流の場をつくろうとしています。ときに作品世界とかけ離れた企画になったとしても、それはご愛嬌。楽しんでくれる人がいればそれでオーケーじゃないか。そんな考え方が、天野さんと『宇宙兄弟』は同じだったのです。

ぜひいっしょに大きいことを! そう話してあれこれ練っているうち、企画は膨れ上がることとなりました。宇宙というテーマは壮大ですし、川崎フロンターレ20周年記念のイベントでもあるので、話はどんどん大きくなっていきます。川崎フロンターレが手掛けるプロモーションは通常、ホームゲームの開催日のみおこなわれますが、今回は特別に、2日間にわたって宇宙イベントを展開することと相成ったのでした。

■夢が膨らみすぎて、2DAYS開催に

1日目は8月6日。J1リーグ2ndステージ第7節、ヴァンフォーレ甲府戦に合わせての開催です。スタジアム前の広場や児童遊園には、宇宙をモチーフとしたアトラクションがずらり並ぶことが決まりました。特設のステージでは、JAXA広報担当者や気象予報士らによる「宇宙トークステージ」が展開されます。宇宙食や宇宙グッズの販売ブース「宇宙の店」や、かさ袋でロケットをつくる「JAXA工作ブース」が設置され、宇宙兄弟ブースも登場。公式ストアが出張してきたり、ほっぺたに貼るタトゥーシールを販売したり、漫画家・羽賀翔一さんらによる似顔絵コーナーまで用意されるなど盛りだくさんの企画が用意されました。

そして、スタジアム内では小山宙哉さんが躍動します! まずは、試合に臨むフロンターレ選手が当日限定で着用する「宇宙服ユニフォーム」を、小山さんがデザイン。散りばめられた無数の星のなかに、ISS(国際宇宙ステーション)が浮かんでいてロマンティック。これを身に着けた選手たちがピッチを走り回るさまは、さぞ美しいだろうと想像します。

さらに、試合前には小山さんがピッチ上に舞い降ります。始球式セレモニーのキッカーを務めるのです。野球ならピッチャーがバッターに向けて1球投げるわけですが、サッカーの場合はPK、ペナルティ・キックを蹴ります。中学時代はサッカーに打ち込んでいたという小山さん。ここは腕の、ではなく脚の見せどころとなります。

2日目の8月16日は試合がなく、イベントのみ開催。サッカーが見られないのに、スタジアムに人を呼ぶ見込みが立てられるところが、川崎フロンターレの強みです。これまでさまざまなプロモーションイベントを成功に導いてきた実績があるからこそ、

「等々力競技場に行けば、サッカーだけじゃなくて、きっと何かおもしろいことをやっている」

という期待を持ってもらえるようになっているのです。この日の最注目は、ISSと等々力競技場をつないで、現在宇宙で活動中の大西拓哉宇宙飛行士と生交信をしようというもの。Jリーグクラブが宇宙と交信するのはもちろん初めてですし、スタジアムのような巨大施設とISSを直接つないで交信するというのも類例を見ません。宇宙と一体になれるこんなチャンス、めったにありませんね。

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ほかにも、室内練習場を会場にしたプラネタリウムや、アニメ『宇宙兄弟』エンディングテーマでおなじみの音楽ユニット、カサリンチュのミニライブを開催。さらには、『宇宙兄弟』ファンが参加・登場するかたちで制作された特別映像「あと一歩」を、スタジアムの大スクリーンで上映。できたて映像のお披露目の場となりました。

やりたいこと、ぜんぶやってしまえ! との勢いで、ありとあらゆる企画が詰め込まれた2日間。実際の現地の様子やいかに。次回以降にまたご紹介いたしましょう。

(つづく)

ライター:山内宏泰(@reading_photo)

中編・後編はこちらから
【中編】小山宙哉、等々力競技場で初ゴール!?
【後編】ISSと川崎フロンターレが、しっかりとつながった日