伊藤ゴロー「語られる芸術家と語られない芸術家」宇宙兄弟

芸術家は2つに分けられる。自分の作品を語る人と、語らない人だ。

2015.11.15
text by:編集部コルク
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ALMA MUSIC BOXと宇宙兄弟のコラボレーション・ムービー。いよいよ最後の1作をご紹介します。

ラストを飾るに相応しいのは……やっぱり、このシーン。

宇宙に行くことを約束して、時間差ながらもそれを果たした、南波兄弟の物語。『宇宙兄弟』のダイジェスト・ムービーといっても過言ではないくらいに、重要なシーンがこの3分35秒に収録されています。

いかがでしょうか……?

まるで、短編映画を観終わったような感覚。涙腺に響きます。

この穏やかな音楽を作ったのは、伊藤ゴローさん。世界の名だたる音楽家たちがその才能を絶賛し、「コードの魔術師」とまでも呼ばれる作曲家です。

でもインタビューを開始すると……ピンチ。芸術家は「語る芸術家」と「語らない(語れない)芸術家」に大きく二分されると思うのですが、伊藤さんの場合は圧倒的に後者。コードの魔術師を前に、インタビュアーの私が大苦戦している様子をそのまま、お届けします…(汗)。

■「いい曲できたな」と思っても、忘れちゃうんです

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ーー今回は「死にゆく星」をテーマにした楽曲ということで、何か伊藤さんの中でイメージされたものはあるんでしょうか?

伊藤:発想のもとになったものは……うーん、あったと思うんですけど…忘れちゃいました

ーーえっ。

伊藤:今回に限らず……僕は忘れっぽいんですかね。いつも「このメロディーいいな」「おっ、いい曲できたな」と思っても、その曲をまるっと忘れちゃうんですよね…。

「悲しい気分の曲だった気がするから、悲しい景色をみるともう1回、出来るかな?」と思って夕日なんかを眺めてみても……出てこないし……

ーーでも伊藤さんはこれまでに、たくさんの曲を作られていますよ。

伊藤:そうなんですけどね。どういう風にして曲を思いつくのか、とか、インスピレーションが湧くのかは、今でもわからないんです。本当に。

ーー長年の積み重ねがあって、職人技のようになるのでしょうか?

伊藤:どうでしょう…昔より今のほうが、音楽には詳しくなりましたけど。でも、音楽のことを知らずにやってても、知識があっても、出来上がりはあまり変わらないと思うんですよね。

だから最近は10代の頃に録音したものを、あらためて使ったりして……「あ、僕は基本的にはなにも、変わってないなぁ」と思っちゃう。もっと成長していくもんだと思っていたんですけどね。そうでもないみたい。

■宇宙も、海も、未知なる暗闇はすこし怖い

ーー(話題を変えて)今回の曲は、どこで制作されたのでしょう?

伊藤:そうですね。青森に帰って……あ、実家が青森市なんです。年に3、4回は帰省してるくらい、好きな町なんですよ。なんにもないんですけどね。

でも県立美術館が家の近くにあって、子どもの頃からそのあたりを探検してたんですよね。いいところですよ。

ーー青森で制作されたんですね!

伊藤:うんうん、そうです。いや、でも作曲をはじめる前に、三鷹の国立天文台を見学させてもらったんですよね。そこで感じたことが、基本になっているかなぁ。天文学者の平松さんに色々教えていただいたんですけどね。やっぱり、宇宙のことを考えるのは、ちょっと怖いなぁ…って。

ーー怖いのですか?

伊藤:はい。宇宙も、深海も、自分の手の届かない暗闇は、とても孤独な感じがします。子どもの頃から、宇宙や深海のことを考えるのは好きなのに、とても怖かった。

そして僕、水が得意じゃないんですよね。宇宙兄弟の中で、日々人君がパニック障害になっていたけど、僕も水に少しトラウマがあって……。

でも、宇宙も、海も、怖がるところじゃあないんですよね。静かな闇は、ぼくらが生まれた場所だから。青森に引きこもって作曲しながら、なんとなく、そんなことを考えていたような気がするなぁ。

ー ー

『sea ice』と名付けられたその楽曲。海のさざ波やカモメの声、そして後半部分で現れるオルゴールの旋律との絡まりは実に美しくて切なくて、それを「解説してください!」と挑んだ自分が少し恥ずかしくなってしまったくらい。

人は何か偉業を成し遂げたとき「語る人」と「語らない人」に分けられる。ここで2つの、エピソードを思い返してみましょう。

ムッタは宇宙飛行士に選ばれたとき、その記者会見で「今、月面にいる弟 日々人に、感謝を伝えたいです」と伝え、取材陣に最高の見出しを提供しました。JAXAの茄子田理事長らも、これには「わかってるねェ彼!記者たちが求める答えを」と絶賛。

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一方、日々人が日本人初となる月面着陸の瞬間に放った言葉は……

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「イェ〜〜〜!!」

日々人は一つひとつの発言に、計算なんてしない。いや、できないんです。思ったことを素直にそのまま伝えるのが、日々人流。

伊藤さんのインタビューをしていて、宇宙兄弟担当編集者のユヒコが一言。

「なんだか、伊藤さんって日々人みたいですね!」

そう。天才肌で、ちょっとつかみどころがなくて、多くを語らない。そんな人の場合、言葉で伝えるのはきっと、最適ではありません。日々人の場合は行動で示せばいいし、伊藤さんの場合は、音楽を聴いてもらえればいい。

ここまでお伝えした上で大変失礼なお話ですが……余計な情報はナシにして、もう一度この曲を聴いてみてください。

——「美しい曲ですね」

それだけでいい。
それ以上の言葉はそっと、胸のうちに秘めておきたいものです。

塩谷舞( @ciotan

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