宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

不知為不知、是知也/『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載41

不知為不知、是知也/『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載41

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕さんがひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕さんの書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。

書籍の特設ページはこちら!

マリナー、ボイジャー、カッシーニなどの探査機が幾度も人類の宇宙観を塗り替えてきた過程を振り返るにつけ、あることを実感せざるを得ない。

人類はまだ、いかにわずかしか知らないか、である。

科学者が信じる数々の仮説も、SF小説家が想像する宇宙像も、学生が使う教科書も、これから何度も塗り替えられていくことだろう。21世紀の我々が金星人を描いたSFを古臭く感じるように、未来の人類は21世紀人類の宇宙観をナイーブだったと振り返るだろう。その未来人すらも、さらに未来の人から見れば、何も知らない赤子に思えるだろう。宇宙は果てしなく広い。それに比べて人類は限りなく小さい。たしかに人類は太陽系の八つの惑星全てに探査機を送り込んだ。しかし、銀河系にある惑星の数は約一千億と言われている。人類はまだ、その一千億分の八しか知らないのだ。

無知の自覚は自らを貶することではない。むしろその逆だ。「知らざるを知らずと為す是知るなり」と論語にある。無知の自覚は無知の克服の出発点である。

ガリレオは古来のキリスト教的宇宙観を否定する地動説を唱えたため裁判にかけられた。それに対し、アインシュタインは古典物理学を否定する光量子仮説を唱えたためノーベル賞が与えられた。これは単に時代の違いではない。ガリレオの宗教裁判の如き進歩の拒絶は現代でも多くみられる。違いは、知識への態度である。既存の知識への信仰と、既存の知識の不完全性の自覚との違いである。自分はまだ何も知らない。自分は間違っているかもしれない。この謙虚な自覚こそが科学の本質だ。そしてそれこそが進歩の原動力だ。

だが、無知の自覚は簡単ではない。深海の全てを知ったシーラカンスが世界の全てを知っていると思い込んでも、何の不思議があろう。そんなシーラカンスのような人が、皆さんの周りにもいないだろうか? もっとも、おおよそ人は多かれ少なかれ、実際に知る以上に自分は知っていると思い込むものである。理由は単純だ。何を知らないかを前もって知ることはできないからだ。たとえば、近代まで人類は天王星と海王星を知らなかった。ソクラテスは自分が天王星と海王星を知らないことを知ることができただろうか? ベートーベンは自分がロックンロールを知らないことを知ることができただろうか?

知らないことを知る。この自己矛盾的な認識を可能にする不思議な能力が、人には備わっている。

イマジネーションだ。

たとえ天王星や海王星の存在を知らなくても「宇宙にはまだ未知の世界があるかもしれない」と想像することができる。たとえエレキギターを知らなくても「まだ誰も聞いたことのない音があるかもしれない」と想像することができる。たとえ地球外生命に出会ったことがなくても「そこに何かいるかもしれない」と想像することができる。科学も技術も芸術も、人類の創造的な活動の源泉は全て、イマジネーションなのである。

未知の一千億分の九百九十九億九千九百九十九万九千九百九十二を目指し、人類の旅は続く。何万年、何億年とかかるだろう。そこに何かいるのか。そこに何がいるのか。科学者の仮説も、人類の宇宙観も、片思いの若者の心のように右へ、左へと揺れ続けるだろう。その過程は永遠に終わることはないが、人類の知識は少しずつ真実へ漸近していくだろう。我々がイマジネーションの火を絶やさない限り。

(つづく)

 

<以前の特別連載はこちら>


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【第15回】〈一千億分の八〉人類の火星観を覆したのは一枚の「ぬり絵」だった
【第16回】〈一千億分の八〉火星の生命を探せ!人類の存在理由を求める旅
【第17回】〈一千億分の八〉火星ローバーと僕〜赤い大地の夢の轍
【第18回】〈一千億分の八〉火星植民に潜む生物汚染のリスク

〈著者プロフィール〉

小野雅裕(おの まさひろ)

NASA の中核研究機関であるJPL(Jet Propulsion Laboratory=ジェット推進研究所)で、火星探査ロボットの開発をリードしている気鋭の日本人。1982 年大阪生まれ、東京育ち。2005 年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、同年9 月よりマサチューセッツ工科大学(MIT) に留学。2012 年に同航空宇宙工学科博士課程および技術政策プログラム修士課程修了。2012 年4 月より2013 年3 月まで、慶応義塾大学理工学部の助教として、学生を指導する傍ら、航空宇宙とスマートグリッドの制御を研究。2013 年5 月よりアメリカ航空宇宙局 (NASA) ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)で勤務。2016年よりミーちゃんのパパ。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。現在は2020 年打ち上げ予定のNASA 火星探査計画『マーズ2020 ローバー』の自動運転ソフトウェアの開発に携わる他、将来の探査機の自律化に向けた様々な研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。