【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う〜ウユニ塩湖で星の野原に立つ(2/3)ウユニ塩湖の真ん中で星空キャンプ〜 | 『宇宙兄弟』公式サイト

【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う〜ウユニ塩湖で星の野原に立つ(2/3)ウユニ塩湖の真ん中で星空キャンプ〜

2018.07.12
text by:編集部コルク
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『宇宙兄弟』の公式サイト連載がきっかけで出版されたKAGAYAさん初のフォトエッセイ、『一瞬の宇宙』。

忙しかったりつらかったり、悩んでいたり、ひたむきにがんばっている方にこそ、ほんのひと時でいいから空を見上げてほしいーー

宇宙兄弟公式サイトでは、世界中で星空を撮り続けるKAGAYAさんのこのフォトエッセイを大公開します。

ウユニ塩湖の真ん中で星空キャンプ

ウユニ塩湖という名前がよく使われますが、正確にはウユニ塩原と表現されます。そこにあるのは塩でできた荒野で、人工衛星から撮った写真では白く輝く姿がわかります。

どうしてここにこんなに大量の塩があるのでしょうか? 大昔、このあたりは海だったのです。大地が盛り上がって巨大なアンデス山脈ができたとき、海の一部が山の上にすくい上げられてしまいました。そうして天空に持ち上げられた海から水が蒸発し、また雨で周囲の塩が集められたりしながら盆地に平らな塩原ができました。その巨大な塩原に雨季になると雨水がたまり巨大な水鏡が出現するのです。

塩原を疾走する車の進行方向に、クジラの背中のような影が見えてきました。近づくとどんどん大きくなるその影は、塩湖の中央にある島、「インカ・ワシ島」でした。太古の海がアンデス山脈にすくい上げられたとき、一緒に山の上に持ち上げられた、太古のサンゴ礁です。

塩原に浮かぶサンゴの化石の島には何メートルもの高さに伸びたサボテンがたくさん生えていました。わたしたちはサンゴの化石の山をよじ登り、島の高台に立ちました。サボテンの林の中で見た見事な夕日は、見慣れた景色とはまるで違う不思議な光景でした。この夕日はここが海だった何千万年も前から景色をゆっくり変えながら何度繰り返されたのだろうなどと考え、気が遠くなりました。

インカ・ワシ島の上に星々がきらめき始める頃、西から強い風が吹いてきました。風はどんどん強くなり、ついにはまともに立っていられないほどの強風になりました。バスカルさんは「この強風を避けるためインカ・ワシ島の風下でキャンプしよう」と言いました。そこならいくらか風をしのげるのでテントも張れそうだと言います。そして「深夜を待ち、風がおさまったら車を走らせてトゥヌパ火山まで行こう」と言いました。わたしは早く水のあるところまで行きたいとはやる心を抑え、バスカルさんの言うとおりにしようと思いました。想像を絶する強風のため予期せぬ事故があってはいけない、と、彼の言葉に従うことにしたのです。

インカ・ワシ島の風下に着くと、バスカルさんは車を止めてキャンプの用意を始めました。あたりはすっかり暗くなっていたので車のヘッドライトを照明にして、手際よく、テントを立てたり、火をおこしたりしてくれました。頭上には満天の星が輝いています。

標高3700メートル。世界で最も平らな場所、南米ウユニ塩湖のど真ん中、満天の星の下のキャンプです。夕食、旅の始まりの乾杯。未明には水鏡のところへ行けそうですし、最高の気分でした。

ふと、バスカルさんが車のボンネットを開けて覗き込んでいます。

どうしたのか尋ねると、なんと車のバッテリーがあがってしまったと言うのです。原因は、テントを張っていたときにエンジンをかけずにヘッドライトをつけっぱなしにしていたからでしょう。となるとエンジンはかかりません。

バスカルさんは「明日朝あたためてやってみる、気にしないで寝よう」と言いながら彼のテントにもぐり込んでしまいました。

ここは携帯電話の電波も届かない、街から遠く離れた誰も来ない場所です。たいへんなピンチ到来だと思うのだけれど……。わたしも自分のテントに入りインカ・ワシ島の場所を地図で確かめました。ウユニの町からは90キロメートル、最寄りのタウアの村でも、40キロメートルは離れています。とても歩いて行けるような距離ではありません。

「待てよ、インカ・ワシ島は無人島ではなく、わたしたちがいる島の反対側には島の管理をする人が住んでいたはず。そこまでなら歩けば1時間程度だし、助けを呼べるかもしれない」

しかし昼まで車が動かないのなら、明日の未明に行う予定だった水鏡での星空撮影は絶望的です。

「明日になったら撮れるのだろうか? 今夜はせっかく晴れているのに、明日から急に雲が広がってもう星空が見られないなんてことになりはしないだろうか?」

わたしはいてもたってもいられず、星の写真を撮ることにしました。テントの外へ出ると、月も沈んで街明かりもない、真っ暗なはずの大地が、うっすら何かの明かりで照らされていました。それを照らしていたのは星明かり。そして見上げるとそこには、今までに見たことのないほどにきらびやかで、見渡す限りの広い星空がありました。

そして、いつの間にかあんなに強く吹いていた風が止んでいました。「この星空が水鏡のような湖面に映ったら、どんなにすごい風景になるのだろう……、明日はそこにたどり着けるといいな」そう思いながら、明るくなるまで写真を撮り続けました。

(つづく)

 

KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』連載はこちらから

 

KAGAYAプロフィール
1968年、埼玉県生まれ。
絵画制作をコンピューター上で行う、デジタルペインティングの世界的先駆者。
星景写真家としても人気を博し、天空と地球が織りなす作品は、ファンを魅了し続け、Twitterフォロワー数は60万人にのぼる。画集・画本
『ステラ メモリーズ』
『画集 銀河鉄道の夜』
『聖なる星世紀の旅』
写真集
『星月夜への招待』
『天空讃歌』
『悠久の宙』など