【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉2-1】スペシャル対談 ~国際宇宙ステーション滞在編~(前半) | 『宇宙兄弟』公式サイト

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉2-1】スペシャル対談 ~国際宇宙ステーション滞在編~(前半)

2017.05.28
text by:編集部コルク
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 2016年、国際宇宙ステーションで115日間の長期滞在を終えた宇宙飛行士・大西卓哉さんとのスペシャル対談企画! 「宇宙への旅立ち編」に続く第2弾では、無重力環境での生活の様子を語ってもらいました! さらに後半では、驚きの豪華ゲストも登場しちゃいます!

無重力ならではのハプニングを乗り越え、世界初の快挙を達成!

小山宙哉(以下、小山) ここからは国際宇宙ステーションでの生活についてお聞きしたいんですが、実際に無重力環境で過ごしてみて気付いたことってあります? というのも、JAXAの映像で宇宙飛行士の腕が自然と前に曲がっているのを見て、「無重力だとあんなふうになるんだ」と意外に思ったんです。

大西宇宙飛行士(以下、大西) 「ニュートラルポジション」という態勢ですね。地上だと重力があるので、体の力を抜くと腕は下りますけど、無重力でまったく力を入れないと、(肘を曲げて)このような中立姿勢になります。

就寝時の寝袋の中ではそんな感じですよ。その代わり、体は全然力を使っていないので眠りの質はよかったですね。私は、地上だと8時間は寝たいタイプなんですが、宇宙なら6時間も寝れば十分元気でした。ロールプレイングゲームの、ヒットポイントがピーッと満タンになる感じです。

小山 寝違えるとかもないですもんね(笑)。逆に、無重力でこれはダメだったという点は?

大西 最初の頃に、腰が痛いというのはありましたね。押さえつけている重力がなくなって背骨が伸びる痛みだと言われていますけど、夜にそれで目が覚めたりとか。

小山 成長期の痛みのようなものなんですかね。ちなみに、無重力でボクシングのような動きはできます?

大西 できます。普通に空中に浮いていれば何でも。ただ、壁とか叩くと反動で自分の体が後ろに飛んでいきますけど。

小山 じゃあ、殴り合ってもお互いが後ろに飛んでいっちゃう。ケンカは一発で終わりますね(笑)。

「宇宙兄弟」のコミック27巻では、宇宙ステーションでの、せりかのタンパク質実験のエピソードを描いているんですけど、画的にはもちろん、ストーリーも本当に難しくて。

大西 そうなんですか。27巻は拝見しましたけど、本当によく描かれているなと思って見ていたんですよ。「きぼう」の中とか、色々なレイアウトまでそのままなので。あれ、資料写真を見て描かれているんですよね?

小山 ほぼ写真ですね。宇宙ステーションの中って、ゴチャゴチャしているじゃないですか。もうちょっと整理できないのかな~って。ケーブルとか機材とか、画にするのが大変なんです(笑)。あれは全部、理解されているんですか?

大西 さすがに全部は把握できないので、マニュアルでの確認や、わからなければ地上の管制官に聞けばスペシャリストがいますので。私たちが気をつけているのは、勝手に接続を外さないこと、移動の時に足を引っ掛けてケーブルを外してしまわないことなどです。

小山 大西さんも、実際にタンパク質の実験をされていましたよね。

大西 はい。高品質のタンパク質の結晶を作る実験なんですが、ほとんどの実験は地上から遠隔操作で行われるので、私はそのサンプルが入ったカートリッジを実験機器に入れるのと取り出す作業を担当します。とにかく衝撃を与えないようにと気を遣いましたね。

このサンプルは、宇宙船に搭載される時も「重力がこの向きにかかるように搭載してください」という指定があるくらい、振動や揺れに敏感なんです。なので、それを取り付ける際は赤ちゃんを抱っこするような感じで機器に設置していました。

小山 あ~、そういうシーンは、せりかの時に描けたかもしれない! 小動物の飼育装置もやられたんですよね。

大西 私の滞在期間の前半部分「第48次長期滞在」は、ほとんどその研究にかかりきりでした。12匹のマウスを「きぼう」で長期飼育するというのは、色々と世界初の試みもあったので。

小動物の飼育装置も初めての使用だったので、無重力状態で苦労したことは多々あります。普段、ケージの中のフンは、換気扇のようなもので1ヵ所に吸い取られて集まっているんですけど、ケージを開ける際は電源を落とさないといけないので、ファンも止まっているんですね。で、勢いよくフタを開けちゃうと、フンがグローボックスという作業用の箱の中でフワフワと散乱してしまって(笑)。それを掃除機で時間をかけて吸い取るという……。実際にやってみて初めてわかることがたくさんあるので、その都度、地上の職員にフィードバックするようにしていました。

マウスたちはその後、スペースX社の「ドラゴン宇宙船」で帰ってきているんですよ。この宇宙船は、カプセルでそのまま地上に帰還する能力があって、補給船の中では唯一、「ドラゴン宇宙船」だけが可能なんです。

小山 マウスだけで帰還ですか!? 宇宙飛行とG(重力加速度)を体験したんですね……。

大西 12匹全部が生存したまま帰還したので、これは世界初です。私も35日間、時間をかけて飼育したので本当に嬉しかったです。

 

本番を経験することで実感した、地上でのハードな訓練の意味

小山 宇宙ステーションで行われるタスクへのプレッシャーってすごいと思うのですが、どうやって克服するんでしょうか。

大西 内容にもよりますけど、1回で成功しないといけないタスクへのプレッシャーは特に大きいですね。克服する一番の方法は、慣れしかないと思います。とにかく訓練で何回もやっているので。

補給船「こうのとり」をロボットアームでキャプチャーする作業などは、地上でやっている訓練のほうが、はるかに難しいモードで行います。難易度にもレベルがあって、イージー、ミディアム、ハード、さらにアウトオブスペックという設計規格外のモードまでありますから。

小山 それでも本番は緊張しそうですね。

大西 通常、補給船は自分で自分の位置をキープしようと制御しているんですが、キャプチャーする際は、直前にそれを切ってしまうんですね。ロボットアームで補給船を掴んだ瞬間、勝手にエンジンを噴かれるとロボットアーム自体に損傷が出る可能性があるので。

ただ、それでも補給船が持っている慣性で動いているので、補給船と宇宙ステーションとの相対速度で「この許容範囲内に収まっていないといけない」という、設計要求があります。訓練の時には、「こうのとり」がこの設計要求を超えるような動きをしているモードでも練習します。そういう厳しい訓練をやっているので、本番では「こうのとり」がビターッと正座しているかと思うくらいに感じました。難易度的にはイージーで、あとはキャッチするだけ。訓練と違うのは、これが非常に高価な本物の機体で、それが自分の腕にかかっているというプレッシャーです。

小山 地上でのハードな訓練には、技術面でのプレッシャーを緩和する目的もあるんですね。本番で「あ、これラクだな」と思えるという。

大西 そうです。私は逆に、訓練はそうでなければ意味がないとも思っています。厳しければ厳しいほど、いいですね。

そのぶん、宇宙ステーションで実際に経験して気付いた点は、帰還後にデブリーフィングという時間があって、1ヵ月くらいかけて色々な専門家の方たちと話をしながらフィードバックをします。そこで自分が感じたことや苦労した点などを伝えると、彼らが装置や手順書を改良してくれるんです。

たとえば、細かい部分だと「物品の管理方法ですが、あちこちに保管されていると、実験をやるたびに各所から集めてこないといけないので、それが不便です」といった内容ですね。それを受けて、「じゃあ、よく使うものだけ1つの袋に入れておいて、実験で使う期間だけは出しておきましょう」などと、地上側が調整してくれます。

私と一緒に飛んだ、NASAの宇宙飛行士のケイト(キャスリーン)さんは科学者なんですが、彼女がすごいなと思ったのは、色々な実験や研究に対して、「もっとこうしたら実験としての価値が高まる」など、科学者の観点から発言していたこと。実験の意義や成果を向上させるための観点からフィードバックしているのを見て、これは自分にはできないなと。

まさに、せりかさんが宇宙ステーションにいるみたいに、科学者が宇宙ステーションにいる意義を強く感じました。

もちろん、クルーにも役割があって、全員が科学者でいいかというと、そんなことはないんですが。まあ、そこはバランスですね。

ところで、小山さんが「宇宙兄弟」でタンパク質の実験を取り上げられた理由はなんだったんですか?

小山 色々とあるんですが、シャロンという登場人物が病気になって、キャラクター同士の結びつきを考えた時に、その病気のカギを解くために宇宙ステーションに行くというストーリーができたんです。

せっかく宇宙ステーションに行くのだから、タンパク質の実験を描けるだろうと。画的には難しいと思いましたけど、すでに8巻あたりから描くだろうな、というアイデアはありました。

大西 宇宙飛行士の世界って、たとえば船外活動やりましたとか、補給船をロボットアームで捕まえましたとか、あとは打ち上げや帰還といった、いわゆる華がある場面に目が向きがちなんですけど、実際の私たちの時間のほとんどは、実験などに従事しているほうがはるかに長いんですね。本当に重要なのは、それをやるために宇宙に行っているので。

なので、ああやって一つの実験に焦点をあてて描いてくださったのは、すごく嬉しかったです。

小山 ありがとうございます。ほかには、これちょっとマンガで描いてほしいとかあります? トイレが大変だったと聞いたのですが。

大西 むちゃくちゃ大変でした! 地上では、いかに重力に助けられていたのかを痛感しました(笑)。

宇宙ステーションのトイレも地上と同じような便座があるんですが、座ろうとするとそれと同じ力で押し返されるので、常に自分で自分のおしりを便座に押さえつけていないとダメなんです。しかも、小便を吸い取る漏斗も片手で持たないといけないし、当然ティッシュペーパーで拭かないといけないしで、手が足りないという状態に。そのコツを掴むまでが大変でした。

それと、私たちが滞在していた時にトイレがよく壊れたんですよ……。修理するのに5時間くらいかかった時もあります。トイレと運動機器は宇宙ステーションの中でも優先順位が高いので、壊れたらほかの予定を全部スキップしてでも直します(笑)。

小山 これはいいですね~! 宇宙兄弟でも使えそうな気がします。六太は月面ですけど、月面でもトイレは大事ですから。トイレが壊れて六太のミッションが始まるという。

大西 確かに、彼のキャラクターに合っているかも(笑)。

(後半に続く)

構成・文/秋山美津子(SUPER MIX)

 

【プロフィール】

秋山美津子(フリーランス・ライター)
高校時代、自ら天文学部を発足するも、なぜか放送部に吸収合併された経験アリ。『宇宙兄弟』に出会ってからは、ISSの観測を楽しんでいます。自宅のベランダからは、北の空がまったく見えないのが悩みのタネ。
公式HP: http://www.spmx.jp/

 


大西宇宙飛行士と小山の対談、宇宙への旅立ち編はこちら☆

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 1-1】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (前半)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 1-2】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (後編)

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