
六太賞|つまずきながら、前へ。【エッセイプロジェクト】
宇宙兄弟はじまりの年を記念して、六太がミラクルカーを退社した5月15日に募集開始した宇宙兄弟エッセイプロジェクト みんなの心のノート。
「あの人とわたし」がテーマとなった第1回の入賞作品から、六太賞/日々人賞/宇宙兄弟賞の受賞作品をご紹介していきます!
今回は六太賞受賞作品です。
つまずきながら、前へ。(30代 岡田修平)
小学生の頃、テレビの画面に映るスペースシャトル「エンデバー号」が、白い煙とともに真っ直ぐに空を突き抜けた。ロケットロードとともに、毛利衛宇宙飛行士が宇宙へ飛び立つ瞬間、わたしは息をのんだ。心の奥で小さな声が響いた。
「いつか自分の作ったロケットで宇宙に行きたい」。

高校生になると天文部に入り、夜の学校の屋上で星を眺めた。星の物語を語り合う同級生との時間は、まるで宇宙に近づいたかのようで心地よかった。
しかし、夢への道はそう簡単ではなかった。
航空宇宙学科に進学したかったのだが、私は数学が大の苦手だったのだ。問題集を開いても、いつまで経ってもノートのページは白いまま。
結局のところ、航空宇宙学科を目指した大学受験は、あっけなく失敗に終わった。宇宙への道が閉ざされた気がして、夜空を見上げても、星はただ遠く、冷たく瞬くだけだった。滑り止めの電気電子工学科への進学は、まるで宇宙への道が閉ざされたような絶望を感じた。
夜空を見上げても、星は遠く、わたしの夢への道はどこかで途切れてしまった気がした。

ただ、大学生活は、意外にも明るかった。
電気回路の仕組みを学び、研究、部活動、アルバイトに精を出した。研究室で仲間と笑い合う時間は、新たな進むべき道を見つけたような喜びに満ちていた。
でも、心のどこかで、宇宙への想いはくすぶっていた。
就職活動では、電力会社や鉄道会社に履歴書を出しながら、このままサラリーマンの道を歩むのかと自問していた。
就職説明会で疲れ果て、答えのない未来に押しつぶされそうだったある日、ふらりと立ち寄った書店で『宇宙兄弟』が目に入った。

表紙には、スーツを着たサラリーマンがこちらを見つめている。
モジャモジャの髪に額には絆創膏。そう、南波六太(ムッタ)である。
「人生可変、約束不変」。その帯の言葉に、胸がざわついた。
わたしは本屋に置いてあった1巻から8巻までを衝動的に買い込み、電車の中でページをめくり始めた。
ムッタは、わたしだった。
会社をクビになり、夢を諦めかけた30代の男が、弟の背中を追い、宇宙飛行士を目指す。一度は途切れた夢の道に進む、その不器用な一歩が、わたしの心を強く叩いた。
ムッタがJAXAの宇宙飛行士候補者選抜試験で仲間と笑い合い、失敗しながらも前に進む姿に、胸が熱くなった。
「もう一度、宇宙への道を諦めずにチャレンジしよう」。
その思いで、JAXAへ履歴書を送った。(決して母が勝手に送ったわけではない。)

面接の日、怖い顔のおじさんたちが並ぶ部屋は、まるで「宇宙兄弟」の試験会場そのものだった。「これ、ムッタが受けたやつだ・・・」と心の中でつぶやいた。
そういえば、椅子のネジは、残念ながら緩んでいなかった。
いくつもの偶然が重なり、電気の技術とロケットへの情熱が評価され、わたしは運良くJAXAに入社できた。
ロケット打上げ・ロケット開発の現場は、夢の続きだった。
その一方で、ロケット打上げの準備は、秒刻みのスケジュールと点検や不具合・困難の連続だった。打ち上げ当日の目まぐるしさとと緊張に押しつぶされそうにもなった。

疲れてくじけそうな夜、わたしは「宇宙兄弟」を開いた。
ムッタが月面訓練で「ちょっとだけ無理なことに挑戦してこーぜ」と前を向く姿を思い出すと、胸の奥が温かくなった。彼はどんな苦境でも、最後は前に進んでいた。
わたしも、ムッタの背中を追いかけて、目の前のロケットに向き合った。
仕事で失敗して元気がなくなったとき、困難が立ちはだかり、前に進むのが辛くなったとき、まるで古い友のように「宇宙兄弟」がそばにいてくれた。

そんなある日、なんと、宇宙飛行士候補者選抜試験の案内が発表された。心が躍った。
ムッタに憧れ、わたしも挑戦した。
結果、書類審査で速攻脱落。ムッタのようにはいかなかった。
でも、選抜試験を通じて出会った人たち――「宇宙の話をしよう」と言えば、笑顔で語り合うことができる仲間たちは、まるで星のような輝きを放っていた。ムッタのように、同じ夢を見ることができる仲間ができたことで、わたしの夢はまだ続いていると感じた。

わたしはまだ、自分のロケットで宇宙に行く夢の途中だ。自分が作ったロケットで宇宙へ――その想いは、ムッタの不器用な一歩に支えられている。
あの人とわたしは、星空の下で同じ夢を見ている。いつか、つまずきながらも、ムッタと一緒に宇宙の光に手を伸ばしたい。前へ。あと一歩、前へ。

ほかの受賞作品はこちらから読めます
・日々人賞|心の中にムッタを
・宇宙兄弟賞|スプーンの上の砂糖つぶ
・宇宙兄弟賞|足下の日々と、遠い空の向こう
・宇宙兄弟賞|私とムッタと挫折と夢
・宇宙兄弟賞|六太と私
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