宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

系外惑星探査の夜明け/『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載58

系外惑星探査の夜明け/『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載58

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕さんがひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕さんの書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。

書籍の特設ページはこちら!

事はシャワーから始まった。1983年、カリフォルニア州パサデナにあるカーネギー研究所に、ジェフ・マーシーという名のうだつの上がらない28歳のポスドクがいた。彼の研究は大御所の天文学者にこき下ろされ、精神的に消耗し、キャリアの方向性は見えず、モチベーションを失いつつあった。

ある朝、彼は鬱々とした気分でシャワーを浴びながら考えていた。こんなんでは続かない。自分が楽しめる研究……何か自分にとって意味のある研究をしなくては……じゃあ、俺がやりたい事は何なんだ……?

答えはすでに彼の心の底にあった。

「星々に惑星があるのかを知りたい。」

当時、それは世界のいかなる天文学者も真面目に研究したことのない問いだった。そんな研究がうまくいくとは思えない。でも、今の研究を続けてもどのみち失敗だ。ならば自分の情熱が湧くことをとことんやって、盛大に失敗してやろう。

シャワーから上がった時、彼の心は決まっていた。

その後、マーシーはサンフランシスコ州立大学の教授となる。ここである出会いに恵まれる。ポール・バトラーという名の大学院生だ。二人は元々は教授と学生という間柄だったが、その後およそ二十年にわたりパートナーとして数々の発見を共に為し、系外惑星探査の黄金期を築くこととなる。

革命とは往々にして出会いから生まれるものだ。たとえば三国志の劉備と関羽・張飛。たとえばビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニー。たとえばアップルのスティーブ・ジョブズとウォズニアック。マーシーとバトラーの関係は、アップル創業者のスティーブ・ジョブズとウォズニアックのそれと似ているかもしれない。マーシーは天文学の網羅的知識があり、話術に長け、カリスマ性を備えていた。一方、技術者肌のバトラーは、系外惑星の発見に必要な検出技術の開発に大きな貢献をした。

いかにして何十光年彼方の惑星を見つけるか。どんなに優れた望遠鏡を使っても、 中心の星に対して惑星は暗すぎるので見ることができない。そこでマーシーとバトラーは「RV法」(または「ドップラー偏移法」)と呼ばれる方法を用いた。星の「ふらつき」を使って惑星を検出する方法だ。


〈図7〉RV法による系外惑星の検出

一般的には地球は動かぬ太陽のまわりを回っていると思われているが、厳密には正しくない。実際は、太陽も地球に振り回されてわずかにふらついている。

ただ、太陽が地球よりも途方もなく重いため、ほとんど太陽が止まっているように見えるのである。ふらつきの速度はたったの時速0.3㎞でしかない。地球の300倍の質量のある木星はもっと大きく太陽を振り回しているが、それでも時速45㎞ほどである。このわずかなふらつきを直接見ることは不可能だが、図7のように光のドップラー効を精密に測定すれば検出することができるそれが惑星存在の証拠となる。

マーシーとバトラーはRV法で太陽の近くの星をしらみ潰しに探した。しかし何年経っても系外惑星は見つからなかった。彼らには焦りがあった。競争相手がいたからだ。スイスのマイケル・メイヤーとディディエ・ケロスも、独自に改良したRV法を用い、「世界初」の栄誉を我がものにせんと夜空に望遠鏡を向けていた。

 

(つづく)

 

<以前の特別連載はこちら>


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〈著者プロフィール〉

小野雅裕(おの まさひろ)

NASA の中核研究機関であるJPL(Jet Propulsion Laboratory=ジェット推進研究所)で、火星探査ロボットの開発をリードしている気鋭の日本人。1982 年大阪生まれ、東京育ち。2005 年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、同年9 月よりマサチューセッツ工科大学(MIT) に留学。2012 年に同航空宇宙工学科博士課程および技術政策プログラム修士課程修了。2012 年4 月より2013 年3 月まで、慶応義塾大学理工学部の助教として、学生を指導する傍ら、航空宇宙とスマートグリッドの制御を研究。2013 年5 月よりアメリカ航空宇宙局 (NASA) ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)で勤務。2016年よりミーちゃんのパパ。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。現在は2020 年打ち上げ予定のNASA 火星探査計画『マーズ2020 ローバー』の自動運転ソフトウェアの開発に携わる他、将来の探査機の自律化に向けた様々な研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。