もし、『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら?

もし、『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら?

「もし、マンガ『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら」と仮定して、小山宙哉さんが描いた原作の個性的なキャラクターの振る舞いをFFS理論に沿って分析し、彼ら彼女らと似た個性を持つ人が、就活の現場でついやってしまいがちな行動、やらかしがちな失敗を取り上げていきます。 (この連載記事は、「日経ビジネス電子版」『「一歩踏み出せない」あなたをエースにする方法』(著者:古野俊幸)より「もし、『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら?」シリーズを転載したものです。)

就活で意外に苦戦する「ガクチカ華やか」な人材〜「拡散性」が高い『宇宙兄弟』のヒビトは就活でも無敵か?〜

就活で意外に苦戦する「ガクチカ華やか」な人材〜「拡散性」が高い『宇宙兄弟』のヒビトは就活でも無敵か?〜
日本人初の月面に立つ宇宙飛行士に選ばれた南波日々人(ヒビト)。
持ち前の行動力で夢をかなえた瞬間、月のウサギのような大ジャンプを披露。
7巻 #65「月のウサギ」

 「もし、マンガ『宇宙兄弟』の登場人物が就活生だったら?」と仮定して、彼ら彼女らの振る舞いをFFS理論(開発者:小林惠智博士、詳しくはこちら)に沿って分析することで、就活生の方々が自己理解を深め、ご自身の強みや魅力を面接等で伝える自己発信の際のヒントを得ていただこう、というこの企画。第2回目の今回は、主人公である南波兄弟の弟、南波日々人(ヒビト)にフォーカスしたいと思います。

 幼いころから宇宙飛行士になる夢を持った南波兄弟。兄の南波六太(ムッタ)が、メーカー就職→クビ、と、たいへんな遠回りをしてようやく夢をかなえたのに対し、ヒビトは夢に真っすぐ突き進み、宇宙航空研究開発機構(JAXA)史上最年少で宇宙飛行士になりました。

 その愛すべきキャラクターと卓越した行動力によって、米航空宇宙局(NASA)では伝説的宇宙飛行士、ブライアン・Jからも目を掛けられ、彼の推薦によって日本人で初めて月面に立つという快挙を成し遂げるなど、絵に描いたようなサクセスストーリーを歩んでいきます(宇宙兄弟ファンはご存じの通り、「ある時点までは……」のただし書きがつきますが)。

 ヒビトの個性をFFS理論で分析すると、「拡散性」の高いタイプであると考えられます(※ご自身の個性をFFS理論で簡易診断したい方はこちら)。

 拙著『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析』でも詳しく書きましたが、行動力や推進力、創造力に優れた「拡散性」の高い人は、「変革や推進ができそうな人材」として、変化を求める現代の企業が求める人材にも合致します。

拡散性の就活は順風満帆、と思いきや……?

 「拡散性」の高い人は、エントリーシートや面接でアピールできる「ガクチカ」(学生時代に取り組んだこと)も華やかです。

 興味が湧いて「やりたい」と思ったことには、躊躇なくすぐに動くので、様々な活動に首を突っ込みます。その結果、他の学生にはない体験談を手に入れるわけです。「拡散性」の高い人のガクチカは、採用側にとっても魅力的に映ることが多いでしょう。

 ということで、「拡散性」の高い人の就活は順風満帆、何の問題もなし!

月面での大ジャンプが報道されて、ヒビトは一躍人気者に。
ウサギのキャラクター「Mr.ヒビット」でアニメ化まで。
13巻 #127「二つの鍵盤」

 ……かといえば、案外そうでもありません。

 書籍でもお伝えしていることですが、人の個性を構成する因子の特徴がポジティブに発揮されれば「強み」になる一方で、ネガティブに発揮されれば「弱み」になります。つまり、その人の置かれた環境やストレス状態によって、同じ人でもポジティブな面が表れたり、ネガティブな面が表れたりするのです。

 そして、因子の特徴がポジティブに発揮された場合と、ネガティブな場合とでは、相手に与える印象は180度違ってきます。

 ポジティブに発揮された場合は、相手にも好印象を与えることができます。ネガティブに出てしまった場合には、その人が本来持つ強みや魅力は相手に伝わりにくくなり、就活でもマイナスに作用してしまいます。

 これは「拡散性」の高い人に限らず、どのタイプの人にも当てはまることです。しかし、特に「拡散性」の高い人の場合は、「自分のポジ/ネガの状態をきちんと把握したうえで、自分の強みや魅力を丁寧に伝える工夫」が必要かもしれません。

 それはなぜか。
「拡散性の高い人の強みは、日本社会では伝わりにくいことが多い」からです。

 「拡散性」の高い人は、日本では少数派です。そして、前回も説明した通り、日本で多数派を占めるのは「保全性」の高い人です。これは我々の調査でも明らかになっており、FFS理論の5つの因子のうち、気質に由来する因子である「拡散性」と「保全性」に着目し、「拡散性」が高い人と「保全性」の高い人の割合を比較すると、日本では35:65になります。

 このことから考えられるのは、企業の採用担当者にも「保全性」の高い人が多いであろう、ということです。

少数派の拡散性は、日本の多数派に理解されにくい

 人は、自分とよく似たタイプのことはよく理解できますが、自分とは異なるタイプのことは、よく理解できないものです。

 もし、「拡散性」の高い学生が「保全性」の高い面接官に当たったなら、自分の強みや魅力を面接官になかなか理解してもらえない、という場面に遭遇するかもしれません。「自分の強みは一般的には伝わりにくい」ことを念頭に置きながら、自分のガクチカを整理し、面接やエントリーシートでのアピール方法を工夫する必要があるでしょう。

 ちなみに、「保全性」の高い人から、「拡散性」の高い部下を見たときにどう感じるかについて、以前、「『興味ないんで』と言い放つ部下をどうしよう」という記事を書きました。「保全性」が高い面接官から見た自分、を考えるうえで参考になるかもしれません。記事の最後にリンクを貼っておきますので、よろしければご一読を。

まず操作マニュアルを読み、知識を頭に入れてから……という「丁寧にステップを踏む」ことが、「拡散性」の高い人には苦手なことが多い。
5巻 #46「芝刈り男と砂掛け男」

 まずは、「拡散性」の高い人がネガティブ状態の場合、周りの人にはどのように映るのか見てみたいと思います。

 ここで、あらためてヒビトの就活を“妄想”してみましょう。
 どんな困難も、持ち前のプラス思考と行動力で乗り越えてきたヒビトは、まさに「変化を求める企業が欲しがる人材」と言えます。

 ですが、そんな彼でも、ネガティブな面が出てしまうことがありました。カッコよくて好感度抜群のヒビトだけでなく、「拡散性」のネガティブな面が表に出たときのヒビトもマンガでは描かれています。登場人物のネガとポジが的確に描き分けられているところに、私は作者である小山宙哉さんの人物観察眼のスゴさを感じずにはいられません。

 ヒビトは、月ミッション中の大事故でパニック障害を患い、宇宙飛行士の任務から外されます。その代わり、NASAはヒビトのそれまでの貢献を評価して、安全スーパーバイザーという、役職上はかなり高いポジションを提供しました。

 しかし、あまり意味のなさそうな会議ばかりが続く仕事に、本人はまったく興味がありません。会議中であっても“上の空”。明らかにテンションが低く、毎日が「つまらなそう」です。

17巻 #161「明日のために」

 ヒビトの胸の内を想像して代弁するなら、こんな言葉が聞こえてきそうです。
「俺じゃなくても、できる仕事じゃないか」

テンションの低いヒビトは、ディストレス状態

 「拡散性」の高い人がこの言葉を冷めたように言うときは、かなりのディストレス状態です。つまり、刺激が「少なすぎて」、退屈し、気分が腐った状態になっています。

 「拡散性」の高い人は、「自分しかできないこと」にワクワクします。しかも、難易度が高ければ高いほど、ワクワク度が増すのです。いわゆる「オンリーワン発想」なのです。

 ですから、誰にでもできそうなルーティンワークやデスクワークは、退屈で仕方がない。ヒビトのテンションの低さは、「誰も足を踏み入れたことのない未開の地や、最前線の現場でこそ力を発揮する」という拡散性の強みの裏返しなのです。

 さて、ここで、企業の採用担当者の気持ちになってみましょう。

 例えばインターンシップなどで、ディストレス状態のヒビトのように、つまらなそうな顔で参加している学生がいたら、どう思うでしょうか。

 仕事には、たんたんとこなすことが重要なものが数多くあります。誰がやってもあまり代わり映えがしない仕事も多いでしょう。例えば、資料作成などのデスクワークの中には、「拡散性」の高い人には「つまらない」と感じられるものもありそうです。インターンシップでそうした仕事を命じられたときに、つい、やる気の感じられない投げやりな態度が出てしまうかもしれません。

 それを見た採用担当者は、「与えられた仕事にちゃんと取り組まない、不真面目な学生だ」と評価するかもしれません。特に、コツコツと着実に物事を進めることが得意な「保全性」の高い採用担当者ほど、マイナス評価を下す可能性が高まります。そして、日本人の多数派は「保全性」が「拡散性」より高い人なのです。

 もちろん、宇宙兄弟ファンなら、月ミッションで遭遇した大事故で、ヒビトがどのように行動し、危機を脱したかも知っています。死に直面した状況でもあきらめず、自分と仲間を信じて脱出の道を探り続け、突破口を開きました。

月のクレーターに落下したヒビトとダミアン。ダミアンは負傷し、ヒビトは酸素を失いつつある。絶望的な状況だが、ヒビトの眼はむしろ輝いているように見える。「アラン」はダミアンの息子の名前。
8巻 #78「二人の判断」

 安全スーパーバイザーとしてのヒビトを見て「この人はいらない」と人事が判断したとしたら、月での活躍を知るあなたは「なんてもったいない!」と思いますよね。

 ヒビトを例に取って、「拡散性」の高い人のネガティブな状態とポジティブな状態を説明してきましたが、同じ人物であっても、「動機づけがあるかどうか」でこうも違う、ということがお分かりいただけたかと思います。どのタイプでも同じことですが、特に「拡散性」が高いあなたが、日本での就活で注意すべきは、「自分の弱みが出てしまう課題」を自覚し、注意すること。「保全性」が高い人が多い国に生まれた宿命なのです(おっと、これはムッタみたいな言い方ですね→前回参照)。

 同一人物の見え方が180度変わる、ということは、実際の採用現場でも起きています。実例でお話ししましょう。

 コロナ禍の今はあまり実施されなくなりましたが、以前は「学生たちを集めたグループワーク」セッションが行われていました。学生同士で一つのことに取り組んでもらうことで、相対的比較を行う選考プロセスです。面接官と一対一の場面では緊張して実力が出せない学生を、別の視点から評価するために実施している会社もあります。

 このグループワークは、厳しく審査して候補者をふるい落とすことが目的ではありませんが、例えば「マナーが悪い」「非協力的」「ビジネスマンとしての資質に欠ける」など、「社会人としてこれはちょっと……」という人をチェックすることはあります。

ちょっとしたしゃれがきっかけで、公式写真に裸足で写ることになったヒビトたち。
39巻 #365「裸足の4人」

前評判の高かった学生はなぜ一言も話さなかったのか

 ある企業で取り組んだグループワークで、こんなことがありました。

 S君は「拡散性」が高い学生です。サークルをゼロから立ち上げたり、ベンチャー企業でインターンシップに参加したりするなど、各方面での活躍ぶりが噂され、期待を集めており、採用担当者のNさんもS君に注目していました。

 企業説明の後、就活生に5~6人のグループに分かれてもらい、1時間ほどのグループワークに取り組んでもらいました。すると、S君は、自己紹介以外ほぼ一言もしゃべらずに、グループワークを終えてしまったのです。

 当然、S君のこの態度は、面接官にはたいへん不評でした。

 彼のグループを観察していた面接官は、「彼は一言も発しないので、何を考えているか分からない。非協力的に映った。うちの会社でやっていくには厳しいだろう」とコメントしたのです。

 S君に興味を持っていたNさんは、その結果をとても残念に思いました。それで後日に機会を設けて、なぜ一言もしゃべらなかったのか、S君に直接尋ねたのです。

 するとS君は……なんと言ったと思いますか?

 「拡散性」の高い方ならきっと思い当たると思いますし、別の因子が高い方でも周囲に「拡散性」が高い方がいれば(たぶん目立つので、いれば気がついているでしょう)、「いかにも、あいつが言いそうだな」と感じそうな言葉でした。
 答え合わせは次回で!

© Chuya Koyama/Kodansha
(構成:前田 はるみ

ご参考:「『興味ないんで』と言い放つ部下をどうしよう」)

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「日経ビジネス電子版」2021年12月23日掲載
就活で意外に苦戦する「ガクチカ華やか」な人材(著者:古野俊幸)
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00077/122100029/