宇宙人生

宇宙人生

NASAで働く日本人技術者小野さんの日々をつづったエッセイ

《第25回》宇宙人生ー"宇宙人生"を連載している小野さんへ、新連載開始前スペシャルインタビュー!

《第25回》宇宙人生ー"宇宙人生"を連載している小野さんへ、新連載開始前スペシャルインタビュー!
これまで2年にわたって連載コラム「宇宙人生」で、宇宙にまつわるお話やNASAの旬な情報をユーモアたっぷりにご紹介してくださった、NASAの技術者・小野雅裕さん。
この秋からは、宇宙の探査をテーマにした小野さんの新連載がスタートすることになりました☆
記念すべき第1回がはじまる前に、今回の「宇宙人生」では著者である小野さんご本人へのインタビューをお届けしたいと思います!
宇宙探査をとおして自分が体験したわくわくを『宇宙兄弟』ファンの方にもお届けしたいという小野さん。未知な世界が広がる宇宙の謎に迫っていく探査のおもしろみや、新連載に向けたメッセージを語っていただきました。

—そもそも、宇宙兄弟のサイトで「宇宙人生」を連載することになったのはなぜですか?

高校時代の友人が佐渡島さん(株式会社コルク代表取締役、『宇宙兄弟』初代担当編集:通称サディ)を紹介してくれたのが始まりです。

佐渡島さんの本を読んでると、長いスパンで作家のことを考えてくれる人なんだろうなと思って、僕の方からメールを送りました。その時、ちょうど出版した僕の著書もお送りしたんですが、「面白かった」とお返事をもらえて、その流れで『宇宙兄弟』のサイトで連載する話を持ちかけていただきました。

宇宙人生という連載も、最初は僕の本の続編のような感覚で書いていました。ただ、どんなものが読者にウケるのかということにはもともと興味があったので、連載の中で色々と試行錯誤をするようになりましたね。

(小野さんの連載『宇宙人生』の第一回はこちらから)

例えば、文体を柔らかくしてみたり、時事ネタを取り入れたり、宇宙人のような一般ウケしそうなネタを選んでみたり、本当に色々なことをやらせてもらっています。なので、連載も最初と今では随分トーンが変わっていて、僕の試行錯誤の軌跡が『宇宙人生』という連載だと思ってもらえると嬉しいです。

宇宙人生第11回『宇宙でエッチ』
宇宙人生《号外》『史上初!ついに冥王星に到着!!』

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イラスト:ちく和ぶこんぶ

—宇宙へ興味をもったきっかけ、はじまりは?

ムッタにとっては、UFOが宇宙に目覚めたきっかけでしたが、僕の場合は父からもらった望遠鏡でした。望遠鏡で月を見ながら「すごいなぁ」って思っていました。『宇宙兄弟』にもそういうシーンがありましたね。

宇宙探査や宇宙工学に興味を持ったのは、僕が小学1年生の頃にボイジャーが海王星に着いたことがきっかけです。宇宙人生の方にも書きましたが、「地球がサッカーボールの大きさだったら海王星は75キロも先にある」というたとえ話を父がしてくれて、「すごく遠いところまで人間はたどり着いたんだな」と思ったんです。それが宇宙探査に興味を持ったきっかけです。

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画像:木星に到着したジュノーの想像図。Image: NASA/JPL

—ムッタが布団の中で宇宙を感じたシーンがありましたが、小野さんが宇宙を感じたことはありますか?

これもやっぱり父がサッカーボールの話をしてくれた時です。そもそも、宇宙を感じるというのはなかなか難しいと思います。それは宇宙という存在に実感を持つ体験をし辛いからです。たとえば、象が目の前にいたら「大きいな」って思いますよね。でも、宇宙は目の前にあるものではありませんし、上から俯瞰して見ることもできません。だから、実感として大きさや存在を感じるのは難しいです。

けれど、「地球がサッカーボールの大きさだったら海王星は75キロも先にある」という父がしてくれたたとえ話は「宇宙ってすごく大きいんだ」と実感を持って想像することができたんです。そのときは、なんだか太陽系を上から眺めている気分になってすごいスケールだなと思いました。

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—そもそもなぜ人は宇宙を探査するのでしょう?

宇宙探査というと新しいことのように感じますが、人類が歴史の中で繰り返し行ってきたことの一部が宇宙探査だと僕は思っています。

まず、人類はアフリカで誕生して、種として世界中に広がっていきました。そして、文明も世界の幾つかの場所で生まれましたし、たとえばヨーロッパ人はアメリカ大陸に渡りましたね。20世紀に入ってからは南極にも行きましたし、エベレスト登頂も果たしました。

人類は訪れたことのない場所を開拓してきた歴史を持っています。宇宙探査もその延長線上にある活動だと思っていて、人類や文明のフロンティアを押し広げていく活動だと思いますよ。

—その探査によって人類は何を得るんですか?

一つは知識です。人間のことをホモ=サピエンス(知識のある人)とも言いますが、知識を得ることは人間の根源的な欲求だと思います。もう一つは冒険そのものに価値があると思います。

これは僕の意見ですが、エベレストを前にして無関心でいるよりも、それを登ろうとする方がより人間らしいように思います。同じように宇宙が目の前にあるのに、そこに行かずにいるのは人間の本能から目を背けているのかなという気が僕にはするんです。

だから、冒険それ自体に価値があると思います。

—探査をすることは、宇宙の始まりを知ることになると、次回よりはじまる連載で書かれていましたが、どういう意味でしょうか?

宇宙へ飛び出すことで解明される真実というのが多くあります。ただ、残念ながらその答えは地球にはほとんどありません。

例えば、地球でどのように生命が生まれたか?というプロセスについても、地球の中だけで研究するより、太陽系が生まれたプロセスを解明することで、その答えを得ることができるかもしれないんです。

そのように、宇宙の探査が多くの神秘を解き明かす鍵になっているということです。%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2015-10-29-19-31-40超大型ロケット、スペース・ローンチ・システムの想像図(画像提供:NASA)

 

—宇宙関連のニュースが世間を騒がせることがありますが、小野さんみたいな技術者だから興奮するニュースとかポイントとかってありますか?

僕が興奮するポイントは「どれだけ途方も無いことをしているのか」です。先ほどから話にも出ている海王星は、光の速さでも4時間かかるような本当に遠いところにあります。だから、海王星に人間がたどり着いてしまうみたいな途方も無いことを人類が成し遂げている時には興奮してしまいますね。

また、今まで知らなかった世界を知ることができたという興奮もあります。

今、僕が書いている本には、僕が今感じている興奮をできるだけ多くの人に感じてもらいたいという目的があります。そのために、今、宇宙探査で使われている技術を噛み砕いて紹介しようとは思っていますが、それだけで終わってしまうのではなく、人類が5000年の間で挑戦してきたことを紐解きながら紹介していきたいと思っています。

技術的な視点と歴史的な視点が合わさると、人間のイマジネーションと技術がどのように人類の夢を叶えてきたかということを紹介できると思いますし、そうすることでたくさんの人に僕の感じてる興奮を伝えられると思っています。

—バズ・オルドリンと会ったと連載にありましたが、かつて、または現在の偉人、天才について思うことはありますか?

本を書くために調べていてわかったことでもあるのですが、彼らは共通して子供の頃に強烈な夢を持っています。そして、それが引き起こされた体験があり、激しい願望を持っていました。同じ時代を生きた人たちからは、ひどい変人として映っていることがほとんどでしたが、偉人たちは子供の頃からの信念を貫き通していたんです。

ただ、宇宙探査の歴史はエスカレーターのような滑らかな発展をしてきたのではなく、そういった偏屈親父たちが爆発的に押し上げて行ったんです。それはやはり凄まじいことですよね。

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(イラスト:ちく和ぶこんぶ)

—SFと宇宙開発の関係は?

SFはイマジネーションの世界で、宇宙探査はテクノロジーの世界にあります。この二つは独立しているのではなく、お互いに関係し合っています。『宇宙兄弟』もそういった流れの一つで、僕の宇宙人生という連載の主題でもあります。

実際、宇宙開発においてSFが果たした役割は果てしなくて大きくて、ゴダートなどのロケット開発初期のパイオニアたちは皆ジュール・ベルグの大ファンだったように、SFは宇宙や科学の可能性を押し広げました。

また、宇宙探査が進むことで、『宇宙兄弟』という作品は生まれているわけですよね。しかし、『宇宙兄弟』に刺激されて、JAXAに行く人もたくさんいると思います。

そういう風にSFと宇宙開発はお互いを刺激しあう循環があると思います。

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—探査(冒険)のおもしろさとは?

僕の研究テーマは宇宙で使うための人工知能です。具体的には、次世代の火星ローバーの自動走行アルゴリズムを作っています。

何がしたいかというと、人類はどこまで行ったのか?という物理的なフォロンティアと、どこまで知れたのか?知識のフロンティアを推し進めていきたいし、それに貢献したいです。

—これから連載がはじまりますが、読者にどう楽しんでほしいですか?また、どういったことを書いていきたいですか?

一番の関心は、僕の体験した興奮をたくさんの人に伝えたいということです。これはとても難しいことです。宇宙技術を解説した本は、一般向けのものも専門家向けのものもたくさん出版されています。しかし、技術だけを伝えても興奮は伝わりません。

また、宇宙開発に貢献した偉人の伝記もたくさんありますが、今度は逆に成し遂げたことの技術的な難しさが伝わりにくくて、「何がそんなにすごかったんだろう?」と疑問を感じてしまうはずです。

そして、技術や人のどちらかだけを扱わないと、歴史や文化や文明という時代的な流れが抜けてしまいます。

けれど、技術と人と歴史という3つの要素はお互いにつながりあっているはずです。だから、僕はこの3つを結びつけながら紹介していきたいです。それは、文明の中でどのようにイマジネーションが育まれたのか、また19世紀や20世紀に誕生した天才たちはどのように火をつけられたのか、という具合になると思います。

技術・人・文明の3つの要素を丁寧に汲み取って興奮を伝えたいです。

—小野さん、ありがとうございました!

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コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!

書籍の特設ページはこちら!


〈著者プロフィール〉

小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。

2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。

本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。

■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
《号外》史上初!ついに冥王星に到着!!NASA技術者が語る探査機ニューホライズンズへの期待
第11回<前編>:宇宙でエッチ
第11回<後編>:宇宙でエッチ
《号外》火星に生命は存在したのか?世界が議論する!探査ローバーの着陸地は?
第12回<前編>:宇宙人はいるのか? 「いないほうがおかしい!」と思う観測的根拠
第12回<中編>:宇宙人はいるのか? ヒマワリ型衛星で地球外生命の証拠を探せ!
第12回<後編>:宇宙人はいるのか? NASAが本気で地球外生命を探すわけ
第13回:堀北真希は本当に実在するのか?アポロ捏造説の形而上学
《号外》火星の水を地球の菌で汚してしまうリスク
第14回:NASA技術者が読む『宇宙兄弟』
第15回:NASA技術者が読む『下町ロケット』~技術へのこだわりは賢か愚か?
第16回:NASAの技術者が観る『スター・ウォーズ』〜宇宙に実在するスター・ウォーズの世界〜
第17回:2016年注目の宇宙ニュース
《号外》太陽系第9惑星が見つかった!?話題のニュースを徹底解説!
第18回:NASA技術者の日常 〜平日編〜
《号外》人工知能は宇宙探査に革命を起こすか?
第19回:NASA技術者の日常 〜育休編〜
第20回:宇宙人生ー宇宙兄弟28巻 技術解説×クイズ!(ネタバレなし)
《号外》宇宙人生ー昨晩のNASA重大発表の解説:1284個の系外惑星が一度に「発見」される!
第21回:宇宙人生ー【NASA技術者の日常】ロスの休日〜石油と金と海と一杯のコーヒー〜
第22回:民間宇宙開発の時代における、NASAやJAXAの役割とは?
《号外》今日、NASAの探査機ジュノーが木星到着!!

第23回:宇宙人生ー宇宙探査と人工知能
第24回:宇宙人生ーセンター・オブ・ジ・アイシー・ムーンズ (Journey to the Center of Icy Moons)
《号外》エウロパから水蒸気の噴出を発見!