【金井宣茂宇宙飛行士×小山宙哉】 スペシャル対談・前半 | 『宇宙兄弟』公式サイト

【金井宣茂宇宙飛行士×小山宙哉】 スペシャル対談・前半

2017.12.15
text by:編集部コルク
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油井亀美也宇宙飛行士、大西卓哉宇宙飛行士に続いて、2017年12月に国際宇宙ステーションでの長期滞在が予定されている、金井宣茂宇宙飛行士。海上自衛隊で外科医師・潜水医官として活躍されていた経歴を持つ金井宇宙飛行士は、「健康長寿のヒントは宇宙にある」をテーマに、いよいよ旅立ちます。訓練も佳境の中、貴重なお話を伺ってきました!

海中から宇宙へ! 金井宇宙飛行士のヒストリー

金井宇宙飛行士(以下、金井) いやあ、小山さんと対談なんて緊張しちゃいます。実は、私は六太と同じ時期にJAXAの選抜試験を受けていたので、勝手に六太のことを「同級生」だと思っているんですよ。当時、『宇宙兄弟』は受験生のあいだでも回し読みされていましたから。

小山宙哉(以下、小山) ありがとうございます。以前、大西宇宙飛行士にお話を聞いた際も、『宇宙兄弟』の選抜試験エピソードが話題になっていたとお聞きしました。

金井 そうなんです。「大西さんのイスにも細工されるかもしれませんよ」なんて言っていました(笑)。

小山 みなさんにイスの心配までさせてしまって、いらんこと描いちゃいましたね(笑)。ところで金井さんは先日、ご婚約を発表されたんですよね。おめでとうございます! お相手の女性は、JAXAの方だそうで。

金井 ありがとうございます。宇宙飛行士は何年間も訓練で各地を回っていますので、家族は大変だと思うんです。そんなところに嫁に来てもいいと言ってくれる方は貴重ですので……。

小山 いいですね~。夫婦で同じように宇宙を見ているなんて! 映画のストーリーみたい。金井さんは、子供の頃から宇宙飛行士になりたいと思っていたんですか?

金井 それが、まさか宇宙飛行士になるとは思ってもみませんでした。子供時代の宇宙への思いも、特別強いということはなくて。でも、冒険小説を読むのは好きでしたね。

私が現実的に宇宙飛行士への興味を持ったのは、社会人になってからです。当時、海上自衛隊に医師として勤めていまして、たとえば太平洋にいる船内で患者さんが発生した場合、限られた環境の中でどうやって助けるかをまず判断します。場合によっては、陸地に連絡してヘリで緊急搬送しないといけませんし、遠隔医療で専門の医師から指示を仰ぐといったオペレーションのサポートをしていました。

小山 潜水医官としても勤務されていたんですよね。

金井 はい。資格を取るために潜水の訓練もしましたが、いざ資格を取ってオペレーションのサポートに入ってみると、私は常に船の上でダイバーが潜るのを見送り、待機をしていました。当然ですが、自分が潜ることはできません。それで、せっかく訓練を受けたのだから、宇宙飛行士を目指してみようと。

実際、近い部分があるんですよ。国際宇宙ステーションで患者さんが発生した時に、ミッションコントロールセンターにいる医師と連絡を取り合って、処置をするべきか、ソユーズに乗せて地球に帰すのかを判断したり、火星探査の時に病人が発生したらどうするのかを検証したりするので。やっていることはあまり変わっていなくて、環境が海から宇宙空間になった感覚です。

小山 NEEMO訓練もされたんですよね。船上での待機を経て、「ようやく自分も潜れた!」と(笑)。

金井 そうですね(笑)。面白かったですよ。潜水医官の資格を取る際、米海軍で訓練を受けたのですが、同じ潜水学校を卒業した方がNEEMOのサポートをしてくれまして。潜水の指揮をとるのも、かつてその学校の教官をしていた方だったんです。「何年卒業?」「私は2010年です」「じゃあ4年違いだね」とか、「お前もあの学校いたの? 俺もだよ!」といった同窓会話で盛り上がりました。

小山 海底での訓練は、どんなことをしました?

金井 月や火星の探査を想定した船外活動の模擬ですが、現実の調査も兼ねていて、地元の大学と協力して、海底基地の周囲に生息しているサンゴの生態を調べることもありました。ほかには、火星や月に行った時に、どんなツールを使えばサンプルが採取しやすいかを、実際に作ってくれた道具を使用して、その使いやすさなどを検証します。

あとは、「時間差」ですね。火星となると、地球からの指令を送っても10分くらいのタイムラグがあるんです。わざと地上との交信を10分遅らせるような状況を作って、その中で効率よく作業するにはどうすればいいかといった訓練もあります。

我々が「サンプルを採ったぞ」と報告しても、それが地上に届くのが10分後。さらに、地上からの返事がこちらに届くのに10分。その20分のあいだに次の作業を進めていたら、「そのサンプルは間違いです」という返事が届く。そこでまた別のサンプルを採取して――といった感じです。

どこまで情報を与えればクルーが効率良く仕事できるかなど、レポートをまとめて将来のために研究しています。

小山 確かに、タイムラグのノウハウは大切ですね。何かをして、指示を待っているあいだに別のことをするという訓練。

金井 サンプルを採取するくらいならまだいいですが、ケガ人の発生といった緊急の場合もありますからね。どう行動すればいいのか、ディスカッションを繰り返します。

何度も訓練を行う、宇宙ステーション・三大緊急事態とは?

小山 金井さんが、宇宙飛行士としてワクワクする瞬間ってどんな時ですか?

金井 訓練はわりと厳しくて、どんな事態にも対処できるよう、あえてあらゆる不具合を入れられるので、なかなかうまくいかないことが多いんです。でも、何度も繰り返していると、チームの中でお互いのやり方がわかってきて、緊急事態の対処がスムーズにできる時があります。そうするともう、「やったぜ! 今日は良かったな!」というムードになって、それが楽しい瞬間ですね。1人よりは、チームで行う訓練のほうが手ごたえを感じます。

小山 緊急事態の訓練も、色々なパターンがありそうですね。

金井 宇宙ステーションでの火災と、どこかに穴が開いて気圧が下がってしまう減圧、冷却用のアンモニア漏れが、三大緊急事態とされています。

小山 アンモニアは危ないと聞きました。

金井 危ないですね、アンモニアは劇物なので。宇宙ステーションの外には冷却用のアンモニアが大量にためられていますから、ステーションの中に漏れているということは、どこかに穴があるということ。そこからずっと漏れていけば、人が住めなくなります。臭いがした時にはもう遅いので、アンモニア検知のアラームが鳴った時に、避難の手順を考えずとも体が自然と動くようになるまで何回も訓練を行います。

火災の場合は、宇宙ステーションが自動で空気を遮断してくれるので、落ち着いて自分の身の安全を確保して待っていれば、火災はいずれ収まってくれます。でもアンモニアは、積極的に逃げてシャッター閉めないとダメなんです。そういう意味で、焦り度が違いますね。

小山 逃げてシャッターを閉めて、隔離状態になるんですか?

金井 はい。冷却用のアンモニアを使用しているのはアメリカ側のモジュールなので、アンモニアのランプが点いたら、みんなで一斉にロシア側に逃げて、アメリカ側のハッチを閉めるんです。

このような事態では、宇宙船のソユーズが緊急避難ボートになるので、お互いのソユーズに集まって、ロシア側がどのくらいアンモニアで汚染されているのかもチェックします。あまりにも汚染されているようならばソユーズで離脱しますし、そうでない場合は、ロシア側で空気が綺麗になるのを待つ。

小山 アメリカ側のシャッターを閉めてしまうと、日本の『きぼう』にも行けないのでは?

金井 行けないですね、残念ながら。だから私たちはもう、ボーッとするしかない。ロシアモジュールにあるおやつを盗み食いしながら、彼らが仕事しているのを「頑張れ~」と応援するしかありません(笑)。

小山 映画だと、誰かが逃げ遅れて助けに行くという展開がありがちですが。

金井 現実でそうなったら最悪です。絶対に誰も残してはいけないですから、必ず全員が避難しているかを確認してからシャッターを閉めるという手順になっています。訓練では、まだチームワークが悪い時にミスもあるかもしれませんが、実際にはあってはならないことですからね。

小山 金井さんの同期である油井さんと大西さんから、宇宙ステーション滞在の経験談やアドバイスはもらっています?

金井 もうしょっちゅうです。私がバックアップクルーとして初めて打ち上げに立ち会うことになった時、大西さんがメールをくれて、どんなイベントがあるかや、用意しておいたほうがいいスピーチなどを教えてくれました。メディア対応する場合、ロシア語で考えておいたほうがいいこともあるので。

今は筑波にいるので、3人でご飯を食べに行ったりするんですけど、宇宙からピラミッドを撮る時のコツなんかも聞きましたよ。肉眼だと見つけづらいので、目印になる地形で判断するといいですとか、写真は無理にマニュアルモードで撮ろうとしないで、オートのほうが結果的にいい写真が撮れます、とか。常に、何かしらの情報をもらっています。

宇宙ステーションからの写真は、私も期待されているので頑張らねばと思っているんですが、テクニックと経験が必要みたいで。今のうちになるべく練習しておこうと思っています。

小山 写真はキューポラから撮るんですか?

金井 キューポラからも撮りますし、『きぼう』には窓があるので。今は曝露部が付いちゃっているので、なかなか見えないんですけれども。「きぼう」を作ったエンジニアの話によると、当時、NASAからは「なぜ窓が必要なのか?」と言われていたみたいで。でも「宇宙ステーションに窓がなくてどうするんだ!」と、JAXAのエンジニアのこだわりで実現したそうです。なので、なおさら写真をたくさん撮りたいんです(笑)。

(後編に続く)


<大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 スペシャル対談はこちら☆>

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 1-1】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (前半)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 1-2】スペシャル対談ー宇宙への旅立ち編ー (後編)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉 2-1】スペシャル対談  ~国際宇宙ステーション滞在編~(前半)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉2−2】スペシャル対談  ~国際宇宙ステーション滞在編~(後半)

【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉3-1】スペシャル対談  ~帰還&宇宙の未来編~(前半)

・【大西卓哉宇宙飛行士×小山宙哉3−2】スペシャル対談  ~帰還&宇宙の未来編~(後半)

<他のインタビュー記事はこちらから☆>

『宇宙兄弟』特別企画 「六太、新人宇宙飛行士 油井 亀美也に会いにいく。」(2009年掲載記事)

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