ALMA MUSIC BOXと宇宙兄弟のコラボレーション・ムービー。いよいよ最後の1作をご紹介します。
ラストを飾るに相応しいのは……やっぱり、このシーン。
宇宙に行くことを約束して、時間差ながらもそれを果たした、南波兄弟の物語。『宇宙兄弟』のダイジェスト・ムービーといっても過言ではないくらいに、重要なシーンがこの3分35秒に収録されています。
いかがでしょうか……?
まるで、短編映画を観終わったような感覚。涙腺に響きます。
この穏やかな音楽を作ったのは、伊藤ゴローさん。世界の名だたる音楽家たちがその才能を絶賛し、「コードの魔術師」とまでも呼ばれる作曲家です。
でもインタビューを開始すると……ピンチ。芸術家は「語る芸術家」と「語らない(語れない)芸術家」に大きく二分されると思うのですが、伊藤さんの場合は圧倒的に後者。コードの魔術師を前に、インタビュアーの私が大苦戦している様子をそのまま、お届けします…(汗)。
■「いい曲できたな」と思っても、忘れちゃうんです
ーー今回は「死にゆく星」をテーマにした楽曲ということで、何か伊藤さんの中でイメージされたものはあるんでしょうか?
伊藤:発想のもとになったものは……うーん、あったと思うんですけど…忘れちゃいました。
ーーえっ。
伊藤:今回に限らず……僕は忘れっぽいんですかね。いつも「このメロディーいいな」「おっ、いい曲できたな」と思っても、その曲をまるっと忘れちゃうんですよね…。
「悲しい気分の曲だった気がするから、悲しい景色をみるともう1回、出来るかな?」と思って夕日なんかを眺めてみても……出てこないし……。
ーーでも伊藤さんはこれまでに、たくさんの曲を作られていますよ。
伊藤:そうなんですけどね。どういう風にして曲を思いつくのか、とか、インスピレーションが湧くのかは、今でもわからないんです。本当に。
ーー長年の積み重ねがあって、職人技のようになるのでしょうか?
伊藤:どうでしょう…昔より今のほうが、音楽には詳しくなりましたけど。でも、音楽のことを知らずにやってても、知識があっても、出来上がりはあまり変わらないと思うんですよね。
だから最近は10代の頃に録音したものを、あらためて使ったりして……「あ、僕は基本的にはなにも、変わってないなぁ」と思っちゃう。もっと成長していくもんだと思っていたんですけどね。そうでもないみたい。
■宇宙も、海も、未知なる暗闇はすこし怖い
ーー(話題を変えて)今回の曲は、どこで制作されたのでしょう?
伊藤:そうですね。青森に帰って……あ、実家が青森市なんです。年に3、4回は帰省してるくらい、好きな町なんですよ。なんにもないんですけどね。
でも県立美術館が家の近くにあって、子どもの頃からそのあたりを探検してたんですよね。いいところですよ。
ーー青森で制作されたんですね!
伊藤:うんうん、そうです。いや、でも作曲をはじめる前に、三鷹の国立天文台を見学させてもらったんですよね。そこで感じたことが、基本になっているかなぁ。天文学者の平松さんに色々教えていただいたんですけどね。やっぱり、宇宙のことを考えるのは、ちょっと怖いなぁ…って。
ーー怖いのですか?
伊藤:はい。宇宙も、深海も、自分の手の届かない暗闇は、とても孤独な感じがします。子どもの頃から、宇宙や深海のことを考えるのは好きなのに、とても怖かった。
そして僕、水が得意じゃないんですよね。宇宙兄弟の中で、日々人君がパニック障害になっていたけど、僕も水に少しトラウマがあって……。
でも、宇宙も、海も、怖がるところじゃあないんですよね。静かな闇は、ぼくらが生まれた場所だから。青森に引きこもって作曲しながら、なんとなく、そんなことを考えていたような気がするなぁ。
ー ー
『sea ice』と名付けられたその楽曲。海のさざ波やカモメの声、そして後半部分で現れるオルゴールの旋律との絡まりは実に美しくて切なくて、それを「解説してください!」と挑んだ自分が少し恥ずかしくなってしまったくらい。
人は何か偉業を成し遂げたとき「語る人」と「語らない人」に分けられる。ここで2つの、エピソードを思い返してみましょう。
ムッタは宇宙飛行士に選ばれたとき、その記者会見で「今、月面にいる弟 日々人に、感謝を伝えたいです」と伝え、取材陣に最高の見出しを提供しました。JAXAの茄子田理事長らも、これには「わかってるねェ彼!記者たちが求める答えを」と絶賛。
一方、日々人が日本人初となる月面着陸の瞬間に放った言葉は……
「イェ〜〜〜!!」
日々人は一つひとつの発言に、計算なんてしない。いや、できないんです。思ったことを素直にそのまま伝えるのが、日々人流。
伊藤さんのインタビューをしていて、宇宙兄弟担当編集者のユヒコが一言。
「なんだか、伊藤さんって日々人みたいですね!」
そう。天才肌で、ちょっとつかみどころがなくて、多くを語らない。そんな人の場合、言葉で伝えるのはきっと、最適ではありません。日々人の場合は行動で示せばいいし、伊藤さんの場合は、音楽を聴いてもらえればいい。
ここまでお伝えした上で大変失礼なお話ですが……余計な情報はナシにして、もう一度この曲を聴いてみてください。
——「美しい曲ですね」
それだけでいい。
それ以上の言葉はそっと、胸のうちに秘めておきたいものです。
塩谷舞( @ciotan )
→MUSIC FOR A DYING STAR – ALMA MUSIC BOX × 11Artists《宇宙兄弟星座早見盤付き 200枚限定》
<関連記事>
■シャロンの月面望遠鏡の元ネタは?天文学者が『宇宙兄弟』を読むと、こんなところが面白い!
■地球外生命体は『必ずいるって信じてるよ。』クラムボン・ミトが選んだのは、宇宙兄弟イチのSFシーン
■もしムッタに、日々人という弟がいなければ、彼は宇宙への夢を捨て去っていたのでしょうか……?