六太賞|「悩むなら、なってから悩みなさい」【エッセイプロジェクト】 | 『宇宙兄弟』公式サイト

六太賞|「悩むなら、なってから悩みなさい」【エッセイプロジェクト】

2025.11.05
text by:編集部コルク
アイコン:X アイコン:Facebook

宇宙兄弟はじまりの年を記念して、六太がミラクルカーを退社した5月15日に募集開始した宇宙兄弟エッセイプロジェクト みんなの心のノート

「心のノートにメモった言葉」がテーマとなった第2回の入賞作品から、六太賞/日々人賞/宇宙兄弟賞の受賞作品をご紹介していきます!

今回は六太賞受賞作品です。

「悩むなら、なってから悩みなさい」(20代 NAPO)

私は公認心理師になるために大学院へ進学した。
学びたい教授を求めて選んだのは、地方にある大学院。車がなければ、スーパーに行くにも渡し船を使わなければならないような場所だ。

授業や実習、ケースカンファレンスに追われ、アルバイトをする時間もなく、ただひたすら勉強を続ける毎日。

一方で、仲の良い友人たちは就職し、社会人生活に慣れ、自由に使えるお金も時間も手にしていた。SNSから流れてくる楽しげな姿を見ていると、彼らが輝いて見えた。

私は遅れている。お金も時間もなく、心の余裕すらない。友人たちがどんどん先を歩んでいく中、私だけが取り残されているように感じていた。

――私は、まだ何者でもない。

宇宙飛行士として輝く弟を思いながら過ごすムッタも、こんな気持ちを抱いていたのだろうか。

大学院を修了しても、国家試験に合格しなければ心理師にはなれない。実習で自分の無力さを痛感したとき、模擬試験で不合格点を取ったとき、大きな不安に押しつぶされそうだった。

「やっぱり私には無理かもしれない」「この仕事に向いていないのかもしれない」

心理師になれる保証はどこにもない。たとえなれたとしても、やっていけるかどうか分からない。私の敵はいつも私。自信のなさと、大きな壁から逃げたい弱さに揺さぶられ、立ち止まってしまう日々。

そんなある日、実家に帰省した際に3歳年上の兄にぽろりと弱音を漏らした。すると兄は、大切にしていた『宇宙兄弟』の漫画を全て私に譲ってくれた。小学生の頃、兄がお小遣いで買い、「宇宙兄妹!」と肩を組みながら一緒に読んでいた、あの思い出の漫画だ。

「なんで急にくれるの?」と戸惑いながらも、改めて第1巻から読み返した。

そして第3巻。3ページめくったところで、自然と手が止まった。

そこにあったのは、シャロンおばちゃんの言葉だった。(※私はムッタに性格が似ているので、感情移入して読み進め、シャロン博士を“シャロンおばちゃん”と心の中で呼ばせていただいている)

――「悩むなら、なってから悩みなさい」

そうだ。心理師として働いてみなければ分からないことがある。なってみなければ見えない世界がある。悩むのはなってから。

小学生の頃にも目にしていたはずのこの言葉。けれど今になって、その言葉が鋭く胸に突き刺さった。

「悩むなら、なってから悩みなさい」

あの日、あのタイミングで兄が大切にしていた漫画を私に託してくれたのは――

「心のノートにメモっとけ」

そう伝えたかったからなのかもしれない。


兄とシャロンおばちゃんに背中を押され、私はもう一度前に進むことができた。

そして今、私は公認心理師として働いている。

あの日の言葉を、心のノートに刻んだまま。


ほかの受賞作品はこちらから読めます
日々人賞|ひとりきりで見つけたもの
宇宙兄弟賞|宇宙に咲く花

ただいま第3回の募集中!テーマは「約束」
「大切な人と交わした約束」「果たせなかった約束」「自分との約束」など…………あなたの中の「約束」の話を教えてください。

締め切りは12月16日。みなさまからのご応募をお待ちしております!
特設サイトはこちらから