では、エウロパ・ランダーの次は何か? まだ具体的な計画はない。しかし、おそらく誰もが抱くのは、かつて少年ジュール・ベルヌが抱いたのと同じ憧れではなかろうか。
「海を見たい。」
地球の海ではなく、エウロパやエンケラドスの海を。
何らかの方法で厚さ数十キロの分厚い氷を通過し、その下にある広大な海に行ってみたい。そこにはどんな世界が広がっているのか? どんな生態系があるだろうか?
(Credit: NASA/JPL-Caltech/Jessie Kawata)
(Credit: NASA/JPL-Caltech)
最大の技術的課題はもちろん、どうやって氷の下の海に到達するかである。三つのアイデアがある。
一つ目は、氷を溶かして穴をあける方法だ。クリョボット(cryobot)と呼ばれる。一番単純な方法だが、大量の熱(つまりエネルギー)が必要であることが問題だ。 また、数十㎞の氷を貫通するためには数年の時間を要するだろう。
二つ目は回転式のノコギリで氷を削るアイデアである。溶かすよりはましだが、やはり多量のエネルギーを要するのがネックだ。
三つ目のアイデアは、既にある穴を使うアイデアだ。前章で書いたように、エンケラドスには蒸気噴出口がある。エウロパにも同様の噴出口がある可能性がある。ならばそれを利用すればいいのではないか? そんななんとも安直な発想から生まれたのが、僕が2016年に研究したイヴ(EVE, Enceladus Vent Explorer )というコンセプトである。 使うのは猿のような形の小型ロボットで、手足の先端には「アイス・スクリュー」という、登山家が氷壁を登るのに使うというネジ型の器具が付いている。これを使い、アイスクライマーのように噴出口の壁を降りていく。
もしエウロパやエンケラドスに生命がいたら、それはどんな生命だろうか? もっとも可能性が高いのは、バクテリアや単細胞生物のような単純な生命だろう。だが、もし高等生物がいたら……つまり、タコや魚やクジラのような複雑な生命がいたら、どのような形をしているだろうか?
きっと目はないだろう。光が全く届かないからだ。イルカや潜水艦のようにソナーが目の代わりになっているだろう。食物連鎖の底辺は、太陽エネルギーを利用する植物ではなく、化学エネルギーを求めて熱水噴出孔に集まる微生物だろう。それらは酸素ではなく、硫化水素などを利用してエネルギーを得ているだろう。
可能性は低いが、もし仮に海の底に知的生命が文明を築いていたら? 彼らは光を知らない人類が科学によって電波を「発見」したように、彼らは科学の発達の過程で光を「発見」するだろう。彼らは太陽も木星も土星も、もちろん地球も知らない。空に輝く満天の星も知らない。「空」という概念すらない。はじめて分厚い氷の外に出た勇敢な冒険者が、「光検出機」を頭上に向け、そこに広がる世界を知り驚嘆するだろう。やがて天文学が生まれる。彼らの天文学者は、太陽系の内側から三つ目の惑星が他とはだいぶ違うことに気づくだろうか? 氷に覆われていない海があることを知り驚くだろうか? 彼らは地球からの来訪者を快く迎えてくれるだろうか? それとも遠い未来……あるいはもしかしたら遠い過去に、地球を訪れる(た)ことがあるのだろうか?