地球のような星が宇宙に数え切れないほどたくさんあることは分かった。ならば次の仕事は当然、それらの星に生命がいるのかを調べることです。しかし、どう調べればいいのでしょうか。
現在NASA ジェット推進研究所が中心となって検討しているのが、下の構想図に描かれた、巨大なヒマワリのようなヘンテコな人工衛星です。Starshadeと呼ばれるこの物体。これこそが、ケプラー452bのようなはるか遠くにある惑星を直接望遠鏡で見ることを可能にする技術なのです。
そう、ケプラー宇宙望遠鏡は千を越える惑星を発見しましたが、実はそのひとつとして直接「見た」わけではありません。間接的証拠をつかんだだけなのです。どういうことか。ケプラー望遠鏡はただひたすら、恒星の明るさを数年にわたってじっと測り続けています。幸運にも惑星が恒星の手前を横切ったら、一瞬、ほんの少しだけ暗くなります。「遮蔽」という現象なのですが、これが観測されれば、惑星は直接見えなくとも、存在することは分かります。
では、どうして惑星を直接見るのが難しいのか。望遠鏡の性能が悪いからではありません。恒星に比べて惑星が暗すぎるからです。騒々しい男のすぐ隣にいるか細い声の女の子の声はなかなか聞き取れませんよね。同じことです。その子の声を聞くには、うるさい男を黙らせる必要があります。
そこで先ほどのヒマワリが登場します。この直径34メートルもあるヒマワリを、宇宙望遠鏡から数万kmほど離して、ちょうど主星の光を隠すように置きます。そうすれば周りにある暗い惑星が見えるようになるのです!
でもどうしてヒマワリのような形をしているのでしょうか?
たとえば、建物の影に隠れた直接見えない人の声も聞くことができますよね。音が障害物を回り込んで伝わる「回折」という現象があるからです。実は光も回折します。つまり、主星を隠しても、光は回り込んで漏れてきてしまうのです。それでは暗い惑星を見ることはできません。でも、その「漏れ」を減らす方法はあります。形を工夫することです。丸い形は良くありません。回折を最大限に抑える形を研究した結果が、あのヒマワリのような形だったのです。
しかし、遠くの惑星を直接見られるといっても、残念ながら宇宙人が地球に向かってピースしている姿を見られるわけではありません。もう少し気の利く宇宙人ならでっかい人文字でも作ってくれているかもしれませんが、それも残念ながら徒労です。何百光年、何千光年の彼方にあるのですから、見えたとしてもほんの小さな点にしか見えないのです。
しかし、たとえ点にしか見えなくても、生き物がいる間接的証拠を見つけることは可能です。どうするのか。「分光分析」と呼ばれる手法を使います。小学校の理科の時間に、プリズムを使って太陽の光を分解し虹を作る実験をしたことを覚えていませんか?同じように、遠くの惑星の光をプリズムのようなものに入れて虹を作ります。その虹をよく観察すると、歯が欠けたように虹の模様が欠けた場所がところどころにあります。魔法のように聞こえるかもしれませんが、虹の模様のどこが欠けているかを調べることで、宇宙のはるか彼方の星の大気の成分が分かるのです。
探すのは生命の存在の証拠となるようなガスです。そのひとつが、酸素です。地球では大気に酸素があることは当たり前ですが、実はこれ、なかなか当たり前のことではないのです。
たとえば鉄を屋外に放置するとすぐに錆びますし、ゴボウも皮をむいて放っておくとすぐに変色してしまいますよね。大気中の酸素と結びついて酸化するからです。酸素とはすぐに誰かとくっつきたがるプレイボーイのような物質です。プレイボーイはすぐに女の子を引っ掛けてパーティー会場から姿を消すように、酸素も大気中に放っておけば早晩何かの物質と結びついて大気から消えてしまいます。それなのにどうして地球の大気から酸素が消えてしまわないのか。植物が酸素を大気中に供給しつづけているからなのです。
事実、大気中に酸素を含む惑星は、太陽系の中では地球しかありません。
ですから、もしはるか遠くの惑星の大気に酸素が豊富にあることが分かったら、それはとてつもない大発見です。もちろん、そこから生命が存在すると結論付けるには若干の論理の飛躍があります。ですが、酸素を生産し続ける「何か」の仕組みがその星にあることは間違いないでしょう。その「何か」が生物である可能性は十分にあるわけです。
Starshadeは予算がつき順調に計画がすすめば2020年頃には打ち上げることが可能であるとされています。あと10年もしないうちに、大発見がもたらされるかもしれませんね!
(『宇宙人生』【第14回】宇宙人はいるのか《後編》へつづく)
(『宇宙人生』【第12回】宇宙人はいるのか《前編》はこちら)
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コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!
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〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。
2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。
本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。