宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

「ジョン、ありがとう」/『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載24

「ジョン、ありがとう」/『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載24

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕さんがひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕さんの書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。

書籍の特設ページはこちら!

忘れてはならないことがある。アポロの歴史的偉業の裏には、月を歩いた12人の宇宙飛行士やケネディー大統領だけではなく、無名の40万人のヒーローがいたことを。40万人に40万の戦いがあった。その一つ一つが常識との戦いであり、不可能への挑戦だった。

そしてそれは現代でも同じだ。あらゆるイノベーションや大プロジェクトの裏には、有名なCEOや裕福な投資家や演説の上手な政治家だけではなく、数多くの無名の技術者、科学者、秘書や事務員や運転手や清掃員や作業員がいるのだ。スティーブ・ジョブズがメディアカンファレンスで行った華々しいプレゼンテーションではなく、日々技術者が向かう散らかった机こそが、未来が生まれる現場なのである。

マーガレット・ハミルトンはアポロ11号の月着陸の瞬間をMITの会議室で見届けていた。アポロ誘導コンピューターを開発した大勢のMITの技術者や、彼らを支えた秘書や事務員も一緒だっただろう。コア・ロープ・メモリを一針一針縫った女工さんたちはどこで見ていたのだろうか。「人類を月に送るのを手伝っているのです」と大統領に胸を張って答えた清掃員はどこで見ていたのだろうか。

NASAやMITの職員だけではない。税金でアポロを支えた市民たちも当事者だった。テレビの生中継を興奮しながら見届けた世界の二億人の人たち全てが当事者だった。30億人の人類全てが当事者だった。

アームストロングとオルドリンは、いわば三十億人のアバターだった。月に降り立ったのは二人の人間ではない。人類だったのである。

ジョン・ハウボルトは月着陸の瞬間をヒューストンのVIP室で見ていた。部屋は歓喜に沸いていた。VIPたちがなりふり構わず飛び上がり、手を叩き、叫び、涙して喜んでいた。この無名の技術者が頑固に月軌道ランデブー・モードを押し通さなければ、1960年代の月着陸は不可能だっただろう。しかし、それを知っているVIPは、果たして部屋の中にいただろうか? そもそもハウボルトの名すら、知っている人はいたのだろうか?

一人、いた。

フォン・ブラウンだった。

フォン・ブラウンがどうしてハウボルトを知ったのかはわからない。彼は巨大なエゴの持ち主だったが、ドイツ貴族の生まれのためか、礼儀や義理を重んじる人でもあった。そしてハウボルトは間違いなくフォン・ブラウンの幼少からの夢を叶えた恩人だった。

イーグルが着陸した後、ハウボルトの前に座っていたフォン・ブラウンは振り返り、一言こう言った。

「ジョン、ありがとう。」

(つづく)

 

<以前の特別連載はこちら>


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【第5回】〈一千億分の八〉なぜロケットは飛ぶのか?〜宇宙工学最初のブレイクスルーとは
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【第12回】〈一千億分の八〉アポロを月に導いた数式
【第13回】〈一千億分の八〉アポロ11号の危機を救った女性プログラマー、マーガレット・ハミルトン
【第14回】〈一千億分の八〉月探査全史〜神話から月面都市まで
【第15回】〈一千億分の八〉人類の火星観を覆したのは一枚の「ぬり絵」だった
【第16回】〈一千億分の八〉火星の生命を探せ!人類の存在理由を求める旅
【第17回】〈一千億分の八〉火星ローバーと僕〜赤い大地の夢の轍
【第18回】〈一千億分の八〉火星植民に潜む生物汚染のリスク

〈著者プロフィール〉

小野雅裕(おの まさひろ)

NASA の中核研究機関であるJPL(Jet Propulsion Laboratory=ジェット推進研究所)で、火星探査ロボットの開発をリードしている気鋭の日本人。1982 年大阪生まれ、東京育ち。2005 年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、同年9 月よりマサチューセッツ工科大学(MIT) に留学。2012 年に同航空宇宙工学科博士課程および技術政策プログラム修士課程修了。2012 年4 月より2013 年3 月まで、慶応義塾大学理工学部の助教として、学生を指導する傍ら、航空宇宙とスマートグリッドの制御を研究。2013 年5 月よりアメリカ航空宇宙局 (NASA) ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)で勤務。2016年よりミーちゃんのパパ。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。現在は2020 年打ち上げ予定のNASA 火星探査計画『マーズ2020 ローバー』の自動運転ソフトウェアの開発に携わる他、将来の探査機の自律化に向けた様々な研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。