宇宙兄弟賞|私とムッタと挫折と夢【エッセイプロジェクト】 | 『宇宙兄弟』公式サイト

宇宙兄弟賞|私とムッタと挫折と夢【エッセイプロジェクト】

2025.08.26
text by:編集部コルク
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宇宙兄弟はじまりの年を記念して、六太がミラクルカーを退社した5月15日に募集開始した宇宙兄弟エッセイプロジェクト みんなの心のノート

「あの人とわたし」がテーマとなった第1回の入賞作品から、六太賞/日々人賞/宇宙兄弟賞の受賞作品をご紹介していきます!

今回は宇宙兄弟賞受賞作品です。

私とムッタと挫折と夢(40代 近見視力)

私はネイリストだった。
19の頃に就職し、技術も何もないところから始め、ようやく固定のお客さんがつく様になり、ネイリスト検定1級の試験にやっとのことで合格し、これから戦力としてやっていくぞ!と心に決めていたその時、アレルギーになってしまった。

気管支が真っ白だか真っ暗だかなんだかになり、咳やくしゃみや涙やらが止まらなくなった。症状を止める薬をもらうため、病院に駆け込んだが、もらったのはドクターストップだった。

職場の人からは同情の眼差しをもらい、このままではどうしようもないので退職した。22の夏のことだった。

アレルギーが良くなることを待ち望んでいたが、むしろ悪化するばかりで、今まで何ともなかったハウスダストや花粉にも反応するようになり、ネイリスト復帰は絶望的だった。

そんな時に、私は宇宙兄弟に出会った。無職の私にとって、時間だけは十分にあるので宇宙兄弟の話数は時間を忘れるのにちょうど良かった。

1話で無職になるムッタに親近感を覚えたり、弟が夢を叶えて輝く姿を素直に喜べないムッタに、思わず「わかる!」と口走ったりする。

夢中になって読み進めていると、そういえば、私は何でネイリストになったんだっけ、と考えた。

ネイリストになったのは、大学受験を失敗したからだ。滑り止めも全て落ちた。看護系を目指していた。親に勧められていた。

そうだ、その前にアニメが好きで、アニメの仕事がしたいって思ってたんだった。アニメを描く人や、シナリオを書く人。キャラクターに息を吹き込む声優、アニメ全てをリーダーとして完成させるアニメ監督。それら全てに私は憧れていたんだった。

しかし私の地元はアニメを学ぶ機会がなかった。親も私の好きを理解できなかった。だから、まずは親が勧める看護師になってお金を貯めて、その時に挑戦しようと思っていたんだった。

しかし、大学受験はうまくいかず、滑り止めも全て落ちた私は、とりあえず生きていかなくては、とツテを頼ってネイリストになった事を思い出した。いつのまにか、アニメの仕事をしたいと思っていた事すら忘れていた。何で私はこんな大切な事を忘れていたんだろう。

私には夢があったことを思い出した。私にとっての一番の金ピカは、ずっと私の中にあったんだ。しかもずっと昔から。

しかし、この金ピカを探し出したのはいいが、やはり怖い。私は臆病者だ。私が持つ金ピカはとても重たい。そして、その金ピカを重くしているのは、他の誰でもなく私自身であることも自覚している。

私の一つ一つの葛藤が、ムッタとまた重なっていく。金ピカはあるのに、それを触ることが怖くて、目を背けたくて、「あの時は若かったから夢を見ていたんだ」と言って、済ませたくなる。

でもムッタは自分と向き合う覚悟を決めて宇宙を目指した。
私はどうしたいんだ?これから先、同じ様にただ生きてく為の仕事を探して、同じようになんとなく仕事して、同じように生きていくのか?その結果、私に何が残った?たった3年の出来事だけど、終わってみたら虚しくなかったか?

何がしたいかは、とっくに決まっている。なら私も、とっとと自分と向き合うしかない。23の夏、私は慣れ親しんだ地元を離れて上京した。家族も、友達も全て地元に置いてきた。…いや、友達はすでに上京してるのがちらほかいるから全てではないが。

私が東京に来たのは、私の夢を叶えるため。私は絶対に、私の夢を叶える。絶対に、そうなる。アルバイト生活、どんと来い。23歳学生、どんと来い。結婚できない、どんと来い。

夢に生きてて何が悪い。私は私の人生を、誰にも作られていない道を走ってるんだ。ランナーになると決めて、目の前にレースがあるんだったら、走り抜く以外の選択肢はない。私は私の人生のランナーになるんだ。

ムッタ、私もやっとスタートラインに立つ準備を始めているよ。正直怖いよ。でも、ムッタも怖かったよね。なんならムッタは試験の度に怖い思いしてるよね。私はまだ試験とかないし、なんなら一年生の段階で笑っちゃうくらいにビビってる。

そんな私に一歩を踏み出す勇気をくれて本当にありがとう。誰の自慢になるわけでも、誰かのためでもなく、私のために。私のなりたい私に、私はなるって、今決めた。

怖がらない、ってのはまだ難しいけど、でも歩みを止めない。ムッタがムッタの戦いを全うしているように、私は私の戦いを全うしたい。

私の中の金ピカは、もう見失わない。ムッタが宇宙を信じたように、私は私の夢を信じる。怖くても、私は行く。金ピカを手にして、前へ。


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六太賞|つまずきながら、前へ。
日々人賞|心の中にムッタを
宇宙兄弟賞|スプーンの上の砂糖つぶ
宇宙兄弟賞|足下の日々と、遠い空の向こう
宇宙兄弟賞|六太と私

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