宇宙兄弟賞|スプーンの上の砂糖つぶ【エッセイプロジェクト】 | 『宇宙兄弟』公式サイト

宇宙兄弟賞|スプーンの上の砂糖つぶ【エッセイプロジェクト】

2025.08.26
text by:編集部コルク
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宇宙兄弟はじまりの年を記念して、六太がミラクルカーを退社した5月15日に募集開始した宇宙兄弟エッセイプロジェクト みんなの心のノート

「あの人とわたし」がテーマとなった第1回の入賞作品から、六太賞/日々人賞/宇宙兄弟賞の受賞作品をご紹介していきます!

今回は宇宙兄弟賞受賞作品です。

スプーンの上の砂糖つぶ(50代 小島章子)

私は理科の教員です。星が好きで、星空案内をすることもあります。
晴れていて星が見えてさえいれば、それだけで素敵な時間を過ごすことができますが、雨天・曇天の時は室内で、星にまつわる話などをします。

ベテランの先輩方は、ご自身で撮られた星の写真や、詳しい星空のお話などで場を盛り上げていますが、私にはそんな面白いネタがありません。

悩んでいる時に、JAXAがヒューストンで開催される「宇宙を教育に利用するワークショップ」へ派遣する教員を募集している、ということを知りました。
宇宙に関する授業案をヒューストンで発表するものです。会場はスペースセンター・ヒューストンで、NASAの施設の見学も含みます。

「これは行くしかない!」

NASAの施設に行き、写真をたくさん撮ってくれば、私にも魅力的な「雨天・曇天時のネタ」ができるかもしれません。絶対に行こう!心に決めました。

でも、過去に派遣された方々の発表テーマを調べてみると、とても魅力的かつ専門的なものに見えて、私には到底、太刀打ちできそうもないように思えました。とりあえず「月」に関する授業案で応募してみましたが、ボツでした。

ムッタがシャロンの家で、コーヒーに砂糖を入れながら「俺程度の人間は、振るい落とされる」と言いながら、スプーンの上に残った2つぶの砂糖を見つめるシーンを思い出しました。ムッタの気持ちがよく分かります。私程度の人間は、振るい落とされる。スプーンの上には、残ることができない。

次の年も応募してみようと思いましたが、いい授業案が思い浮かびません。宇宙に関する授業か。。。宇宙といえば、私は雅楽をやっていて、常々「雅楽は宇宙だ」と思っていました。雅楽をテーマにしてもいいのかな?ヘンかな?と迷っているうちに、締切が迫ってきたので「とりあえず今年は、雅楽で出してみよう。また来年考えよう。」と、雅楽をテーマとしたもので応募しました。

当時、私は勤務校で、自分の教室にずっといることが多く、職員室にいることがほとんどありませんでした。ある日、本当に珍しく職員室にいた時に、職員室の電話が鳴りました。「JAXAからの電話だったらいいのに」と思っていたら、受話器をとった同僚が「小島先生、宇宙なんちゃらから、お電話です」と、私を呼びました!出てみると、JAXAからでした。

「候補に残っています。つきましては、いくつか質問させてください。」という電話でした。

候補に残っている??ドキドキ緊張する気持ちを抑えながら、落ち着こう、落ち着こうと意識して、質問に答えました。「候補に残っている」ということは、まだ決定ではないのでしょう。

でも電話を切る時に「ぜひ、ヒューストンに行っていただきたいです」という言葉を聞きました。これって、決まったってことなんだろうか??よく分からないけれど、公園で合格を知らせる星加さんとムッタが握手をしている下を、三輪車の子供が通り過ぎるシーンが脳裏をよぎりました。

その日、それ以降は、廊下を歩いていてもフワフワしている感じ。廊下も右側通行だけれど、堂々と真ん中を歩きたいほどの気持ちでした。テンションが上がらないように退勤時刻まで仕事をして、帰宅する車に乗り込んだ途端に「うぉおおおおお!」と、自然と拳を突き上げて車の中で叫んでしまいました。

スプーンの上の、2つぶほどに、残ることができた!

それからは忙しくなり、JAXAに2回、事前の打ち合わせにいったり、授業案を練り上げたり、英語での発表を練習したりと、充実した時間を過ごしました。

そして、憧れのヒューストンへ!

ムッタが草刈機で走った「月面」を確認し、訓練したNBLを見学し、テキサス・ロードハウスでステーキも食べました。夢のような滞在でした。

様々な国の教育関係の方と知り合いになり、交流は今でも続き、お互いに情報交換もしています。

私はこの経験をへてから、教員の仕事が、それまでの400倍ぐらいに楽しくなりました。一緒にスプーンの上に残った、もうひと粒の砂糖の「同志」とも、それはそれは親しい友人になりました。再会できる機会があったのに、コロナで流れてしまいましたが、近い将来、石垣島に住む彼女と再会して、この楽しかったヒューストンの思い出を語り合いたいと思っています。


ほかの受賞作品はこちらから読めます

六太賞|つまずきながら、前へ。
日々人賞|心の中にムッタを
宇宙兄弟賞|足下の日々と、遠い空の向こう
宇宙兄弟賞|私とムッタと挫折と夢
宇宙兄弟賞|六太と私

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