【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉3-1】スペシャル対談 ~帰還&宇宙の未来編~(前半) | 『宇宙兄弟』公式サイト

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉3-1】スペシャル対談 ~帰還&宇宙の未来編~(前半)

2017.06.30
text by:編集部コルク
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2016年、国際宇宙ステーションで115日間の長期滞在を終えた宇宙飛行士・大西卓哉さんとのスペシャル対談企画、第3弾! 途中からはなんと、油井亀美也宇宙飛行士も合流し、さらに豪華なメンバーに! 帰還する側・迎える側からのエピソードや、宇宙開発への想いを熱く語っていただきました。

宇宙ステーションでの帰還セレモニー。その時、大西宇宙飛行士は……!?

小山宙哉(以下、小山) ロケット打ち上げから滞在時まで、本当に興味深い話ばかりですが、いよいよ帰還の時のこともお聞きしていきたいと思います。実は先ほど、JAXAの職員の方から、大西さんが宇宙ステーションを離れる際のハプニングについてチラッとお聞きしたんですが。

大西宇宙飛行士(以下、大西) そうなんですか?(笑) 事情を説明しますと、宇宙ステーションを去る時は、たいてい残るクルーたちとハグをして、手を振りながらハッチを閉めるというセレモニーがあるんですね。あの時は確か、8時15分からセレモニーの中継が予定されていたんです。で、私は8時頃にはもうソユーズ宇宙船の中にいて、忘れ物がないかをチェックしていました。背後でケイトやアナトーリがクルーたちとハグしていたのは知っていたんですが、まだ15分もあるから大丈夫だと。アナトーリも普段着のままだったので、着替えにロシア区画に戻ると思っていたし。そうしたら、ケイトとアナトーリが「もう帰るよ」と。私は慌ててアナトーリが普段着なのを指摘したら、アナトーリは「俺、着替えそこに置いてあるもん」と言うんです。焦っている私をよそに、「バイバーイ」とハッチを閉められてしまいました。

8時5分か10分くらいにはハッチが閉まっていたので、いざ中継が始まった時には誰もいないし、ハッチは閉まっているしで地上も「あれ?」と(笑)。

小山 画になる感動シーンのはずなのに(笑)。

大西 さすがに、ハグするためだけにハッチ開けるわけにはいかないですからね。結局、私はクルーとハグも挨拶もまともにできないまま帰還しました。

なぜ彼らがそこまで急いだのかは謎ですけど、「もう準備できているんだから次の作業に行くよ」ということなんだと思います。私は日本人なので、つい時間通りにきっちり進めちゃう(笑)。

小山 JAXAさんとしても、押さえておきたいシーンですしね。宇宙ステーションから離れて大気圏に突入するまでには、どんな段階を踏むんですか?

油井宇宙飛行士(以下、油井) 最初の1周で宇宙ステーションから離れて、次の1周で狙ったポイントに落とすための噴射をするという作業があるので、3時間くらいは軌道上にいますね。

大西 まずは宇宙ステーションからアンドッキングといって離れていく時が最初のポイントで、そのあと軌道を落とすために、メインエンジンを点火して宇宙船の速度を落としていかないといけないんですね。普段は秒速8キロくらいで回っているんですけど、秒速120メートル分くらい減速するだけで軌道が下がって宇宙船は大気圏に突入します。これが次のポイント。

ソユーズは3つの団子が積み重なったような形をしていて、大気圏に突入するのは真ん中の自分たちが乗っているカプセルだけです。

ほかの2つの、メインエンジンなどが乗っている部分は切り離すのですが、火薬でボルトを吹き飛ばして分離する際の音と衝撃が、またすごいんですよ。宇宙船の外を、誰かがハンマーで殴っているような、「ガンガンガン!」という音と共に、ガコンと外れて。直後にフワッとした感覚があるので、自分たちのカプセルだけになった心細さが多少ありました。

1回そこで切り離しちゃうと、何があっても自分たちは落ちていくしかない。もう宇宙にとどまっていられるだけのエネルギーがないですし、エンジン自体も切り離しているので、落ちていく動力しかないという心細さです。

そこからはあとはもう、大気圏に突入です。

空気との摩擦熱で一気にカプセル自体が熱くなって、プラズマというオレンジ色の火花みたいなものが窓の外にブワーッと走り出すんですよ。

すごいことになっているなと思っていると、次の瞬間はもう窓の外側が黒こげになって何も見えなくなって。

あとはもうずっと、加速力が体にかかってくるのを、宇宙船の計器で確認しながらひたすら耐える状態です。私の時は4Gくらいまでいきました。このあとパラシュートを開くんですけど、衝撃がすごいので喋っていると舌を噛むと言われていて。コマンダーが「あと○分」「もうこれから先は喋るな」と、指示を出してくれます。

重力が強くなってくると自分の体がぐいぐい座席に押さえつけられてくるので、それを利用して、座席ベルトをどんどんきつく締めていきました。

パラシュートが開く直前になると、「ヒューヒューヒュー」という風の音が聞こえ始めるんです。カプセル自体は密閉されていて、私たちはヘルメットをして宇宙服に身を包んでいるのに、それでも聞こえる風切り音ってすごいはずなんですよ。それで「本当に空気の厚いところに帰ってきたんだ」と思った瞬間、パラシュートがボーンと開いて。

あとはもう、上下左右わからないくらいの揺れというか回転です。よく例えられるのは、滝をカプセルに乗って落ちていくような感覚。それが何十秒間か続きました。

小山 すごいですね……。

大西 結構、ドラマチックですよ。十分減速すると安定しますが、それまでの30秒くらいですかね。それが収まったら「あ、これは帰れるな」と、安心します。安定してからは1秒間に10メートルくらいで落ちていくだけなので、中は本当にリラックスしています。

小山 パラシュートが開いたあとも、窓の外は焦げたままですか?

大西 それが一度、バコーンと外れるんですよ。窓の一番外の層が外れるので。急にパーッと光が入って明るくなるので嬉しいです。「帰ってきたな!」という感じ。私の時は朝焼けみたいでしたね。

着地の衝撃もすごいですよ。ロシアではジョークで「ソフトランディング」って言うんですけど、全然ソフトじゃないです(笑)。

地上から1メートルくらいで一気に逆噴射で止めるんですが、逆噴射してすぐに接地するので、感覚としては「ゴッ!」という感じ。本当にもう一瞬の衝撃です。

小山 逆噴射をもう少し早くしたらどうなんでしょう。

大西 たぶん、早くするとまた落ち始めるので、あのタイミングしかないんだと思います。最後の一吹きで一瞬だけ緩めて、そのすきに降りるという。原始的ですよ。

小山 車で言ったら急ブレーキですよね。逆噴射のちょい出しみたいな感じでできないんですかね?(笑)

大西 将来的にはそうなるかもしれませんね。でもロシアのすごいところは、そういう昔ながらのやり方を忠実にやっていて。やっぱりそれが一番安全なんでしょう。乗り心地は悪いけれど、命は保証しますよ、みたいな。

 

無重力の宇宙から、重力が支配する地上へ。帰還直後はバランス感覚との戦い!

小山 やはり帰還時の話はドキドキしますね。ちなみに、カプセルを地上のポイントに落とす精度ってどのくらいなんですか。

大西 相当高いですよ。狙った所に行けば、数キロの範囲です。パラシュートで降りている時からすでに周囲にはヘリがいて、高度の情報などをくれるんです。「あと○メートル、衝撃に備えろ」みたいな。

油井 実は、私の時は夜だったので、まったく見つけてもらえなくて。情報がないので数百メートルの頃からかなり身構えていました。着地してからもしばらく見つけてもらえなかったし(笑)。

小山 夜に帰還なんてあるんですか!?

油井 地上側も見つけるのが大変なのでなるべく避けるんですが、帰ってくるタイミングが変更されて夜になってしまったんです。しかも天気も悪かったので、よくあれで降ろしたなと(笑)。私たちは宇宙船の中にいるのでいいんですけど、あとでビデオを見せられて驚きました。

小山 カプセルから引き上げられて、まず何が見えました?

大西 最初に見えたのは、ロシアの「星の街」でずっと一緒にサバイバル訓練などを担当してくれたインストラクターの顔です。上のハッチが開いて、3人がカプセルを上って迎えに来てくれたんですが、そのうちの1人が彼だったので嬉しかったですね。それから1人ずつ助け出されるのに、20分くらいかかった気がします。

気候は、結構寒かったかな……? 興奮していてあまり覚えていないんですよ。寒さはあまり感じなかったですけど、駆け付けてくれた油井宇宙飛行士が分厚いダウンジャケットに、フード付きのコートを着ていましたもんね。

油井 早かったですよね、大西さん。実は私、間に合ってないんですよ。

大西 えっ、でも私がカプセルから降りた時、油井さんの姿がすぐ目に飛び込んできましたよ?

油井 いやもう、すごい勢いで走っていきましたから(笑)。パラシュート展開している時とか見てないし、アナトーリさんが出てきているところに到着して猛ダッシュしたんです。

小山 両側を支えられて帰還する宇宙飛行士を見ていると、重力で相当しんどいんだろうなと思うんですが。

大西 助かりますよね。ただ、筋力が衰えて立っていられないというよりは、自分の重心がどこにあるかわからないという感覚なんです。バランスが取れない。一人で立つと、ちょっとでも傾いたらそのままその方向にバタンと倒れる。

油井 支えてあげれば立てるくらいの筋力はあるんです。ですから私たちも、そんなに力を込めているわけではなく、倒れ掛かってきそうになったら、ちょっとだけ押してあげる。両側からバランスを崩さないように支えている状態です。

まあ、そういう私も自分が帰還した際には、スーツを脱ごうとして体を少し前に傾けたらすごい勢いで倒れて頭を地面にぶつけそうになりました。自分の体を筋肉で支えるという感覚を忘れたんですね。周囲からは焦ってスーツを脱ごうとしているように見えたらしく、「焦るな」と言われましたけど(笑)。

大西 油井さんには、宇宙ステーションにいるあいだからよく電話でアドバイスをしていただいて。「こういうところを気をつけてください」とか「こういうことを考えておくといいですよ」など、とても参考になりました。

帰還した時も、こちらの状態をわかってくれているので、さりげなく周囲へのフォローまでしてくださって。

油井 自分も経験しているぶん、このタイミングで宇宙飛行士がどのくらい会話ができて、どのくらいしんどいかなど理解できますから。

大西 疲れていたのか、帰還直後の記憶は曖昧で、一つひとつの光景をハッキリとは覚えていないんです。とにかく笑おう、笑おうというのだけ気をつけていました。

というのも、私より先に飛んだNASAの同期がいるんですが、彼が言っていたのは、「着陸してカプセルから出たあとの表情を、中継で見ていた人はずっと記憶する。だから、その表情だけは、どんなにつらくても笑顔を忘れるな」というアドバイスくれていて。

もうとにかく、笑顔をキープしようということだけ考えていましたね。

(後半に続く)

構成・文/秋山美津子(SUPER MIX)

 

【プロフィール】
秋山美津子(フリーランス・ライター)
高校時代、自ら天文学部を発足するも、なぜか放送部に吸収合併された経験アリ。『宇宙兄弟』に出会ってからは、ISSの観測を楽しんでいます。自宅のベランダからは、北の空がまったく見えないのが悩みのタネ。
公式HP: http://www.spmx.jp/


大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 スペシャル対談 過去掲載分はこちら☆

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 1-1】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (前半)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 1-2】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (後編)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 2-1】スペシャル対談  ~国際宇宙ステーション滞在編~(前半)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉2−2】スペシャル対談  ~国際宇宙ステーション滞在編~(後半)

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